■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2003年 5月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■ファイル6 元石川町(前編)
消されゆく地名
 明治二十二年、近代的な地方自治制度を導入するため市町村制が施行された。明治維新の廃藩置県で七万以上つくられた町村が一万六千以下に減った。これが最初の大合併である。次に昭和二十八年、町村合併促進法が制定され、全国一律に人口約八千人を標準として合併が実施された。このとき市町村の数は約三分の一になった。「昭和の大合併」である。

 そして現在「平成の大合併」が全国各地で協議されている。行政サービスや財政面の問題などメリット、デメリットについて各自治体で議論されているが、この合併が全て実現すると四年後には市区町村の数は一八〇〇近くに減るそうである。

 国がこうした合併を行うにはそれなりの理由があるのだろうが、明治、昭和の合併によってどれだけ多くの歴史的地名が抹殺されていったのか知れない。

   地名は単なる記号ではない。そこには様々な歴史や文化、生活や信仰、地形や地質などが刻まれている。先人達が残した「生きた化石」と言っても過言ではない。合併は仕方ないにしても、歴史ある地名を何とか遺していってもらいたいものである。

元からある石川
 元石川は昭和十四年に「都筑郡山内村」が港北区に編入された際、旧荏田村と分かれて新設された。新石川編でも書いたように、すでに横浜市中区に石川町があったことから石川町とはなれず、「元からある石川」と言う意味で「元石川」が誕生したのである。安易に勝手な名前を付けず、なんとか歴史ある「石川村」の地名を残そうとした当時の地元の人たちの熱意に敬意を表したい。「元」がついたことで、かえって地名の由来や歴史を考えるきっかけになるとすれば十分に地名の役割を果たしていると言えるのではないだろうか。

 昭和四十年代、地域の開発が進み、美しが丘、あざみ野、新石川などが新設されると、元石川は県道横浜生田線の平崎橋から保木までの西側、そして平崎橋から嶮山までの北側にちょうど鍵型に残されるのみとなってしまった。

 この辺りは市街化調整区域に指定されていて、昔の自然や農村のたたずまいを地名とともに唯一残している町でもある。

平川の石灯籠
 県道をあざみ野から保木方面に向かって行くと左側に「覚永寺」の看板のある信号にさしかかる。この看板の路地を左に入って、二十m先の早淵川を渡った脇に大きな石の灯籠(高さ約三メートル五十センチ)が立っている。平川神社の参道はこの石灯籠から社殿に向かって真っ直ぐに伸びていた。街灯も無く、まわりは田畑が広がっていたであろう当時、この灯籠が神社を示す目印として、また平川の人々のシンボルとして存在したであろうことが側に立ってみると実感できるほど、立派な灯籠である。地元では「関西から持って来たもの」だとか、「江戸時代の末期、石川村から薩摩屋敷に女中奉公に上がっていた女性が、明治維新で宿下がりをする時に記念に貰い受けたものである」と言った話が伝えられている。

写真  江戸末期の薩摩屋敷。それが本当なら、この灯籠は幕末維新と言う激動の時代、それも革命の舞台の大道具として存在したことになる。
(なんかワクワクしてきたぞ。薩摩藩の屋敷は京都と大阪にあったはず、関西から持ってきたのならそのどちらかなのか・・・?いや待てよ、坂本龍馬がかくまわれたのは伏見の屋敷だよな。いずれにしても、わざわざ関西から運ぶかなぁ?・・・可能性としては江戸屋敷だな。そういえば、日本橋から川崎まで東海道を歩いた時、三田の辺りで薩摩藩の江戸屋敷の碑を見たような・・・)

 JR田町駅(港区)の近く、三菱自動車の本社ビルの所に、勝海舟と西郷隆盛によって江戸城無血開城が話し合われた会見の碑が立っている。
(確かあれは蔵屋敷だったな。あの大きな灯籠があったのなら、たぶん上屋敷の方だろう)  港区芝の増上寺の南、現NTTビル一帯が薩摩藩上屋敷の跡地である。古地図を見ると広大な敷地であったことが分る。

(あっ!芝の増上寺だ)
 かつて石川村は増上寺の裏鬼門で御霊屋料地であった。(地名推理・あざみ野編)
(石川村の女性は増上寺の縁故でお隣の薩摩藩に奉公にあがったのじゃないだろうか?しかし、薩摩藩と幕府の関係でそんなことがあり得るかな?)
(そうか!天璋院篤姫がいた)

 天璋院篤姫(てんしょういん・あつひめ)は薩摩藩主、島津斉彬(なりあきら)の養女となり、徳川十三代将軍・家定に嫁いだ女性である。 「時代的にも一致するし、彼女を通してならありえる話だ。う〜ん、ドラマだ!いや、何と言う推理力!」  灯籠を眺めながらニタニタと空想にふけっていたら、そばを通った子供が顔をひきつらせ、逃げるように駆けていくのが見えた。
                              (つづく)宮 澤(挿画とも)

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