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「あたしの名前、どうやってつけたの?」小学生の娘が妻に名前の由来を質問している。
私事だが娘の名前は「さくら」という。「おとうさんは大酒飲みでしょ?酔っ払った人を『トラ』って言うの」「ふーん、それで?」「昔、フーテンの寅さんっていう、四角い顔の男の人がいたの」
話が妙な方向へ飛んでいる。「おとうさんも『トラ』さんでしょ、それでその寅さんの妹の名前が『さくら』っていうのよ」「えー、そんな理由なの?」
おいおい、冗談じゃない。それに、私は酒好きは認めるが、大酒を飲ましてくれない妻がいる。「四月生まれだから『さくら』なの、季節にちなんだ名前を付けたかったんだよ」「それじゃあ、五月生まれだったら?」「『さつき』かなあ」「十一月だったら?」「『かえで』かなあ」「じゃあ、二月なら?」「やっぱり『うめ』だなあ」私のオチに「えー、そんなのいやだぁ、四月生まれでよかった」胸をなでおろす。
そんな「うめ」さんに対してはなはだ失礼な会話を娘としつつ、ふと三渓園のことを思い出した。三渓園には、横浜市の友好都市である上海から贈られた、緑萼梅(りょくがくばい)という珍しい梅があると聞き、新婚当時妻と観梅会に参加したことがある。緑のガクの色を透かした白い梅の花の下、幻想的な空気の中に、まだ若く初々しい妻がいた。時は流れ、その妻が私を「トラ」さん扱いする。緑萼梅とは大違い、彼女の放つ言葉から、悪意が透けて見えるのである。
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横浜の東南部、本牧海岸沿いにある『横浜三溪園(さんけいえん)』は、京都の桂離宮と対比されるほどの名園です。ところが同じ横浜市内にありながら、私たちの住んでいる横浜北部の住民には馴染みがうすく、会議の席でも実際に訪れた人は数名しかいません。
「ほぉ〜、小林君は行ったことあるのか。理学部出身にしては、なかなか風流人だね」と、宮澤さんがイヤミっぽく言う。
「そうですね。もうチャリンコ乗り回しながら、虫を追っかけてるような歳じゃないですから」と言い返す。
「なに〜!ふん。川の流れを眺めながら、虫と戯れるのも風流の一つなんです。でも、三溪園はいいね〜。いいところに目をつけた。ところで三溪園に行くからには、原三溪は当然知ってるんだろうね」
しまった!調べてなかった!「と・う・ぜ・ん」という言葉の響きに悪意を感じたのは僕だけでしょうか。
「ふーっ!そんなことだろうと思った。仕方ない。また付いていくしかないか」
「うん、それがいいね」横で聞いていたキャップが同意する。
「小林君、宮澤さんを、こき使ってやんなさい」
キャップの言葉には、あきらかに悪意が満ち満ちていました。
ということで、取材には僕、市ヶ尾店小林と、同じく佐藤明担当、そして宮澤さんの三名で行くことになりました。
やっぱりエコライフチケット
昨年の「港の見える丘公園」の時と同様、横浜方面ということで、今回もお得な「エコライフチケット」を使います。(十一月からは冬季限定で市営地下鉄+市バスの一日乗車券が大人七百円)
地下鉄あざみ野駅〜関内駅。JR根岸線関内〜根岸駅と電車を乗り継ぎ、根岸駅で市バスに乗り換えます。「本牧三溪園入口」で下車して所要時間約一時間で到着です。 地下鉄からバスへ乗り換えるのであれば、横浜駅よりも桜木町駅の方が便利です。
JR根岸駅のバス乗場では三溪園の正門と南門の両方に行く事が出来ます。正門なら1番のりばから「本牧」「本牧三溪園前」行きのバスに乗りますが、私たちは7番のりば「本牧三溪園入口」行きのバスに乗りました。
「何で、正門じゃなくて南門から入るのよ!」と宮澤さん。
「いいから黙って着いて来てください」
バスを降り、本牧市民公園を抜けると南門に着きます。
「いい景色でしょう。この景色は南門から入らないと観れませんよ」
目の前には切り立った絶壁と池があり、池の真ん中には中国風のあずまや「湖心亭(こしんてい)」があります。横浜の友好都市「上海」から贈られたものだそうです。
