■ひろたりあん通信バックナンバー
 2005年12月号
  
マグロがオレを呼んでいる
  三浦半島三崎港 まぐろづくし堪能記

  世界三大珍味といえば、キャビア、フォアグラ、トリュフであるが、これがわが家の食卓にのぼる頃には、なぜかイクラ、アン肝、松茸(但し輸入物)に姿を変える。娘に「これって畑のキャビアなのよ」と言って「とんぶり」を食べさせ「キャビアってあまり美味しくなーい、嫌ーい」と言わせた後、「いい作戦でしょ」なんて悦に浸っている。

 このように「グルメ」から縁遠い生活を(妻から)強いられている。たとえば慶事には「尾頭付きの鯛」という日本古来よりの伝統があるが、「慶事か否か」の妻の判断基準はすこぶる厳しく、亭主の昇給程度なら「尾頭」のない鯛の切身が妥当らしい。イヤミっぽく「はい、尾頭付きよ」と、おやつにタイヤキを出されるのは、少々悲しい。

 そんな妻の好物はマグロで、しかもトロには目がない。マグロは近海物の本マグロを頂点とするが、妻の性格からして手を出せるわけがなく、メバチやキハダやカジキといった、低価格のものなら(自分のために)食卓にものせる。

 昔、先輩と鮨屋で飲んでいて、先輩に言われ妻を呼び出した。「何でも好きなもの食べていいよ」と言われた妻は、情け容赦なく「大トロ」「中トロ」…と本マグロのトロの注文を繰り返し、私を慌てさせた。先輩と私の友情よりも、自分のマグロ(トロ)に対する愛情を優先させた妻だが、長期にわたりトロの脂を腹回りに蓄積した結果、自分の寝姿がマグロに近づきつつあることに、気づいているのだろうか。
 

★ ★ ★

いざ、三浦半島へ
 昨 十一月のある晴れた早朝。鴨志田店の僕、望月と本川担当の二人は目的地を目指し、車を走らせました。行く先は三浦半島の南端「三崎港」です。三崎といえば日本有数の遠洋漁業の基地。そして、なによりマグロの街として有名です。もちろんお目当ては、おいしいマグロを食す…いや、三崎の港のすばらしさを皆様にご紹介することです。

 三崎港までは第三京浜の港北インターより、横浜新道、横横道路を経由し約八十分、意外に近いという印象です。
この取材が決まってからというもの、浮かんでくるのは「さあ、どんなマグロ料理が食べられるのか」…、実は僕はマグロと添い寝したいくらい、マグロに目がないんです。

 高速道路を降り、国道一三四号を経て、県道横須賀三崎線を南下します。 三浦市に入ると、すぐに「マグロ」の文字が目に飛び込んできます。「マグロ」「鮪」「まぐろ」の看板の文字が、港が近づくにしたがって、どんどん大きくなる…、これじゃあ誰だってテンションが高まります。もちろん僕のマグロメーターが、レッドゾーンに達したのは言うまでもありません。

「そんな目を血走らさんでも、マグロは逃げんって。食べるのは後にして、先に市場に取材に行くで」

 道の両側に立ち並ぶマグロ料理店の数々に、目を奪われる僕を、呆れたように本川担当がたしなめます。食いだおれの大阪人のくせに、今日はなぜか冷静です。たこ焼きの取材だったら、こうはいかないと思います。

 漁港のすぐそばにある三浦市三崎水産物地方卸売市場に到着すると、すぐに二階の見学者用スペースへ上がりました。手すりから下をのぞくと、床にはたくさんのマグロがズラーッと並べられています(ああ、僕も一緒に添い寝したい)。その間を忙しそうに動き回る買い付けの人だかり。大きさにして一〜二メートルくらいのものが多いでしょうか。そんな巨大なマグロ、普段見ることはないですし、その並べられた数の多さには「スゴイ!」としか言葉が出ません。まさにその光景は圧巻の一言。

 マグロの良し悪しは尻尾の切り口で判断されます。気に入ったマグロが見つかったら、番号を入札していき、落札されたマグロはトラックに運ばれていきます。活気に満ちたセリの様子に、しばらくの間二人は思考停止状態。しかし興奮がひと段落してくると、あれは何というマグロなのか、何キロ位で一本いくら位なのかなど、いろいろ疑問が湧いてきました。

