■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2004年 2月号  
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
ファイル9新春特別編(後編)
  「船頭」は現在のあざみ野駅からすすき野方面に向かい、嶮山の交差点を右に折れた、現在のあざみ野四丁目と元石川の辺りである。

山道、それとも仙道
 
お調子者の先輩の一言で、思いがけず「船頭」の地名推理に手がかりを得た。
先輩「いや〜実は今、大阪に住んどるねん。正月なんで名古屋に帰省したら、なんや
       名古屋弁が懐かしくてな。まっ、どこに行ってもすぐ馴染んでま う。この順応性が
    取柄やねん」
私 「節操が無いと言うか、調子がいいと言うか」
先輩「そら言い過ぎやろ!それより、いま山に登るって言わへんかったか?
   わしが言うたんは(船、山に登る)やで。船頭さん、つまり指揮する人が仰山おる
   と統制がとれず、とんでもない方向に物事が進んでいく例えや」
私 「分かってますよ。そうじゃなくて、船頭は船頭さんの意味では無くて、山への道、
       山道(せんどう)じゃないかと思ったんです」
先輩「はぁ?なんや、ややこしいな。よう分からん」
私 「この船頭の集落の向こうは嶮山と言う、文字どおり(けわしい山)だったんで す。
      その山に分け入る道、あの中山道(なかせんどう)と同じセンドウ。
      そう思いませんか?」
先輩「おーっ!それだよ、それ。わしもそれを分からそ思って、そう言ったんや」
私 「・・・やっぱり、節操ないですね」
先輩「まてよ、それやったら仙人の仙に道の(仙道)も考えられるで。修験道や山伏と
   関係があるかも知れんな」
私 「なるほど・・・ あっ、そう言えば、隣の荏子田には行者伝説があった!」
先輩「なっ!そやろ。で、それはどんなんやねん?」
私 「荏子田の原谷戸と言う所に行人滝(ぎょうにんだき)があって、その近くには
   閻魔大王を祀る閻魔堂(えんまどう)があったんですよ」
先輩「ふむふむ」
私 「その閻魔堂の閻魔大王と奪衣婆(だつえば=三途の川の川原で罪人の衣服
   を奪い取る鬼女)の坐像には湯殿山の行人、つまり修験者の戒名が刻まれ
   ていたそうです」
先輩「湯殿山、月山、羽黒山の出羽三山は山岳修験のメッカやからな」
私    「それに保木(美しが丘西後編)のところで書いたけど、早淵川の水源で不動
         尊像を見つけられた方も確か出羽三山の修験者ですよ」
先輩「やはり、わしの思ったとおりや。その辺りは古くから修験者や山伏の修行の
    場やったんや。せやから船頭は元は仙道。ま〜ちがいない!」
私 「間違いないって、そんなに簡単に決めないでくださいよ」
先輩「いや、証拠はあるで、さっきの出羽三山や秋田の鳥海山など山岳修験で有名
        な山の麓にも仙道と言う地名があるんや」
私 「そうなんですか?でも、嶮山がいくら嶮しいからって、標高なんか大した事無い
   ですよ」
先輩「アホやな〜。修験者ちゅうんは、熊野や出羽三山など霊山と呼ばれる山々で
       修行をして、全国に散って護摩を焚いたり、雨乞いや病気平癒の加持祈祷
        (かじきとう)をしたり、薬を作ったりしたんや。    せやから山の高さは関係あ
    らへん。元々、仙道と言うのは山などの人里離れた清浄な地で不老長生を得る
    修行法の事。日本古代の山岳信仰が道教や仏教(密教)と融合して、日本独特
     な修験道が生まれたと言われとる。風水や陰陽道もその流れや」

嶮山(けんざん)悪所を踏む
私 「ヘェ〜やけに詳しいですね」
先輩「まあな。今住んどる大阪の藤井寺から奈良にかけて、生駒山、葛城山、金剛山
       は修験道の開祖(役行者・えんのぎょうじゃ)ゆかりの土地なんや」
私 「あの空を飛んで、幻術を使った(役小角・えんのおづぬ)ですね」
先輩「あの話は、弘法大師・空海と同じで、全国に散らばった弟子達によって広めた
       伝説や」
私 「金剛山で思い出した。有名な歌舞伎の勧進帳(かんじんちょう)って知ってます
   よね。その中の『安宅の関(あたかのせき)』のところで、弁慶が関守の富樫に山
   伏のいわれを問われて語るセリフに(山伏のそれ修験の法といわば、胎蔵金剛
   (たいぞう・こんごう)両部の旨を修し、嶮山悪所を踏開きウンヌン)とありますね」
先輩「ほら、嶮山が出てくるやろ。古い時代の嶮山がどれほど険しかったかは分から
   んけど、ありえん話じゃない。昔は山伝いに日本中を移動する山の民と言うのが
   居て、農民や漁民とは違う世界を持っとったんや」
私 「産鉄民や鉱山師、木地師や炭焼き、木こりや猟師などがそうですよね。
   そうそう、船頭には昭和初期まで鉄砲を使わないウサギ狩りの名人がいたそう
   ですよ」
先輩「なっ、こんな遠くにおっても地名を読み解くのは簡単だでかんがね。これからは
   何でも聞いてちょー。わしが教えたるがや」
私 「いや、まだ読み解いたわけでは・・・。それより、また名古屋弁に戻ってますよ」
先輩「あれ???だがや!」                            (宮 澤)  


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