■ひろたりあん通信バックナンバー
 ▼2005年9月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
番外編 街道を往く 鎌倉街道 8   

青砥藤綱
 時刻はもう正午に近い。ファミレスはサラリーマンや子供連れのお母さん達でほぼ満席状態であった。

「ふぁ〜、満足。満足♪」

 冷たい飲み物のはずが、時間も時間だということで、しっかりハンバーグランチまで奢らされる羽目になった。

「で、アオトフジムラでしたっけ?」

「フジツナ。青砥藤綱だよ。鎌倉幕府の執権・北条氏に仕えた武将で、清廉潔白。質素で人情味のある、大賀越前のような名裁判官だったと言われている人物だよ」

「聞いたことないな〜」

「有名な話が残っている。ある日、藤綱が鎌倉の滑川(なめりがわ)に架かる橋を渡っている時、うっかり銭十文を川に落としてしまったんだ」

「ドジですね〜。それで?」

「夜だったんで、家臣に松明(たいまつ)を買ってこさせて手分けして拾わせたそうだ。その松明代がなんと五十文!」

「バッカじゃないの!十文拾うのに五十文使ったんですか?迷惑な話だ」

「家来や見物人も、そう思ったんだろうね。藤綱に尋ねると、彼はこう言ったんだ。落とした十文銭は拾わなければ永遠に川底に沈んで使われない。それは天下の財産を失ったことになる。しかし、松明を買うのに使った五十文は、自分には損だが商人の利益になるだろう。あわせて六十文は天下にとって全く失われていないではないか。とね」

「なるほど!自分の損よりも、社会の利益を第一に考えたってことですね」

「そのとおり」

「自分の利益しか考えない政治家や官僚に聞かせてやりたい話ですね。で、その藤綱がこの青砥に住んでいたってことですか」

「言い伝えだけどね。ただ、東京葛飾区の青戸にも同じ伝説が残っているからね。本当の所はわかんないんだよ」

「な〜んだ。でも鎌倉街道沿いだから、こっちが本当でしょ」

「さあ、それはどうかな。葛飾区の青戸も駅名は青砥で、地元では大戸と呼ばれていたそうだよ。(逢う戸)がなまったという説もあるけど。亀戸、奥戸、今戸と戸の付く地名は、江戸の町を流れる荒川や中川の船着場や渡し場だった所なんだね。全国的に津や戸は海や川の港のある町に付けられている。とくに河川の港は支流との合流点にあるんだ。だから、鶴見川最大の支流・恩田川との合流点、この青砥も(出逢う港)だったのかも知れないね」

「なるほどね。大きいより出逢う方がロマンチックですね」

「さっ、そろそろ行くぞ!」

 ファミレスを出て道路を渡り、「中山地区センター」の前を駅方面に向う。(このまま、まっすぐ進み踏み切りを右に行くと中山駅に出る)しかし、すぐ次の交差点を左折して、百メートルほど歩いて、また右側の細い路地に入りコンクリートのフェンスに沿って進む。少し広い道に合流するが、そのまま進み「ブランシェ中山」というマンションの脇の細い路地に再び入る。しばらくクネクネと住宅地を歩き、小さな踏切を渡って更に、細い路地の住宅地を行く。

「この辺に住んでいる人は、こんな路地が鎌倉街道だなんて知らないで暮らしているんでしょうね」岡ちゃんがつぶやく。 

駅周辺なら、どこにでもある普通の路地だ。

「ここにかぎらず、歴史の重要な舞台だと知らずに誰もが暮らしているのさ。この私も、子供の頃(忍者ごっこ)をして遊んだ樹木の鬱蒼とした公園が、実は尾張徳川家の庭園だったり、肝試しをしに行った神社が織田信長の居城跡だったり。なんて、後で知って驚いたものだよ」

「確かに、歴史に興味の無い人にしてみたら(だから、どうした?)ってなもんですよね」

 この何でもない路地も、もしかしたら頼朝や義経が馬を走らせた道だったかもしれない。

謎の杉山神社
 白く高い塀が右側に現れた。塀の上からは卒塔婆がのぞいている。地図には「真言宗・長泉寺」とある。その寺の脇から広い通りに出た。県道109号「青砥・上星川線」。つまり、青砥から都橋を渡った道路はここに続いているのだ。この長泉寺に隣接して「杉山神社」がある。

「杉山神社というのは謎の神社なんだよ。鶴見川水系流域だけに四十数社。武蔵風土記には七十二社あったと書かれている。言ってみれば横浜の七不思議の一つだね」

「へぇ〜。七不思議。で、あとの六つは何ですか?」

「えっ!え〜と・・・」

「お〜い!ただ七不思議って言いたかっただけか〜」

「ははは・・・。でも、杉山神社の話は本当だからね」

「わかりました。確かに固まって七十二社は多いですね」

「ただし、同じ名前なのに祀られている神様は、日本武尊(ヤマトタケル)だったり、五十猛(いそたける)だったりと統一じゃないんだよ」

「日本武尊は聞いたことありますよ。九州や東北の先住民を討伐した英雄でしょ」

「討伐したという言い方は朝廷側の言い分だろ。先住民の側からしたら侵略だよ。それにタケルは一人の英雄のことじゃなく。軍隊そのものを指すとも言われている。まっ、それはいいや。それより問題は五十猛なんだよ」

「イソタケルなんて聞いたことありませんよ」

「五十猛は、朝鮮半島から樹木の種を持ち帰って、日本列島に蒔いて育てたといわれる植林、造林の神様。そして、父親はスサノオノミコトなのさ」

「ゲッ、またスサノオ!」

「それだけじゃない。地下鉄センター南駅近くの杉山神社(茅ヶ崎社)は、四国から渡ってきた忌部(いんべ)一族が奉祀した神社だと言われている」

「いんべ?どっかで聞いたな・・・。あっ、織田信長の先祖だ!」
                                             つづく

                                                                                                            


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