■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2005年7月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
番外編 街道を往く 鎌倉街道 6

 ふたたび、鎌倉道に戻る。先ほどの「はっさく」の看板(電気屋さんでした)を左に曲がり、十メートルほど進むと、民家の植え込みの陰に、庚申塔と道祖神が隠れるように、ひっそりと佇んでいた。

道祖神の地。佐江戸
「道祖神って、旅の安全を守ってくれるんですよね」

 そう言ってしゃがみ込み、手を合わせてから、カメラを向ける岡ちゃん。

「学生時代、信州まで道祖神の写真を撮りに行ったことがあるんですよ。向こうのは、おもに男女が仲良く並んでいる双体道祖神なんですけど…。この道祖神は文字が刻んであるだけですね」

「正月の松飾りや注連縄(しめなわ)を持ち寄って焼く(どんど焼き)って知ってるだろ」

「ええ、知ってますよ」

「どんど焼きをする場所のことを(道祖神場)と書いて(どんどば)もしくは(さえのかみば)と言うんだ」

「さえのかみば?」

「そう。道祖神は別名、障の神(さえのかみ)賽の神(さいのかみ)とも呼ばれ、村に悪霊や災いが入ってくるのを防ぐという意味あいもあるんだよ。だから、村の境や中心に祀られることが多いんだ。この川和の隣に佐江戸という町があるだろ。佐江戸は(さえのかみの土地)、道祖(さえ)土(ど)から来ていると言われているんだよ」

「そうなんですか〜?僕が聞いたのは、旅人がさあ、もうすぐ江戸だ≠チて言ったので、さあ、江戸が佐江戸になったって話ですよ」

「アハハハッ。ありえねぇ」

「でしょ。まるで、宮澤さんのオヤジギャグですよね」

「・・・悪かったね」

川和宿の中心
「アッ、また鳥居ですよ」

道祖神から歩くこと百メートル。小さな鳥居が目に入った。

「何これ?建物は赤いし、名前も書いてなければ賽銭箱もない。鳥居が無きゃ、消防団のポンプ小屋かと思っちゃいますよ」

「バチ当たりな。でも、確かに」 社は赤いトタンにおおわれていた。その横には「二十三夜」と書かれた石碑が建っている。

「何ですか?二十三夜って」

「お月見のことだよ。十五夜とか十六夜(いざよい)とか言うだろ」

「へぇ〜、聞いたことないな〜。十五夜は、まんまるお月様ですよね。二十三夜は?」

「下弦の月。真夜中に昇ってくる半月のことだよ。「三夜待ち」とか「産夜」とも呼ばれて、この月を拝むとお産が軽くなることから、女性が集まって講を開いたりしたんだよ」

 話しているところに、ご近所とおぼしき年配の女性が通りかかった。

「すみません。この神社は何という神社ですか?」と尋ねると、

「えっ、ここ?ここは(てんのうさん)っていうのよ」との答え。

「えーっ、てんのうさん?天皇陛下を祀ってるんですか?」

「違うよ。その天皇じゃなくて、天の王様。牛頭天王のこと」

「ごずてんのう?」

「頭が牛で体が人間。祇園精舎の守り神。別名、スサノオノミコトだよ」

「また、スサノオですか!」

「そう、スサノオ。それより、この本(旧鎌倉街道・探索の旅)には(牛頭天王を祀る神社のある場所が川和宿の中心だった)と書かれている。どうやらココがそうらしいね」

地蔵渡し
 その川和宿の中心から、さらに進むと、前方に薄緑色の真新しい橋の欄干が見えてきた。鶴見川である。真新しいのは当たり前。現在、市営地下鉄4号線の工事の真っ最中であった(東横線・日吉駅〜横浜線・中山駅間。平成一九年開業予定)。

 地下鉄の高架?をくぐり、工事現場を迂回して、隣の精進橋を渡る。橋の向こうは、北八朔町である。

「またまた本によると、この辺りには昔、(地蔵渡し)と呼ばれる渡し場があったそうだよ。きっと川幅も今よりずっと広かったんだね」

 そのお地蔵さんは、大水のときに天宗寺(てんそうじ・精進橋の東北八百m)に移されている。

「やっぱり、川は輪のようにはなっていませんね」

「以前、黒須田編で鶴見川流域には金属資源、特に鉄に関する地名が数多く残っていると書いたけど。さっき話した大磯の川匂(かわわ)にも鉄関連の地名が残っているんだ。たとえば・・・一色とか、金クソとか」

「鼻くそ〜?なんじゃそりゃ」

「鼻くそじゃない。金クソ。製鉄したあとにできる鉄くずのこと。一色は鍛冶師の村に関係した地名なんだよ。その押切川の河口の二宮海岸は砂鉄で真っ黒だったそうだよ」

「つまり、河輪や川匂は製鉄と関係があるって言いたいんですね」

「川が輪になっているところは、砂鉄が溜まりやすいだろ。今は佐江戸の先で大きくカーブしているけど、流れも今とは全然違っていたんじゃないかな」

 橋を渡って、二つめの信号を左に曲がり青砥町へと続く道が鎌倉道である。

「さ〜て、ここからが問題だぞ」 本の地図はここから先が途切れていた。  

                           つづく                                                                 


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