とんでもないヤツがいたものだ。私の席を狙って下克上を画策しているとの噂も、向上心の表れだと不問に処してきた。その男が、「ひろたりあん招待旅行を取材して、特集欄を斬新な旅行記で飾りたい」というから了承したのだが、当日寝坊してバスに乗り遅れた…なんて言語道断!「長君、頭を丸めてもらおうか」が、そこまで鬼ではない。そこで、うちが主催した講演会の取材で、名誉回復のチャンスを与えることにした。万一つまらない記事を書いたら、今度こそ頭を丸めてもらうつもりだが、その判断は読者の皆様に委ねようと思う。 編集く
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ごめんなさい、寝坊しちゃいました
ああ、こんなことになるなら、会議であんなに熱っぽくしゃべるんじゃなかった…。いや、編集キャップにおごってもらった時、サワー二杯と焼き鳥八本くらいでやめておけばよかった…。いっそ下克上を狙って一発、クーデターでもやっときゃよかった…。キャップの冷たい視線を避けてうなだれていた僕に、川尻さんが助け舟。「今度さ、『イヌとヒトのこころの絆』っていう講演会をやるんだけど、取材する?」行きます!汚名挽回、名誉返上(あれ?反対かな?)とばかりに勢い込んで出かけたら、これが面白い。夢中になって聴き入った僕は講師の竹花正剛先生にインタビューを申し込んだのです。キャップ、これでどうかお許しを。
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| 竹花先生は青葉区にある犬の問題行動の相談・治療専門機関『ドッグ・アミューズメント・クラブ』のカウンセラーで、行動心理学専攻の教育学博士でもあります。 |
イヌはネコじゃない(当たり前)
―講演を聴いて僕が一番驚いたのは『イヌが飼い主を同じイヌと思っている』というところでした。
「うん、イヌは本来群れを作って生活する生き物なんだけど、生まれたときからそばにいる人間は、イヌにとっては母親以外の初めて出会う生き物なんだ。だから自然に仲間だと思ってしまうんだね」
―なるほど。
「ここで面白いのは、人間が子犬を迎えるとき、人間の赤ちゃんのように接してしまうでしょ。つまり人間はイヌを人間と見て、イヌは人間をイヌだと見る。この考え方のズレが、実は人に吠えかかったり、噛んだりするような問題行動の原因になっていることが多いんだ」
―うーん、それはどういうことですか。
「イヌは家庭を『群れ』だと認識するんだ。そしてその群れの中で自分がどのポジションにいるのか探ろうとする、本能的にね。だから人間がイヌを赤ちゃんみたいに扱ったり、ネコ(笑)っかわいがりしてる時、案外冷静に力関係をはかっている、『おっ、この群れではこいつよりオレの方が偉いのかな』なんてね。それで人間のいうことをきかなくなっちゃう」
―ええっ、なんだか恐い話ですね。
「ううん、恐くなんかないよ。要するにそのズレを直しちゃえばいいわけだから」
―つまり、人間を人間だと思わせる…。
「違う違う、その逆。人間がイヌになったつもりで付き合えばいいの」
―えっ?(四つ足で歩き回る姿を想像している)
「つまり、イヌの社会を理解してあげることだよね。イヌは群れを作りタテ社会で生活する。それをしっかり理解して、イヌのリーダーになってあげればいい」
―?(四つ足でイヌと喧嘩して勝つことを想像している)…イヌのリーダーっていうのは、どうすればなれるんでしょうか?
「イヌがもともと持っている習性を利用しながら、群れの一員であることを正しく認識させること。目を合わせて名前を呼んであげる(アイコンタクト)。母犬になったつもりで全身を撫でてあげる(タッチング)。群れのボスになったつもりでイヌの口を押さえる(マズルコントロール)。それから、上手にほめてあげること」
―なるほど(ホッ)。では実際に噛みついたり、吠えかかったりしている場合にはどうすればいいんでしょうか。
「吠えたり噛んだりすることだけをやめさせようとしてはダメ。イヌがそうするのはそれなりの原因があるんだよ。それを理解しないで叱っても、イヌとしてもどうして怒られているのかわからない。まず、それをきちんと理解してあげて、その原因を取り除いてやればいいんだ」
―たとえば…?
