■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2004年 5月号  
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
ファイル11 黒須田・鉄編(前編)

「黒須田でとれる米はうまい!」と言う評判だったらしい。まだササニシキやコシヒカリなどが無かった時代のことなので、どれほどの美味さだったのかは分からないが、鮨米に最適な甘みがあったそうである。 黒須田には権現様の湧水があり、この水が農業用水に使われたことが美味しい米を育てたとも、土壌が良かったのだとも言われている。

 川崎市麻生区を水源とする黒須田川は、すすき野、黒須田、鉄町を蛇行しながら流れ、現在の市ヶ尾高校の所で鶴見川に合流する。それぞれの集落にある湧き水を集めた黒須田川は、水量も豊富でウナギや鯉も沢山釣れたそうである。
 すすき野の町からこの川沿いを黒須田に向かって歩く。早淵川同様、コンクリートで固められた姿は川と呼べるものではないが、静かな住宅地を流れているので散歩をするのには最適である。近年、ダイオキシン汚染が問題になっている黒須田川だが、時おり見かける鷺や鴨、鯉など自然の姿も眼にすることができる。

クロの語源 
 地名辞典によるとクロは「物のかたわら、隅、山などの斜面、小高い所」と言う意味や、「黒=暗い」から「日陰地」、または「田んぼの畦」のことだとある。今でも地方によっては、畦のことをクロと呼ぶが、土を盛った畦も田んぼのかたわらの斜面、小高い所には違いない。どれも似たような意味合いである。
 須田はス・タで洲、または砂のある所だから、砂の溜まった洲の盛り上がった土地を言うのだろうか?クロガネのネは根または峰とあるから、畦の上の峰なのか畦の下の方なのか分からない。  
「畦が曲がりくねった場所」だと言う説もあり、当時の黒須田川は曲がりくねった暴れ川だったそうだから、あながち間違いでもなさそうな気もする。
 鉄町を「てつまち」と読んだ人は多いのではないだろうか。かく言う私も、最初地元の人に「テツ町」と言って笑われたことがある。(普通、テツだろう)因みに鉱物を色で表すと、白金(しろがね)は銀、黄金(こがね)は金、赤金(あかがね)は銅、青金(あおがね)は鉛。そして黒金が鉄である。
 クロガネを黒金ではなく鉄と表記するところなど、素直に製鉄関係の地名だと思ってしまう。普段アマノジャクな私が、こんな時だけ素直になるのもヘンな話だが。そうしないと話が続かないのでしょうがない。インスピレーションと言うヤツだ。と言ってもまったく根拠が無い訳ではない。

神奈川は金川
 神奈川県は昔「金川」と書かれていた。県内には鉱物資源が豊富で、特に砂鉄は今でも湘南から鎌倉、三浦半島と相模湾の海岸で大量にとれる。
 神奈川の地名は、現在の神奈川区の辺りを流れていた小さな川のことだと言う説がある。水源の分からないほどの小さな川なので「上無川」、それが好字を当てて神奈川になったのだそうだ。しかし、そんな源流も分からないちっぽけな川に、に、神の字を付けて地名にするだろうか。

カンナ川 
 群馬県と埼玉県の県境に「鬼石(おにし)」と言う町がある。十一月〜十二月にかけて咲く「冬桜」と、庭石で有名な三波石の産地として知られているが、節分の日に全国の鬼を集める「鬼恋(来い)祭り」は、毎年ニュースになっている。その鬼石の町を流れているのが「神流川(かんながわ)」。その上流にはダムによって出来た「神流湖」がある。
 神奈川と神流川。もしかすると神奈川も元は「カンナ川」だったのではないだろうか。それではカンナとは一体何か?
 日本はカナダやニュージーランドと共に砂鉄の世界三大産地と言われている。砂鉄は花崗岩(かこうがん)などに含まれる鉄分が風化して、岩から分離したものである。この花崗岩の山を崩して川に流し、その比重の大きさを利用して砂鉄を採取する方法を「鉄穴流し(カンナ流し)」と言う。神流川はこの鉄穴流しと関係していると思われる。全国に残る鬼伝説の土地の多くは、産鉄遺跡が残っているのである。

金鑚(かなさな)
 神流川の流域、群馬県児玉郡神川町には、武蔵の国二の宮「金鑚(かなさな)神社」が鎮座している。この神社には本殿はなく、背後の御室山が御神体となっている。(この祭祀形態は古く、奈良県の三輪山など、やはり鉄を産出する山に多い)御室山に連なる御岳山の中腹には、高さ9m、幅3mの巨大な「鏡岩」(国指定天然物)が露出してい て、この岩からは今でも雨が降ると、砂鉄が流れ出るそうだ。「金鑚」は「金砂」の意味にもとれるし、もしくは前回の「さなぎ」との関係も考えられる。
 言い忘れたが、信州上田出身の真田幸村。このサナも鐸(さなぎ)と考えたらどうだろう。真田一族も産鉄に関係する一族で、鉱物資源を背景に、戦国の世に踊り出たのかもしれない…。
                          つづく


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