「おお!いいね〜。水滸伝の世界だ。さすが小林君。良く調べているね」 「会議で恥をかかされましたからね」ふんっ!。
本当は怪我の功名。下見に行った時、バス乗場を間違えて南門で降りたときに発見したのです。
あとで聞いたのですが、昭和四十年代まで、このあたりは海水浴場や潮干狩りができたそうです。訪れた米軍の人達が故郷の景色に似ているとかで「ミシシッピーベイ」とか「マンダリン・ブラフ」と呼んでいたそうです。
シンボル・旧燈明寺三重塔
南門で入場券(大人五〇〇円・小人二〇〇円)を買って入ります。右側の竹林を歩いていくと、観音様がありました。
「おっ、これはいい。ご利益。ご利益」と、宮澤さんが観音様の名前を確かめると、ポケットから小銭を取り出しうやうやしく拝みはじめました。
「宮澤さん、何拝んでるんですかるんですか?」 「いや、別に…」
見ると、札には出世観音と書いてありました。キャップの首を狙って、謀反を画策しているという噂は、やはり本当だったようです。
出世観音の少し先に、三溪園のシンボル「旧燈明寺(きゅうとうみょうじ)三重塔」があります。大正三年に京都の燈明寺から移築されたもので重要文化財に指定されています。
「へぇ〜、燈明寺っていうのは、天平七年というから、奈良時代に建てられたんだな」例によって宮澤さんのウンチクが始まりそうです。
「えっ、この塔は、そんなに古いんですか?」と、佐藤さんがよせばいいのに相手をする。
「いや、塔は室町時代に再建されているから、約五五〇年前のものだね。それでも関東で一番古いんだよ」
佐藤さんも分かったのか分からないのか、感心しながら塔を見上げていました。
本物の実業家
三重塔のある山を降りると僕たちは、取材許可をもらうため内苑にある「三溪記念館」に向かいました。
記念館にある事務所で、広報の吉川さんが三溪園の歴史と現状を丁寧に説明してくださいました。
「原三溪が、今の外苑を『遊覧御随意』と札を立て、一般に昼夜を問わず無料公開してから、来年で百周年になります」
東京ドームの四個分(一八万平方メートル)もある広大な三溪園は、明治・大正・昭和を生きた横浜を代表する実業家「原三溪(本名富太郎)」が個人の庭園を明治三九年に、一般に公開したものなのです。
「三溪は、美しい自然の風景は、みだりに私有すべきでないと考えていました。それだけではないんです。横山大観や下村観山など、若い芸術家を多数援助したり、関東大震災のときには、私財をなげうって横浜復興に貢献したりと、横浜市民のために多大な功績も残しています。あまり知られていませんけれど」
「百年も前に…。なかなかできることじゃないですね。自分の出世だけを願っている誰かさんとは違います。ね、宮澤さん」
「ホントにそうだね。昔は文化や芸術家は、お金持ちが育てたんだ。最近の実業家は、マネーゲームでお金を増やすことしか考えていない。本当に嘆かわしい…クック(泣)」
(いや、さっきのあなたの姿を言ったんですけど…)
摩訶不思議「三溪麺」
記念館では、原三溪の業績を記したパネルや、ゆかりの美術工芸品が展示されています。また四〇〇円で本格的な抹茶(菓子付)を頂くことができます。お茶菓子は落雁でした。落雁はモサモサしていて、あまり好きではないんですが、ここのは、しっとりとして甘さ控えめ、中には餡も入ってます。売店で売っていたのでもちろんお土産に買いました。
佐藤担当が窓の外をぼーっと見つめているので、どうしたんですか?と聞くと、「今、そこの池でカワセミがホバリングしていたんだよ」とのんびりとした答えが返ってきました。すると、慌てて立ち上がる宮澤さん。「えっ、カワセミ!どこどこ?なんだ〜早く言ってよ。カワセミなんて滅多に見られないんだから」と本当に残念そうです。
庭園という人工的な自然であっても、そこに「心」があれば、野鳥たちが集うんですね。
「そろそろ昼食にしませんか?」佐藤担当の言葉に皆も同意。