「たとえば、新聞屋さんが来るとワンワン吠えるワンちゃんっているよね(笑)。そしたらどうして吠えるのか考えてみる。ヘルメット姿が恐いかもしれない。バイクの音に怯えているかもしれない。朝っぱらからうるさいって怒っているのかもしれない(笑)。そしてその原因に合わせて処置を考える。飼い主がヘルメットをかぶって慣れさせたりとか、バイクの音が聞こえないように部屋の中に入れたりとか。要するにイヌだけではなく、周囲の環境も視野に入れて問題行動の解決に向かうんだ。もちろんこれは簡単なことではないよ」
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こんな僕でも幸福にしてくれますか?
―先生は、いわゆる訓練士とは違う?
「うん、訓練士は、いってみれば学校の先生。僕の仕事は悩んでいる子等を相談に乗ってあげるカウンセラーだね。イヌも人間と同じ症状が顕れる。不安神経症とか、拒食症、閉じこもり、分離不安…、そういうイヌ達の力になってあげるのが僕の仕事だね」
―なるほど…、じゃあ先生はイヌ語がわかるんですね(半ば本気)。
「ハハハ、君は面白いことをいうねえ」
―最後に、どうすればイヌと良好な関係が築けるんでしょうか。
「大切なことは、人間が一番だということをきちんと教えること。イヌが安心して従える信頼関係を作ること。イヌは何万年もかかって家畜化された動物で、人間のために働く習性を持っている。人間を幸福にする動物なんだよ」
竹花博士は子供のころ土佐犬に噛まれてイヌが好きになったそうだ。「うわっ、血が出ちゃった、服も破けた、イヌって強いなあ、すごいなあ…って」先生、そりゃちょっと変ですよ…。
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すべて『幻』になってしまうのか?
満足できる(少なくとも僕的には)取材を終えた時、旅行取材すっぽかしへの僕の罪悪感は、きれいさっぱり吹っ飛んでました。あとは編集キャップの冷たい視線だけだけど、気にしない、気にしない。軽やかな足取りでキャップの前に。
「あのう、『極私的シネマ幻想』のことなんですが…」「スペースがない」とぶっきらぼうなお言葉。
下克上ばかりかシネマ幻想も幻になってしまうんでしょうか…(泣)。 担当 長
ちょっと怪しげな、赤サンタ青サンタ、港北NTに出現
サンタの正体は廣田新聞店の望月・本川の両名
「ひろたりあん通信に載せてもらいたかったんですぅ…」
被害者は当通信の長担当、『極私的シネマ幻想』緊急休載にスネる
【港北NT発】
12月24、25日の午後4時頃、港北ニュータウンの閑静な住宅街を、赤と青の衣装のサンタクロースが、バイクに乗って駆け回ったとの、匿名の目撃情報が、編集部に電話で寄せられた。
匿名氏に、さらに詳しい説明を求めたが、聞いているうちに、どうも聞き覚えのある声「NTセンター南店の望月君?」と誰何すると「すいません、実はうちの本川さんと、サンタになりました。ひろたりあん通信の紙面に載せて欲しくて…」と、供述を始めた。まさに「泥棒を捕らえてみれば我が子かな」のような、複雑な状況に、社首脳は頭を痛めた模様。
この騒動の首謀者は、廣田新聞店港北NTセンター南店の本川賢一(大阪府出身32才)、同じく望月慎太郎(茨城県出身23才)の両名。12月24・25の両日、赤、青のサンタ装束で、夕刊を配達し、すれ違いの親子連れや小学生のグループら約200人にキャンディをばらまいた疑い。ちなみに、すべて本人らのポケットマネーだというから酔狂な話である。
近所で純朴との評判の高い望月が、大阪吉本系の本川に教唆され、謀略に荷担したのは、過日の上司の結婚披露宴で、『天使』のいでたちで世話係を勤めさせられたため、潜在的な変身願望に火がついたからとの見方もある。
「驚かせて申しわけありませんでした。でもキャンディを渡すとみんなニッコリと受け取ってもらえたんですよ」との釈明に、社首脳は処分保留として、今後の経過を見守る方針。
なお、気まぐれな2人ゆえ、今年の実施は未定と推測される。 |