■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2005年3月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■番外編 街道を往く 〜鎌倉街道-2〜

  荏田の真福寺には鎌倉時代の作だという木造の釈迦如来立像(しゃかにょらいりゅうぞう)が安置されている。国道246号から柚木(ゆのき)に抜けるバス通り。新都市病院の裏手に真福寺が移されたのは大正十一年。元々は荏田の交差点から新石川に抜ける道の東名高速の高架の手前を右に入った荏田町自治会館の辺りにあった。釈迦堂があったことから、この道を釈迦道(しゃかんどう)と呼ぶことは地名推理・荏田編に書いた。

花まつり
私たちは、現在の真福寺の境内にいる。

「この釈迦如来像って国の重要文化財になっているんですね」と岡ちゃんが感心しながらつぶやく。

「なんでも、寄木造りで頭髪が縄状になっている珍しいお釈迦様だそうだよ。鎌倉時代の初期のものだそうだから、ちょうどこの鎌倉道が整備された頃に作られたんだね」

 「へぇ〜。見てみたいな〜」

 「見たかったら4月8日の花まつりの時に来ればいいよ。その時だけ公開されるそうだから」

「花まつり?」

「えっ、知らないの。お釈迦様の誕生を祝うお祭り。お釈迦様に甘茶をかけてお祝いしなかった?」

「あっ、甘茶ね。ガクアジサイに似た花が咲くヤツ。確かユキノシタ科だったかな。葉っぱを乾かして煮出すと甘いんですよ」

 「さすが花屋さん。甘茶って花があるんだ?」

 「甘茶は低カロリーで甘味も砂糖の1000倍。だから歯磨きや醤油、糖尿病や肥満の人の甘味料にも使われてるんです。宮澤さんもそろそろ・・・」

「そう。甘茶でカッポレ♪って、オイ!そんな情報いりませんから!」  

 真福寺の裏手に回りこむようにして細い路地を進んでいくと、鬱蒼とした竹林が途切れた辺りに小さな階段がある。この階段を上ると少し広い坂道に出る。鎌倉道はここに続いている。この坂を上ると住宅街の中を平坦な道がしばらく続く。

 剱神社の伝説
 
この鎌倉街道を探訪するにあたっては芳賀善次郎氏が昭和五十六年に著された「旧鎌倉街道探索の旅・中道編」を参考にしている。

 なにせ二十四年前の本。宅地造成が始まったばかりの当時は、森林の中に旧街道とおぼしき尾根道が残っていたようだが、今はどこにでもある住宅街となっている。ただ基本となる道は舗装されて残っているようなので、地図と照らし合わせながら進む。

「ちょっと寄り道するからね」  

 荏田第三公園の手前、愛和幼稚園入り口の立て看のあるT字路を左折する。坂を下り、幼稚園と梨園の前を通って、畑の道をしばらく行くと、右手に駐車場がある。その手前の小道を入り、尚も下って竹林と杉木立を抜けると拝殿横から境内に出た。荏田の総鎮守、剱(つるぎ)神社である。

 「へぇ〜、神社らしいというか、今にも忍者が出てきそうな雰囲気ですね。神社はこうでなくっちゃ」

 なるほど、鬱蒼とした森に囲まれた境内は昼でも暗く、ひっそりと静まりかえっている。拝殿脇の桜の木の所にある社誌には、興味深い伝説が書いてあった。

 「何々、むかし陸奥の国(東北)より鎌倉の刀鍛冶のもとへ炭を売りにきた商人がいた。商人が毎年やってきてくれることに感謝した刀鍛冶は、自分が作った刀を商人に贈ると、商人は大そう喜び、刀を持って国に帰ろうとして、ここを通りかかったそうな。のどが渇いた商人が、たまたまそこにあった泉の水を飲むと、酒に酔ったように眠りこんでしまったんじゃ。すると木の上から大きな蛇が大きな口を開けて降りてきて、いまにも商人が飲み込まれようとした・・・その時。刀鍛冶からお礼にもらった刀がスルスルと自分から抜け出て、その大蛇を一刀両断。商人は命を助けられたお礼に、その刀をこの地に祀って剱明神としたそうな〜」

東北と産鉄族
「口調が(日本まんが昔話)になってますよ。でも本当に鎌倉街道はこの辺を通って東北まで続いていたんですね」

 「そういうことなんじゃな〜」

 「もういいから!それにしても。炭をわざわざ東北から仕入れていたんですか?炭なんかどこにでもあるのに」

 「おっ、やっぱり君もそう思う?確かに不自然だよね。もしかすると炭じゃなく砂鉄。いや、この男自身が鍛冶師だったのかもね」

 「どういうことですか?」

「鉱物資源の豊富な東北は、製鉄技術の面でも進んでいたんだよ。以前平泉の近くの舞草(もくさ)という土地に行ったことがあるんだけど、そこで作られた舞草刀(もくさとう)という刀は日本刀の源流だと言われているんだ。義経に出てくる金売り吉次は金(きん)の商いをしていたと言われているけど、真金、つまり砂鉄を売る商人だったんだ。当時、砂鉄は金以上に需要があったからね」

 「ふ〜ん。それにしたって、大蛇は嘘でしょ。意味がわかんないっすよ」

 「出雲神話に出てくる八岐大蛇(ヤマタノオロチ)はオロチ族という製鉄を生業(なりわい)とした一族だとの説があるんだよ。そのオロチを退治したスサノオノミコトもまた渡来系の産鉄族。スサノオがオロチの体から天叢雲(アメノムラクモ)の剣を取り出したのは、鉱物資源やノウハウをオロチ族から奪ったのだという解釈もされているんだよ」  

 剱神社の祭神は、その素盞嗚尊(スサノオノミコト)である。

 「さ、時間が無いから先を急ごう」

 もと来た坂を上り、幼稚園の看板があるT字路まで戻る。第三公園の前を通って行くと、右側が崖状に開けているので尾根道を歩いていることがよくわかる。

                                               つづく


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