| ■ひろたりあん通信バックナンバー |
| ▼2006年8月号 |
| 地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」 |
■番外編 街道を往く 鎌倉街道 19![]() 現在横浜市内には「市民の森」と呼ばれる公園が26ヵ所ある。 市が山林の所有者から土地を借りて、市民に開放している自然公園だ。青葉区の「寺家ふるさと村」もその一つである。
ドダバ富士 その市民の森の入り口に設置された案内板を見ていると、後にいた千葉山君が突然叫んだ。 「見てくださいよ。宮澤さん!」 「えっ?」 ふりかえると、案内板の真後ろ、民家の駐車場と公園の樹木の間の崖の上から、遠く西の空を指差している千葉山君の姿があった。
その指差す空の彼方。雲の切れ間から降り注ぐ太陽の光。その光が半分逆光となって、薄い灰色のシルエットを浮かびあがらせているのは… そう!先ほどのように大きくはないが、その秀麗な姿は、まごうかたなき富士山だ。 「うっほ!こりゃあ見事だ」 「でしょ。さっきみたいにジャマな鉄塔や電線がないから、最高の眺めですよね」 この崖の下に広がる住宅街の名前は「柏尾富士見台団地」という。 「なるほど。さっきの案内板に『五山見亭』と書いてあったけど…富士と丹沢、そして箱根の山々が一望できるね」 しかし、入り口付近にある『五山見亭』という四阿(あずまや)からでは樹木に邪魔されて富士を見ることはできない。以前は視界が開けていたのだろう。 「富士を見なさい富士を見ろ。男は黙って富士を見ろ…ドダバ!」 「ドダ…?なんじゃそりゃ?」 「吉幾三の歌ですよ。ドダバ富士。知りませんか?」
「それも時代劇の主題歌?」 「いいえ、コミックソングです。ちなみにドダバは津軽弁で『どしたんだ?』っていう意味だそうですよ」 「ああ、津軽弁のドンダバァね。それにしても、よく知ってるね。ここでコミックソングが出るとは思わなかったよ。…おっとのんびりしてられない。せば、いぐべ!(じゃあ、行こうか)」 鎌倉道はそのまま市民の森の中を抜けていく。どうやら近隣住民の生活道になっているらしい。富士山の見える西側に道があり、東側は谷に向かってなだらかに雑木林が続いている。谷底には畑地が広がっていた。 古道の雰囲気を残したその道も、入り口からわずか2分ほどでオシマイ。 車止めのある出口の向こうはすぐに住宅街になる。そのまま真っ直ぐ進み、次の角を右折、カギ状の短い路地を通り抜けて、通行量の多い広い道を渡る。 ややこしいが、地図でいうと、戸塚区舞岡町と港南区下永谷のちょうど境界線に沿って歩いていることになる。 境界線は、道路を渡った右角の中古車販売のお店の方向に斜めに向かって消えているので、左手に見える郵便局の前を真っ直ぐ進む。
次の美容院の角を右折すると、消えた境界線に戻る。このまま区境に沿ってまっすぐ進んで行く。
サムライ街道 「というよりも、鎌倉街道自体が尾根道に沿って造られているからね。市区町村の境界っていうのは尾根道や川で区切られているから、自然とそうなるんだよ」 「尾根道?」 「とくにこの中ノ道は、多摩丘陵を通っているから、馬の背のような尾根道伝いに抜ける方が最短距離で鎌倉まで行けるっていうワケなんだ」 「最短…あっ、そうか。『いざ、鎌倉!』ってやつですね。武士が急いで鎌倉に向かうために作られたのが鎌倉街道でしたよね。そっか、尾根道ねぇ。だから、こんなに明るくて眺めのいい場所ばかり通るんですね」 民家やマンションの向こうにときおり富士山が顔を出す。その眺めのいい道は、やがて左に向かってゆるやかにカーブして行き、「西港南台自治会案内図」という大きな見取り図の看板のところで右折する。
さらに進み、下永谷第三公園という小さな三角形の公園の横を通る。すると、入り口に「ひまわりてくてくガイド・中世のロマンが息づく自然の風景を歩くC」と書かれた看板が立っていた。 「えっ、何これ?」 道路側には、タイトルだけで他に何も書かれていない。裏に回ってみると、この辺りの地図に赤い点線でルートが印された図と説明文が書いてあった。どうやら、港南区が区民のために設定した散歩道のコースガイドらしい。
C番というのは、地下鉄上永谷の駅から同じく下永谷の駅までのコースで、市民の森からここまではまったく同じルートを通っている。「中世のロマン」とはつまり、この鎌倉道のことなのだ。 「この矢印は、ここから先の道を指してますよね。(早駆けの道)ってなってますよ」 確かに公園からまっすぐ伸びたルートは(早駆けの道)となっている。地図の下に、その説明文と馬に乗って駆けている鎌倉武士のイラストが描かれている。 「なになに?いざ鎌倉という時に早馬が駆け抜けて行ったという言い伝えがあります。へぇ〜こんな細い道を馬が駆け抜けって行ったんですか?」 「鎌倉道というのは、だいたいが六尺幅。細いといっても、馬が二頭並んで通れる幅はあるよ」 「六尺ってことは…。約1メートル80か〜。僕の身長とまったく一緒ですね」 公園を出て、その細い路地を進む。対向車が来ると譲らなければいけないほど狭い。途中二股に道が分かれているが…(いや、もうひとつ右側に階段の道もある)、曲がらずに真っ直ぐ進む。バイクや粗大ゴミがそのままになっている資材置き場ような雑然とした場所を抜けていくと、その向こうは鬱蒼とした森だった。 「あっ!あれってもしかして・・・」
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