三人が入ったのは「待春軒」というお店。ここの名物である三溪麺とおでん・茶飯がセットになった御膳を注文しました。三溪麺とは、炒めた細うどんの上に醤油味のあんかけ、それにハム、錦糸卵、絹さやをのせた蕎麦のような、中華のような麺。茶会に出す料理として、食通の原三溪自らが考案したそうですが、なんとも摩訶不思議な味わいでした。
待春軒を出て、奥に進むと合掌造の古民家がありました。飛騨・白川郷にあった江戸時代の民家が、ダム建設で湖底に沈むところを矢箆原(やのはら)家が三溪園に寄贈し移築したそうです。園内の古建築の中で唯一内部を常時公開しています。中に入ると、囲炉裏には火が焚かれていました。
田舎風の茶室「横笛庵」や鎌倉から移された「東慶寺仏殿」などを見学したあと、池のほとりを回って内苑に向います。
食欲の秋
「宮澤さん、そろそろお茶の時間じゃないですか。団子でもどうです?」
「三溪園茶寮」という茶店の前を通った時、佐藤担当が提案しました。
「さっき昼飯食べたばかりだろ」
「デザートですよ。それに食べなきゃ、読者に紹介できないし…」
「うっ、それを言われたら…」
「じゃ、みたらしとごま。あんこに・・・おっ、ずんだもいいなあ」目をキラキラさせながら団子を選ぶ食いしん坊佐藤。
「おい、いくつ食べるんだよ」
「読者のため。読者のため」
結局、テーブルいっぱいに七種類の団子が並びました。それを一人で平らげる佐藤さん。すると、こんどは名物「さくらアイス」を買いに走ります。すごい食欲。彼の辞書に「満腹」という文字はないようです。「桜の香りがして、結構美味しいじゃん」さんざん食べて、感想はたったのこれだけでした。
外苑が季節の花や、景色を中心に楽しむのに対し、内苑は昭和33年まで原家の私庭であったエリアでした。その中でも、約350年前の紀州徳川家の別邸「臨春閣」は一見の価値があります。他にも織田信長の弟、有楽斎のの茶室「春草廬(しゅんそうろ)」。京都の二条城にあった徳川家光、春日局ゆかりの「聴秋閣」など重要文化財が内苑には六棟もあります。
残念ながら、この日は茶会が開かれていて茶室の見学はできませんでした。 11月19日から12月11日まで、通常非公開の『聴秋閣』と『春草虜』の二棟が遊歩道とともに特別公開されます。
この辺りはモミジやカエデ、イチョウも多く、これからの季節。紅葉に囲まれた古建築の景色を、楽しむことができます。
池をぐるりと回って正門へ。ここから眺めると右に睡蓮池、左に大池、手前には小舟、奥には三重塔が望めまさに一幅の絵。まるで、京都か奈良にでも来ているような気がします。
三溪園は毎月のようにイベントを開催しています。
春には【観梅会】やライトアップされた桜を見る【観桜の夕べ】。夏は、園内で羽化した蛍を観る【蛍の夕べ】、秋は、中秋の名月とライトアップされた三重塔などの建造物を観る【観月会】などがあります。
これからの季節なら、イチョウ・楓・もみじといった紅葉が見頃。12月に入ると山茶花、水仙、寒椿と、一年中いつ来ても四季折々の美を楽しめます。

また、12月3日には横浜のニックネーム「ジェリービーンズ(砂糖菓子)」を冠したコンサートが開かれます。ヨコハマで人気のロックバンドやフォークデュオなど、およそ場違いな感じですが、新旧のコラボ、若い人たちにも足を運んでもらい、三溪園の魅力を知ってもらおうと、企画されたそうです。
私も今度は、紅葉の時期や、梅や桜の咲く時期に、もう一度行こうと思いました。
みなさんも東の桂離宮といわれている三溪園を、訪れてみてはいかがでしょうか。 (小 林)

『横浜三溪園』
営業時間 9:00〜17:00(入園は16:30まで)
入園料 大人500円 小人 200円
(65歳以上の市内在住者は無料)
駐車料 乗用車=500円 バス=1,000円
休園日 12月29・30・31日
所在地 横浜市中区本牧三之谷
TEL 045-621-0634
http://www.sankeien.or.jp/
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