■ひろたりあん通信バックナンバー
  ▼2005年12月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
番外編 街道を往く 鎌倉街道 11   

知らねぇ神社
 通称「白根通り」。八王子街道(国道16号)と中原街道を南北に結ぶ連絡道だ。白根小学校で左折した二人は南の八王子街道に向かって歩いている。

 しばらく行くと、「生鮮館あさひ」というスーパーの手前。右からやってきた「中堀川」が白根通りと交差する。このあと道路の左側に中堀川が平行して流れるため、歩道が無くなり、道幅もぐっと狭くなった。

「まただよ!川和の通りとおんなじで、歩行者が危なくて歩けないじゃん!」

 岡ちゃんが怒る。後からはバスやトラックがひっきりなしに通る。確かに危険だ。右側に移るが、しばらくは車に注意して歩かなくてはいけない。

 300メートルほど歩くと、川は左方向にそれて行き、道幅も広がった。再び道路の左側に移る。100メートルほど歩くと「代官前」というバス停があった。江戸時代、この辺りに斎藤氏という代官の屋敷があったそうだ。

 そのバス停横の呉服屋さんの角を曲がる。

「うっ、鳥居だ。また神社に寄るんですか〜?」

 さすがに岡ちゃんも疲れてきたようだ。

「鎌倉街道を歩くからには、この神社は絶対にはずせないんだよ」

「は〜ぁ。いつになったら鎌倉に着けるんだろ。で、今度は何という神社ですか?」

「しらね神社」

「知らねぇ神社?知らないのに、はずせないほど重要なんですか?」

「岡ちゃん。相当疲れてるね。知らねぇじゃなくて白根。ここに公園があるからベンチに座って休んでな。お不動さんと滝の写真を撮ったら、すぐ戻る」

「そうですね〜、じゃあ待ってい・・・えっ、今なんて言いました?ここに滝があるんですか?」

「ああ、白糸の滝っていうのが、この森の中にあるらしいよ」

「白糸の滝♪早く言ってくださいよ〜。じゃあ、行きます。マイナスイオンを浴びれば元気ハツラツ!疲れも吹っ飛ぶというもんですよ」

「ふ〜ん。現金な奴だな。じゃ、まずお不動さんから」

 公園の向こう側に白根不動はある。弘法大師作と伝えられる5センチほどの不動明王の坐像が祀られていて、地元では神社としてよりも「白根のお不動さん」として親しまれている。

八幡太郎と白糸の滝
「前九年の役(えき)とか、後三年の役とかは知ってるよね?」

「へっ、JRの駅ですか?それとも私鉄?何線ですか?」

「その駅じゃない。役(やく)と書くの。戦争のことだよ。確かに奥羽本線に後三年という駅はあるけど…」

「ああ、戦争のことね」

「頼朝や義経の四代前に源義家という人がいたんだよ。通称、八幡太郎義家(はちまんたろう・よしいえ)。鎌倉幕府ができる100年ほど前。彼と父親の頼義(よりよし)は、東北(陸奥)の豪族安倍氏と戦争をした んだ。これを『前九年の役』という。その十一年後、滅んだ安倍氏に替わって陸奥を支配していた清原氏の相続争いに介入、一方の清原清衡(きよひら)のちの藤原三代の祖、藤原清衡に義家が加担して起きた戦争を 『後三年の役』というんだ。この二つの戦(いくさ)によって源氏は東国に基盤をつくったといわれている」

「ちょっと待って、東北じゃなくて東国?東国って関東なんでしょ。なんで?」

「朝廷は、この戦(いくさ)は源氏が勝手にやったこと、私闘と見なしたんだね。で、結局、義家も戦に刈り出された東国の武士たちも、骨折り損のくたびれもうけ。勝ったのに恩賞は何も出ない。そこで、義家が私財を投げ打って彼らの功に報いたというわけ」

「ふ〜ん。源義家って立派じゃないですか。なるほど、だから源氏は武家の棟梁っていわれるんですね」

「うっ、それは…。まっ、いいや。ここではやめよう。それで、前九年の時に義家は兜のなかに不動明王の坐像を納めて戦った。勝利を得たお礼に鎌倉権五郎景政(ごんごろう・かげまさ)という武将に命じてお堂を建てさせたのが、このお不動さんなんだよ」

「そんなに古いんですか?」

「いや、鎌倉幕府が滅んだ新田義貞(にった・よしさだ)の兵火の時に焼失している。江戸時代になって畑から出てきたので、あらためて建て直されたそうだ。そういえば、この近くに鬢手洗池(びんだらいけ) というのがあって…」

「銀ダラ漬け?西京漬けか何かですか?僕は照り焼きの方が好きです」

「あほんだら。池の名前だよ。銀じゃなくて鬢(びん)。耳の横の、ほら、この毛だよ」

「イテテテ!引っ張んないでくださいよ」

「源頼朝が奥州藤原氏を攻めるために東北に向かった際に、先祖の義家にあやかって、この白根不動にお参りしたんだよ。そのとき、近くの池で兜を脱いで、鬢をなでつけたから、この名前が付いたそうだ」

 お不動さんの裏側に回ると、川のせせらぎが聞こえてきた。さきほどの中堀川はここに流れている。川に沿って歩くと小さな橋の向こうに滝はあった。

「エーッ!これが白糸の滝ですか〜?もっと大きい滝を想像していた。ガッカリ。こんなことならベンチで休んでいればよかった」

「なにをいう。これでも市内最大といわれた滝だぞ」

 侵食で崩れかけたため、修復されて以前より小さくなってしまったが、幅7メートル、高さ3メートルの滝は、木漏れ日の中、静かな空間をつくりだしている。滝の横には「防人(さきもり)の歌」の碑が建てられていた。

「おお防人の歌。知ってますよ、この歌。 教えて〜くだ〜さい〜っ♪海は死にま〜すか?山は死にま〜すか?…」

「そうそう。さだまさし。泣けるんだよな〜この歌…って、違ぁ〜う!」      

                                              つづく 
                                                                                                             


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