■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2004年 4月号  
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■ファイル10 すすき野(後編)
神社の鈴
 
「どうでもいいけどさ。札幌のすすき野から何で鈴木さんの話になんのよ。しかも地名の推理にもなってないし、ついにネタ切れか?」
いきなり、友人の「甲」のツッコミが入った。
(ギクッ!こいつ何も考えてないようでいて、するどいな・・・さすがに忍者の一族と同じ名字なだけはある)
「バ、バッカだな〜。これからが本題なんだよ」
「あっそう!で、すすきが鈴木なのは分かったけど、なんで鈴なんだよ。ス・スだろ」
「そう、それよ。よくぞ聞いてくれました。神社で鈴を鳴らすだろう。あれと同じさ」
「ホォ〜。それで?」
「あの鈴のすずしげな音色には神を招来して、鈴に繋げてある紐から体に神が降りてくると言われているんだ。つまり、天の神様を地上に招く依り代のすすきと同じ意味なんだな。ん?待てよ、もしかすると、あのガランガランと言う音は、雷の音をあらわしているのかも」
「雷の音ね。稲妻、じゃなくて辻褄は合うな」
「聖木に鈴をつるして豊穣を祈ったから鈴の木、鈴木なんだよ」
と自分で言いながら、かねてからの疑問が頭をよぎった。すべてを農耕に結びつけてもいいのだろうか?鈴の正体ってなんだ?

もうひとつのスズ  
 鈴木さんの同音異字を調べると、他にも鈴城、鈴来、鈴置など、鈴の字を使っているものがある。寿々木、錫木、珠洲木、須々木、鐸木、また魚の鱸などそれ以外のモノを含めると結構 な数だ。その中の一つ「鐸木」の「鐸」の字が気になった。本来は「タク」と読む。そう古代の遺物「銅鐸」のタクである。  

 平成8年、出雲地方の加茂岩倉遺跡から銅鐸が大量に出土して人々を驚かせたことは記憶に新しい。銅鐸は全国各地から発掘されているが、いまだにその用途は分かっていない。因みに熊野と出雲は神話や地名など様ざまな共通点がある。また、熊野本宮大社は出雲の一宮である熊野大社から勧進されたと言う説があり、どちらも祭神は「スサノオノミコト」と共通している。  

 出雲の話はさておき、「鐸木」が気になったのは、この苗字が愛知県の三河地方、特に東部(豊橋、豊川)に多いとあるからだ。
 愛知県の豊橋には鈴の原型だと言われる県指定の天然記念物がある。その名も『高師小僧(たかしこぞう)』。(タカシと言う名前の子供ではない)

鈴の原型
 高師小僧とは沼沢や湿原などで、水中に含まれる鉄分が、酸素やバクテリアの作用で水酸化鉄として沈殿し、葦(アシ)や茅(カヤ)、薦(コモ)などの水辺の禾本科(イネ科)の植物の根元に生成された褐鉄鉱(かってつこう)の団塊のことである。
 火山国で湿原の多かった日本では北海道や琵琶湖など各地で見つかっている。
「高師小僧のコン小僧/雨降りあげくに來て見れば/薄(すすき)の中にねゝしてる、土からぴよんぴよん飛んで出る」と言う地元に伝わる高師小僧の詩がある。

 豊橋市の高師原で、多量に見つかった褐鉄鉱は、雨に流された地表からポコポコ顔を出していたので、この愛らしい?名前が付いたのであ ろう。

 5年程前、豊橋市立地下資源館を訪ねて、高師小僧の現物を見た。茶褐色の棒状の木の根っこのような形で、大きさは1〜10センチ。仲良く並べられた姿は確かに小僧のようだ。  
 このような、褐鉄鉱の団塊は振るとチャラチャラと音がすることから鳴石(なりわ)と言い、太古はスズと呼ばれたことから鈴の原型ではないかと言われている。

水薦刈信濃
「なるほどね。茅、葦とかイネ科の植物の根っこに出来たのがスズで、稲の穂を積んだ穂積がスズキってことか。さっすが宮ちゃん」
「もっと言えば茅、葦を積んだものだって穂積と呼べないことは無い」
 だが、スズと呼ばれた褐鉄鉱が何の用途もなさないならば、それもいいだろう。しかし、話はそれほど単純ではない。

 古代、砂鉄や鉄鉱石を使って製鉄が行われる以前の日本では、この褐鉄鉱が製鉄の原料として使われていたのである。 当然、この貴重な原料を採取するためには儀式も行われていたであろう。先述の銅鐸がこの儀式のために使われていたとは考えられないだろうか?銅鐸の「鐸」はサナギとも読む。褐鉄鉱の形状はまさに蝶の蛹(さなぎ)に似ている。と言うより、「鐸」に似ているから「蛹」なのかも知れない。

  七年に一度の奇祭「御柱祭り」(今年4月〜5月)が行われる長野県の諏訪大社には、鉄で出来た鈴がある。「鉄鐸」と書いて「サナギ鈴」と言う。その形状はまさに褐鉄鉱のレプリカ。諏訪大社のある茅野市は、その名のごとく茅が生い茂った野原だったのだろう。  万葉集の信濃の枕詞は、「水薦刈(みすずかる)」。そうスズを刈るのだ。 因みに私の名字「宮澤」は長野県に多い。宮サワ=宮スワ=宮諏訪、これは諏訪の宮から来ているのだ。と誰かが言っていた。
                   「だからどうした!」

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