■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2006年4月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■番外編 街道を往く 鎌倉街道 15

これより相模の国。
 旭区大池町にある「こども自然公園」を東側から回りこむように舗装道を上って行くと、やがて、戸塚カントリークラブの事務所が右手に見えてくる。その手前、一段高くなった丘が「都塚(みやこづか)」である。

 ここが旭区と戸塚区の境であり、武蔵の国と相模の国の境でもあるのだ。

 

 丘の上に小さな社があった。登ってみると、夕日に照らされたその小さな社には延命地蔵尊が祀られていた。

「ひゃ〜!夕日が綺麗ですね〜♪」

 南の空、ゴルフ場の林の向こうに今まさに太陽は沈もうとしていた。岡ちゃんは、お地蔵様よりも夕日の美しさに心を奪われたようだ。

「昔は、ここから相模の国が一望できたんでしょうね」

「相模の国はもちろん。西に駿河、伊豆。東は房総半島まで見渡せたそうだ。目と鼻の先の鎌倉だって、手に取るようにわかったに違いない」

「そっかぁ〜。ここから鎌倉がねぇ…ふ〜ん」

「どうした?」

「うん、畠山重忠は鎌倉を見ることなく死んでいったんだな〜と思って…」

「そうか!武蔵の国の武士団。団と呼んでいいのか分かんないけど、その代表である重忠は相模の国に入るぎりぎり一歩手前で討たれたってわけだ。…なるほど。 相模の国には入れさせないという思いが、相模の武士団の側にあったのかもしれないね。現在は同じ横浜市だから意識しないけど、確かにここは国境だ」

 丘を下りると、さっきは気づかなかったが、道路の脇に小さな(道しるべ)があった。「西、武相堺道」「南、鎌倉道」「北、二俣川村道」と彫ってある。

 我々はもちろん、「南・鎌倉道」を行く。鎌倉道を南といっても一本道なので、この道を下るしか他に道はない。

 本来の古道は、ゴルフ場の中を通っている。
 

トツキ?トツカ?
「さっき、都塚って書いてありましたね。都塚をトツカと読んで、戸塚になったんですか?」

「いや、戸塚の云われは戸塚駅の近くにある富塚(とみづか)八幡だそうだ」

「トミヅカがトツカになったんですか〜?何も縁起のいい富を戸に変えることないのに…」

「戸の字のほうが書きやすいからじゃないか」

「えっ、そんな単純な理由ですかあ?」

「冗談だよ(笑) でも案外地名の付け方なんて、そんなもんかもしれないよ」

「まさか」

「富塚八幡の祭神は富属彦命(とつきひこのみこと)といって、境内に墓、つまり塚があるんだよ。だからもともとは、トツキがトツカになったということだね。あくまでも一つの説だよ。富もどうせ当て字だから、本当のところは分からない。他にも(戸塚何がし)っていう一族がこの辺りを開発したからだという説があるけど、これは論外だね。そもそも…」

「戸塚という土地を開発したから、戸塚という苗字になったんですよね」

「そういうことだ。あとは、さる武士が十人の盗賊を退治して、10基の墓を作って埋めた塚だから十塚という。という説もあるらしいね」

「おっ、なんかカッコいいですね〜。ひとりで十人をバッタバッタとやっつける。チャンバラ映画になりそう。エイッヤッ!トォー!あっ、痛いっ!」

 思わずしゃがみ込む岡ちゃん。

「おい!どうした?」

まさかの結末
「ううっ…。ち、ちょっと爪先のマメがつぶれたみたい」

「大丈夫か?歩ける?」

「う〜ん、キビシイかも…。み、宮澤さん。もう…日が暮れますけど…。今日中に…か、鎌倉まで行くつもりですか?」

 苦痛に顔をゆがめながら岡ちゃんが聞く。

「今日中に?…まさか?」

「えっ?まさかって…まさか」

「もう日が暮れるだろ。このまま歩いても、鎌倉に着くのは夜中だぜ。意味ないじゃん」

「そりゃ、そうだけど…」

「ハハ、じつを言うと、最初から今日中に行けるとは思ってなかったんだよ。道にも迷うだろうし、寄り道もするからね。日が落ちた時点で切り上げて、続きは後日あらためてと…。そう考えていたのよ」

「ま、マジっすか?ふーっ。じ、じゃあ、お寿司は?」

「ここまで頑張ったんだ。もちろんご馳走するよ」

「クックックッ、よかった〜」

「なんだよ。泣いてんのか?」

「ホントのところ、もう限界だったんですよ〜(泣)でも、途中でリタイアしたらお寿司が…」

「まったく、しょうがないな〜。この坂を下りれば、東戸塚の駅に着くから、そこで切り上げよう。JRで隣の戸塚の駅に出れば、地下鉄であざみ野まで一本だ」

「わ、わかりました。よ〜し、頑張るぞ〜」

 足を引き摺りながらも、元気に歩き出す岡ちゃん。下り坂は爪先に相当響くはず。それでも、(やっと帰れる。)という喜びが気力を奮い立たせているのだろう。

 しかし、この時は本人も気づかなかったが、つま先のケガは、思った以上の重傷であった。

 坂を下りきると、左手に小川が流れていた。小川の横は小さな遊歩道になっている。その小川の向こうには古い民家が続いていて、どこかの田舎道を思わせる 癒しの空間だ。

「なんか、ホッとする景色ですね。足が痛くなければ、のんびり景色を眺めながら歩くのに…」

 その田舎道(?)を過ぎ、本来なら、曲がるはずの交差点をそのまま直進する。次に来る時はここからのスタートということになる。

 横浜新道・川上インターのガードをくぐり、やっとの思いで東海道本線の東戸塚駅までたどり着いた。駅前のドーナツ屋さんに入る。さすがにお尻から足にかけて筋肉痛だ。岡ちゃんも憔悴しきっている。

「悪かったね。ここまで引っ張って来ちゃって」

「そんな〜。面白かったですよ。勉強にもなったし」

 そう言ってもらえると救われる。 

 あざみ野駅を立ってから約九時間。五つの区をまたにかけた旅もとりあえずここまで。

 さて、次号からは新たな気持ち、新たな展開で鎌倉をめざします。ご期待ください。

                   


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