■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2003年 6月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■ファイル6 元石川町(中編)
尾作谷戸(おざくやと)
 大灯籠から覚永寺に向かって歩いてみる。細い路地を曲がり、覚永寺の前を抜けると、地方都市を旅しているような何か懐かしい雰囲気の集落に入り込んだ。この辺りは地元で尾作(おざく)谷戸と呼ばれている。「おざく」意味不明の地名だが、東京近郊JR青梅線に「おざく」と言う駅があることを思い出した。こちらは「小作」と書く。栃木県鹿沼市には石裂山と書いて「おざく山」と言う山岳信仰で有名な山がある。どうやら「作」には「裂く」の意味やサクル(えぐる)または信州の佐久のように「狭く細い行きづまりの谷」の意味があるらしい。

とばのおばさん
 灯籠から歩くこと5分、民家もまばらになってきた。その先、車が一台やっと通れるほどの細い道は右手に山の斜面、左手には竹薮が覆いかぶさる樹木のトンネルへと続いている。そのまま暗いトンネルの中へと歩を進める。竹藪の向こうはグッと谷が落ち込んでいてその向こうはまた山。どこからともなく鶯の声が聞こえてくる。いったいここはどこだ?たまプラの一隅にこんなに緑豊かな自然あふれる場所があったことに驚く。しばらく歩いてトンネルを抜けると、そこは不思議の国であった。(な〜んて「千と千尋」じゃあるまいし)

 そこには昔ながらの農家が二軒並んでいて、その先は行き止まりである。(なるほど、まさしく「狭く細い行きづまりの谷」である)
 話を聞いてみようと手前の一軒(黒沼さん方、因みに尾作谷戸は黒沼家が多い)の庭に足を踏み入れると、ちょうど玄関から御婆さんが出てくるところだった。(もしかして金子さんが言っていた「とばのおばさん」ではないだろうか?)

写真 「こんにちは〜」
「はい、こんにちは」
はたして、(とば)のおばさんであった。名前を名のり、金子さんから聞いてきたことを告げる。
「金子?誰?」
いぶかしげに首をひねる。
「えっ、え〜っと、あっ(かさ)の金子さんです」
「あ〜(かさ)の!ケイちゃんとこか(笑)」
(かさ)とは金子家の屋号である。地元では屋号を言わなければどこの誰なのかはわららない。
(とば)のおばさんの(とば)もこの黒沼家の屋号である。
おばさんが言うには(とば)はとば口(入り口、門口)にあたるから(とば)なのだそうで、奥の黒沼さんの屋号は(ほりきり)、堀を掘ったかららしいが、荏田との水争いが関係しているかもしれないがよくわからないらしい。

 昔、竹畑で二〇〇貫(約七五〇キロ)も筍が採れて東京までリヤカーに積んで売りに行った話に始まり雉子(きじ)が畑でいたずらする話や烏骨鶏の卵の話など、おばさんとひとしきり話をした。まだまだ話を聞いてみたいが、気にかかることがあるので、後日あらためて伺うことにして御礼を言い、来た道を引き返した。

 帰り道、頭の中はさっきの屋号(とば)と(ほりきり)のことで一杯であった。(とば口と言われたが、あの奥にはもう一軒の黒沼さんの家があるだけで行き止まりである。尾作谷戸の入り口ならともかく・・・あそこがとば口と言うことは、もしかしたらもっと先に続いているのだろうか?) 気がつくと竹薮のトンネルはとうに抜けていた。
すると突然、前方の民家からいきなり人が飛び出してきた。

再び登場!
「あーっ、ごめんなさい。あれっ、な〜んだ、宮澤さんか」
牛乳ビンを持ったその人物、誰かと思えば老けたハリー・ポッターこと牛乳店のY倉お兄さん、只今花嫁募集中ではないか。
「余計なことは書かなくていいんだよ(笑)久しぶり!それよりこんな所でどうしたの?今度は元石川だっけ?」
「そうなんだけど・・・あっそうだ!チョッと聞くけど、この辺に城跡があったって聞かない?」
「城跡?さあ〜聞かないな。どうしてまた?」
「いや、この谷戸の奥を(ほりきり)と言うらしいんだけど、(堀切)は城跡に多くみられる地名なんですよ」
「へーっ、そう言えば宮澤さん、城は専門だったよね。確か全国の城を200だか300見て回ったとか」
「正確には372です。実に一七年もかけて、北は北海道から南は沖・・・」
「はいはい、もう何度も聞いたから。それで(堀切)ってのはお堀のこと?」
「いや正確に言うと、堀切というのは山城の一番攻められやすい尾根筋を刃物でスパッと切断したような、敵を遮断するための空堀のことなんです」
「ふうむ、なるほど山城ね〜、そうだ!イサムさんが言っていたけど、近くにジョウヤマって言うのがあって、よく遊んでいたそうだよ。でも関係ないよね」
「えっ!何だって?ジョウヤマ〜どこそれは?」

                              (つづく)宮 澤(挿画とも)

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