■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2002年 7月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル
■ファイル1 市ヶ尾(後編)
(前回からの続き) 広げられた神奈川県の地図には、縦横・斜めに数本、オレンジ色のマーカーで直線が引かれていた。
「この線は何ですか?」
「古代の街道と推定される基本線。つまり奈良・平安の律令時代の遺跡や古墳、または武蔵・相模の国府と郡衙(ぐんが)跡を結んだ線です」
「そして、この何本かの線が交差する所が・・・」「市ヶ尾!」
「そうです。街道が集中すると言うことは、人や文化も集まる。ようするに市ヶ尾が武蔵の国の中で重要なポイントだったと考えられます」
「特に、この武蔵国府(東京都府中)から市ヶ尾を抜けて、久良岐郡衙(弘明寺のあたり)、そして金沢八景に続く道に注目しているわけです」
 国府と郡衙は今で言うなら県庁と市役所。金沢八景には平潟湾(ひらがたわん)と言う良港があり、鎌倉幕府の貿易港だったと言われている。

 M氏はその平潟湾がそれよりも古い時代、古代武蔵国から房総半島への港運ルートにあたっていたと言うのである。
「あくまでも仮説ですけどね(笑)」
 いつもながらM氏の発想には驚かされる。 
「このあと、朝光寺原遺跡へ向かいますが、一緒にどうです?」

 もちろん断わる理由もない、(他にもネタを提供してもらえるかな)などと姑息な考えもあり同行させてもらうことにした。

住みやすい土地
 朝光寺原遺跡は横穴古墳群から市ヶ尾駅を越えた反対側、田園都市線と東名高速道とに挟まれた谷本川(鶴見川)を見おろす丘陵上にある。現在は住宅街になっていて残念ながら遺跡は残されていない。市ヶ尾町公園に写真入りの説明板があるのみである。

 昭和四十二年から発掘調査が行われ、古墳三基からは鎧、冑(かぶと)、鉄剣、鉄刀など武器、馬具を主体とした副葬品が出土し、武人的性格の強い人物の首長墓だったと推測されている。また縄文時代中期〜弥生時代の集落が発見され、とりわけ関東で初めて環濠集落(かんごうしゅうらく)の姿が確認されたことは注目にあたいする。

「スサノオの八雲立つの歌は知っていますよね?」とM氏。
「ええ、(八雲立つ 出雲八重垣妻ごみに 八重垣つくるその八重垣を)ですよね」
 スサノオノミコトが出雲に住んだときに詠んだ歌で日本初の和歌だと言われている。
「そうです。その八重垣とは環濠集落のことじゃないかと思うんですよ」
「なるほど」

 とその時、まぶたの奥で何かがチラッとよぎって消えた。
 遺跡のあった辺りを散策してみると、住宅街の中に所々、地層の露出した箇所がある。
「これは土器の破片じゃないですか?」
 隊員の一人が地層の中ほどを指差している。よく見ると土の中に茶色の土器片らしきものが顔をのぞかせている。どうやら弥生時代の土器で(朝光寺原式)と呼ばれているものらしい。この地層からは縄文、弥生、古墳、奈良といった各時代の遺物が発見されている。それだけ長く人々が住み続けたと言うことは、この土地が非常に住みやすかったと言う確かな証拠であろう。

八雲神社の謎?
 日も暮れてきたので探検隊と別れて帰路につく。ひろたりあん本部の近くまで来てふと立ち止まる。
「あっ、八雲神社!」
 さっき頭をよぎったのはこれだった。急いで階段を上り拝殿に手を合わす。(やはりそうだ)手を合わせた方角はまっすぐ横穴古墳を向いている。

 八雲神社は全国にある。以前行った足利の八雲神社は古墳の中にあり、川越のはズバリ八雲神社古墳、近くには横穴古墳があった。(一体どういうことだ???)またまた新しい謎が生まれた。これだから歴史探偵はやめられない。

 数日後、私は市ヶ尾の町が見渡せる高台に立っていた。
 古墳と神社の謎はまだ解けない。しかし、古代の市ヶ尾の町がおぼろげに分かった気がする。古代、この土地には街道が集中し、人や文化が交流する重要拠点だったとM氏は言う。何世紀にもわたって人々が住んだ住みやすい土地、都筑郡衙を中心として市が立つほど殷賑を極めた土地、市郷。もしかすると『都筑』という名前はこの土地に都を築くという意志が隠されていたのかもしれない。

写真  現在も東名高速道、国道246号、田園都市線そして横浜上麻生道路がここで交わり、区役所や警察署などの官公署が置かれ、ひろたりあんの本部まである(それは関係ないか)かつて横浜のチベットと言われたのも過去の話となった。

★ ★ ★

エピローグ
 気がつくと桜の花も緑が目立ち花びらが舞い始めている。
 わたしの春は去にました
 みんなわすれたその頃に
 わたしの春がまたきます
 そのときこそは咲きましょう
 わたしの花に咲きましょう
 市ヶ尾が、いやかつての都筑の里がふたたび花開くのだろうか。と再び、まぶたの奥で何かがチラッとよぎった。
「そうだ、花見を忘れていた!」
                        宮 澤

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