■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2006年6月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■番外編 街道を往く 鎌倉街道 17   

 「東戸塚駅」のすぐ南を走る環状2号線が『横浜新道』と交わる手前の交差点。その角に建つマンションの最上階から富士山の写真を撮ろうと階段を駆け上がったところ、そこにはスリムで背が高く。鼻筋の通ったイケメンの青年が立っていた。

旅的途上
「ここから写真撮るだけですけど…いいですよね?」

 もしかしたらビルの住人かも知れない。断わりを入れると、

「ああ、どうぞ、どうぞ。僕は、ここの住人じゃないので…」

「えっ!あっそうなの」(なんだ。それを早く言ってよ。そうと知ったら遠慮はいらない)

 望遠で数枚、広角で数枚、富士山の姿を記録したあと、カメラをバッグにしまう。代わりに『旧鎌倉街道・探索の旅』を取り出し、デカ字マップと照らし合わせながら、ここから先の鎌倉道を調べようと本を開く。

 横浜新道の名瀬橋を渡ってきた道(実際の旧道は、名瀬橋の所ではなく、少し西側を通っている)は、文のマークのところで、いったん途切れている。

「ふむ…ということは、この川上小学校だな」
 マンションの裏手、眼下に小学校の建物が見える。

「て、ことは…この道を左折して…」

「あの、ちょっといいですか?」

「・・・」 振り返ると、先ほどの青年がジッと私の手元を見つめていた。

「その本って鎌倉街道の本ですよね?いや、タイトルが見えたものですから…」

「あっ、ああ。そうだよ」

「もしかして鎌倉街道とか調べてるんですか?」

「調べているというか、探しながら歩いてるというか…」

「ということは、この辺に鎌倉街道が通っているということですか?」

「そう。そこの横浜新道の向こう側から、この交差点を通って、たぶん…そこの小学校の前に続いているはずだよ」

「へーっ、知らなかった〜」

「ま、普通は知らないだろうね」

「どこから歩いているんですか?」

「あざみ野…といっても知らないか。青葉区。横浜の北のはずれだよ」

「あ、青葉区。知ってます、知ってます。ふぇ〜、あんな遠くから。すっごいな〜。ふーん。僕はまた、富士山が好きで、写真撮りに来ただけかと思いましたよ」

「まあ、ここには写真撮りに来ただけだけど…。ところで君は?ここで何してるの?」

「えっ、ぼ、僕ですか?発声練習」

「発声練習?」

「あっ!いえいえ。つまり…僕も、あんまり富士山が綺麗だったんで、ついここまで上ってきてしまったんですよ」

「ふ〜ん…」

 まじまじと青年の顔を見る。これはあくまでも自論だが、美しいもの、特に自然に出会った時、感動して思わず立ち止まってしまう。そういった人間に悪い人はいない。

みちづれ
 「じゃあ、私はこれで。まだ道中始まったばかりだから」

 バックを背負い、階段を降りる…すると。

「あっ、僕も途中まで一緒に歩いていいですか?」

「えっ?」

「いや、なんか興味あるんですよ。そういうの」

「う〜ん…。別にかまわないけど…ただ、これ一応取材だから…」

「取材?えっ、取材ってなんですか?」

 ここで「ひろたりあん通信」と、それに連載されている「地名推理ファイル」について手短かに話して聞かせる。

「へぇ〜歴史探偵高丸さんとおっしゃるんですか?そうか〜たんなる趣味じゃないんですね。いや〜、面白そう。ますます付いて行きたくなっちゃったな〜」

(勝手に付いてくる分には。来るなとも言えないし)

「ま、いっか。 じゃあ、途中まで」

 

ビューティフルネーム♪
 川上小学校の住所は、川上町ではなく隣の秋葉町になる。小学校の正門には二宮金次郎の銅像が建っていた。

 その川上小学校の正門前を通り、石材店の角を左折する。坂を下って、右側二本目の角。正門付近で途切れた旧道は、ちょうどこの路地とつながっているようだ。

 角を右折して、道をさらに下る。さきほどの青年は、『旧鎌倉街道・探索の旅』と地図を交互に眺めながら、少し後を付いて来る。

 下りきると、前方にバス通りが見えてきた。そのまま、まっすぐ向かおうとした時。

「あっ、すいませ〜ん。そっちじゃないですよ〜」

 青年が大声で呼び止めた。

「この本だと、左にカーブしているから。道なりに進むとしたら、バス通りの一本手前を左折じゃないですか?ほら!」

 本を覗き込む。「なるほど」彼の言うとおり、バス通りと平行した道が手前にある。道なりに進めば、その手前の道ということになる。

「いかん、いかん。間違えるところだった」Uターンして一本手前、駐車場の角まで戻る。

「何これ?」

 彼が突然、駐車場のフェンスを指さした。そこには某政党の看板がかかっている。その白い看板には、たった一言。(言いだしっぺになる)と書かれていた。

「あははは、言いだしっぺって、なんか笑えますね」

「ほっんとだ。言いだしっぺっなんて…最近言わないよね」

 こんな些細なことにユーモアを感じる。(なんだか好感持てるな〜彼)それに方向感覚もよさそうだ。

「ああ、そういえば君の名前聞いてなかったよね」

「名前ですか?『ちばやま』といいます。下の名前は、貴族の貴に、おおやけの公でタカヒロ。千葉山貴公(ちばやまたかひろ)です」

「なに〜!マジで?一緒じゃない私と」

「えっ、高丸さんですよねぇ?」

「それはペンネーム。本名は君と同じ。こっちはシンプルに高くて広いって書くんだけどね」

「そうなんですか!アハハ、じゃあ、Wタカヒロですね」

「ダブル?って…ハハハ。それで仕事は?まさか学生じゃないよね?」

「歌手です」

「へっ?」

「実は僕、演歌歌手なんですよ」
                                              つづく 

                     


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