■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2006年5月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■番外編 街道を往く 鎌倉街道 16

 JR横須賀線「東戸塚」駅東口よりおよそ十分、バスは『新戸塚病院前』の停留所に到着した。杖をついたお婆さんに続いてタラップを降りる。目の前の病院に向かって歩いていくお婆さんを見送りながら、大きく伸びをひとつ。

「さ〜て、着いたぞ!」

新たな旅だち
 バッグから、例によって『旧鎌倉街道・探索の旅』芳賀善次郎著を取り出し、停留所のベンチに腰掛ける。あらかじめ栞を挟んでおいた簡易地図のページを開きながら、『横浜・川崎デカ字マップ』を開く。(もはやデカ字は手放せなくなってきた)

 地図で現在地を確認すると、病院は戸塚区川上町(かわかみちょう)になる。バス通りを挟んだ反対側には、『名瀬中学校』の校舎がある。つまり、向こう側は戸塚区名瀬町(なせちょう)。バス通りは川上町と名瀬町の境界線ということだ。

 町と町の境界、そして尾根道。それが、これまで歩いてきた「鎌倉道」の特徴である。(全てではないが) とすると、地図上でいけば先月号、『都塚』で消えた鎌倉古道は、ゴルフ場の中を通ってこの境界線のこのバス通りにつながっていることになる。

 バス停横に三十段ほどの階段があった。階段を上った先は、鉄の扉で行き止まりになっている。その扉の向こうはマンションのフェンスに沿って細い道が五十メートルほど続き、やがて鬱蒼とした森に行き当たる。森の先はゴルフ場の敷地だ。間違いない! 「道はここなのだ〜!」

 思わずバカボンのパパのような口調で叫ぶ。階段の上で振り返ると、眼下には名瀬中の校舎と名瀬の町が広がっていた。

 『地名語源辞典』によると「ナセ」は、「ゆるい勾配」「斜め。はす」とある。確かに尾根道のここから戸塚駅方面に向けてなだらかな坂が続く。

 隣の「川上町」の名前は、柏尾川(かしおがわ)の上流という意味から付けられたといわれる。この鉄の扉の右手の坂を下ると、先月号で岡ちゃんが足を引きずりながら歩いた川上川の遊歩道「せせらぎの小道」に出る。

 因みに柏尾川は、名瀬川、阿久和川などが合わさり、藤沢で境川に合流。町田市相原を源流とする境川は小田急江ノ島線と平行するように流れ、片瀬江ノ島駅のすぐ横、片瀬海岸のところで相模湾に注いでいる。 

ペットボトルのお茶をグビリと流し込む。

「よ〜し、出発!」

 バッグを背中に回し、階段を駆け下りた。

OH,サプライ〜ズ!
 名瀬中学校と養護老人ホームを右手に、地図上の名瀬と川上の町境に沿って住宅街を行く。

 途中『徳翁寺』の裏庭の石垣に突き当たるので、右横にある小さな階段を上って、庭の脇を通り、向こう側に出る。この先しばらく閑静な住宅街が続く。

 その住宅街を数歩あるき始めたとき、小さなアパートとアパートの間から信じられないモノが目に飛び込んできた。

「な、なんだ?いまの?」

急いでアパートの敷地に飛び込み、崖のように張り出した庭に立って確かめる。

「オォォォォォォッ〜」 信じられないものを見た。

 入り組んだ黒い電線の向こうにキラキラと光って聳え立つのは、まごうことなき…ふ、富士山だ。

 しかも異様にデカイ!まるで、ここは御殿場か?と錯覚するくらいデカイ。たぶん、光の屈折が原因だろう。氷のように輝く巨大な山をしばし眺める。

「あっ、写真、写真」

 カメラを構え、ファインダーを覗くが、電線が邪魔で上手く撮れない。(場所を変えよう)道路に戻り、住宅の間を見え隠れする富士山を意識しながら足早に歩く。

道路は右にカーブを切りやがて下り坂になる。富士山はまったく見えなくなった。

「名瀬下第4公園」の所から、横浜新道のガードに沿って下ると環状2号線に出た。それを左に折れ、名瀬橋で横浜新道を渡る。富士山が消えてなくなってしまうわけじゃないのに、なぜか焦る。

橋を渡って、次の交差点で振り返る。「あった!」

 しかし、建物が邪魔して見づらい。どこか高い所は…?交差点の向こうに高圧線の鉄塔が建っている。その隣に5階建てのマンション。その最上階の階段からなら見ることができるはず。

 

 

出会い!
「おほっ、バッチリ♪」 マンションの階段を二階三階と確認しながら上る。

 高圧線の電線が邪魔しているものの、先ほどの比じゃない。こりゃ一番上から見るのが楽しみだ。期待感に思わず歌が口をついて出た。

「富士、の、高ねぇに降るゆ〜きも〜♪」(他にないんか!)と、自分にあきれつつもリズムに合わせてテンポよく上っていく。

「京〜都、ぽんと、ちょ(先斗町)に降るゆ〜きも♪」

すると…それに合わせるかのように別の声が上から聞こえてきた。

「雪にかわりがないじゃなし〜♪」

(げっ!誰かいる!)

 次の角を曲がれば最上階だ。声の主はそこにいる。

「溶けて流れりゃ、皆おぉなじ〜♪」

 そっとのぞくと、そこにはスラッと背の高い男性が遠くを眺めながら立っていた。
(まさか、岡ちゃん?)一瞬目を疑ったが、そんなわけは無い。

 男は一番を唄い終えると、こちらを振り向き、ニコッと爽やかに微笑んだ。貴公子のような整った顔立ち。年は二十代半ばだろうか?

「あっ、富士山を撮りに来たんですね♪」

 首にかけたカメラに気づいて、もう一度爽やかに笑う。

「ええ、まぁ」 その笑顔に気おされ、曖昧に答える。

「さっきの歌、『お座敷小唄』ですよね。好きなんですか?」

「へっ?…ハハハ。…(な、わけないだろ!)」

誰だ?この男?それに、この馴れ馴れしさはいったい…?          

                                              つづく                    


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