■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2005年8月号
夢の吹く丘 〜都筑の丘のすばらしき人々〜
■早稲田大学国際教養学術院教授
 
 関根 学 さん

 初めて狂言を知ったのは、中学の教科書でした。太郎冠者(たろうかじゃ)という登場人物とコントのようなユーモアのある筋書きだけは、なぜかよく覚えています。

 その狂言を実際に観賞したのは、それから数十年後。京都祇園のヤサカ会館で雅楽や京舞、文楽などと一緒に上演されていました。観光ルートのため、客席の半数は外国人。

 観はじめてすぐに学生時代の記憶がよみがえってきました。曲目は「棒縛り(ぼうしばり)」。それまで、静かに観賞していた外人さんたちの大きな笑い声。会場は、国境を越えた「笑い」に包まれていました。
 

「KYOGEN」
 2005年9月26日、青葉公会堂で「ローマKYOGEN一座」の来日公演が開催される。

 舞台に立つのは、ローマ大学ラ・サピエンツァ日本研究科の6人のイタリア人学生。好評を博した昨年に続き、二度目の来日公演となる。

 俳句を詠む。空手は黒帯。三島由紀夫や坪内逍遥を研究し、アニメの主題歌は空で歌える。日本人以上に日本文化を愛する日本かぶれのイタリア人学生。昨年、そんな彼らはたった4週間の稽古で見事に日本ツアーを成功させました。

 この公演の演出と翻案。そして、彼らに狂言の指導をされたのが、今回ご紹介する早稲田大学の関根勝教授です。

 昨年1月、国際交流基金の派遣教授としてローマ大学に出向され、特殊ゼミとして狂言の指導をされたことが今回の公演のきっかけになったのです。

「それもあるんですが、イタリア人の持っている演技力なんですよ。それと表現が豊かで華があるんです。たどたどしい日本語が逆に魅力になって、あちこちで笑ってもらいました」

 その演目『酔っ払いの仕返し』と『恋の骨折り』の二つは、シェークスピアの「十二夜」が下敷きになっています。

 「私の原案というのは、西洋の古典喜劇なんです。西洋の古典喜劇はスジが複雑で、上演時間だって長い。2時間半、3時間のものがある。狂言だったら、せいぜい20分とか25分ですよね。私の狂言はその真ん中とって、およそ一時間。西洋から見ると短い。狂言だったら倍以上あるんです。だから、西洋の喜劇にある 複雑な展開を入れることが出来る。最初に笑わせても、充分最後まで持っていけるんですね。だから、古典の狂言よりも、うーんと楽しんでもらえるんですよ」

1+1は2ではない。 
  古典芸能に精通しておられる関根教授は、観世流の能楽師の家系に生まれました。

「大学院をやりながら、能の稽古もしていました。三十歳のときに、イギリス政府文化部の奨学生として留学をするか、能の世界に弟子入りするか、どちらを選ぶかということになったんです・・・。当然楽しいイギリス留学を選びました(笑)」

  その後、イギリスでの二十五年におよぶ暮らしの中で、シェークスピアを始め、英国の現代劇の研究を始められたそうです。

  帰国後、イタリア中世の即興喜劇コメディア・デル・アルテと狂言の共通点に着目。先述の「棒縛り」をイタリア語に訳し、コメディア・デル・アルテ調に演出して上演したり、「ヴェニスの商人」を翻案した「堺の商人」をイタリア語に翻訳するなど、実験的な東西文化の融合に力を注いできました。

「単純な1+1が2じゃなくて、1+1イコール4とか5を狙っているんです。あわよくば7くらいまで持っていこうと。(笑)それは、西洋の持っている喜劇の強さですね。これをいかに狂言という制約の中に押し込めるか。しかし、完全に押し込めるんじゃない。

 私の場合、(狂言に)片足入れておいて、もう一方の足でどこまで行けるか。より遠くまで行ければ、上に向って更に高く立つことができる。だから、1+1は2じゃないんです」

ひとつのジャンルとして
  「狂言というのは、今の人たちにとってそんなに面白いものじゃないと思います。昔の人と今の人ではスピードが違うんです。昔の人だったらほのかな笑いが面白いと思ったんでしょうが、今は違う。これを面白くしているのは、400年、500年の伝統を持っている演者の技量なんです。それがプロなんです」

 『KYOGEN』が一つのジャンルとして確立すること。将来は、外国人の学生でなくプロの能楽師に「KYOGEN」を演じてもらいたいと関根教授。

 「まずは日本で。たとえば「スーパー歌舞伎」のようにですね。ただ、お客さんの目を驚かせるのではなく、西洋の古典喜劇を持ってきて、もっと面白いものにする。尚かつ上品に。世阿弥の流れをそのまま受けて、崩してはいけないものは崩さないということですね。吉本のようにはしません(笑)」

 世阿弥は、その著書「風姿花伝」の中で秦(はた)の苗字を名乗っています。また、能狂言の原型である猿楽の祖は、聖徳太子の側近、秦河勝(はたのかわかつ)だと言われています。シルクロードを通って先進技術や文化を日本にもたらした秦一族。その真偽のほどは分かりませんが、今回、ローマと日本の文化交流。西洋文化と日本文化の融合といった関根教授のお話を聞いているうちに、太古から綿々と続く不思議な因縁のようなものを感じずにはいられませんでした。

 「日本と西洋の文化を融合させ、豊かなものを創り上げたいと思っています。笑うだけでなく、心が動くようなもの、古い日本の良さを若い人たちに再認識して、日本のあるべき姿を観てほしいですね」
 

ローマKYOGEN一座 来日公演

9月26日 青葉公会堂

開演18:30

「酔っ払いの仕返し」「恋の骨折り」
正面指定席2,500円 自由席2,000円
席の予約・お問合せ(13時〜20時)
Tel/Fax.03-3584-2085
携帯電話 090-7178-2155
E-mail mas_sakine@nifty.com

公式サイト http://www008.upp.so-net.ne.jp/tokyo/kyogen
 


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