これが上物だよ!
 南 セリが終わったのを見はからって、下の現場に降りると、あれだけあったマグロが綺麗サッパリなくなっていました。床に白い粉をまいていたので、「何ですか?」と聞くと、「クレンザーだよ。これで磨かないとマグロの脂がとれないんだよ」とのこと。 ほかにも家庭用の食器洗剤を使ったりするそうです。そのマグロの脂に誘われたのか、カモメやサギなどの鳥が集団で市場の中に入ってきました。忍び足でやってきて、何もないのが分かるとガッカリして出て行く姿が笑えます。

 休憩所で一服していた仲買人のおじさんに、話を聞くことができました。今日の取引のマグロは、ほとんどがメバチマグロで、ミナミマグロが少し混じっていたそうです。だいたい50キロから100キロくらいの大きさで、一本十万円前後だそうです。キロ当たり千三百円から千五百円くらいが、スーパーに並ぶマグロの一般的な相場だそうです。

一日600から1,500本くらいがセリにかけられるそうです。

 「テレビで見たときは、袋の中で指を握り合って値を決めていたように思うんですけど…」と僕が疑問を口にすると、

「あ〜、袋セリのことか?あれは下関の市場で、フグのセリのときにやる方法だよ。関西は知らないけど、関東以北では、どこもやんないよ」とのことです。

 「昔は合羽の袖を使ってやってたのが、袋を使うようになったんだってさ。これが本当の袖の下ってやつかな。ワッハッハッ」

 「今度は、フグを取材させてくれへんかな」と本川担当。

編集キャップに、袖の下でも贈るつもりでしょうか、さすが大阪商人。「大阪のてっちり(フグ鍋)は安くてうまいんやで」食いだおれの大阪人、本川担当は、フグには目がないみたいです。

 「すぐ近くに解体所がいくつかあるから、行ってみるといいよ」

 おじさんに教えられた先に歩いて向かうと、なにやらそれらしき小屋が並んでいました。ちょっと入り口から覗いてみると、さっき市場に横たわっていたマグロが、作業台の上に乗せられています。見学を申し込むと「おお、いいぞ!」さっきの仲買人さんといい、さすが、海の男は気っぷがよくて親切です。

 作業台に次々と並べられる丸々と太った冷凍マグロたち。まるで材木を切るように機械で切断されていきます。白い塊だったマグロが、だんだん見慣れた切り身状になっていき、最後には、すし屋さんのネタケースに入っているような二、三十センチの大きさに。見慣れ大きさのマグロに目は釘付けになり、再び僕のマグロメーターはMAXに近づきました。

 ふと気づくと、本川担当は、隣の水槽でおじさんから何やら聞いています。あわててそばに行くと「ほら、いい色しているだろう?今日のマグロは上物ばかりだよ」と言いながら、尻尾の切り口を見せてくれました。赤い切り口が美味しそうなのは確かですが…。「上物だよ」と自慢されても、どこが上物だか分かりません。二人とも「へぇ〜そうですね〜」と曖昧に相槌を打つしかありませんでした。

 

「あ〜、僕も一緒に添い寝した〜い」
マグロを熱愛する望月担当って、ちょっと変?

海を楽しむ里
  解体所を出て、次に向かったのは観光船のりば。三崎港から水中観光船がでています。この船は半潜水式の画期的な水中観光船で、従来の海底透視船と異なり、水中展望室から三次元の立体的な海中散歩が楽しめるのです。その名も「にじいろさかな号」。カラフルで潜水艦を思わせる外観はお子様向けです。ただし陸に近い比較的浅い海域を周る船なので、もっと陸地より離れた海からの景色を楽しまれたい方は、城ヶ島から出ている観光船がおすすめです。

 「にじいろさかな号」の出発時刻までに少し間があったので、発着所隣の三崎港産直センター「うらり」の中を探索することにしました。

「うらり」とは「海あるいは魚(う)を楽(ら)しむ里(り)」から命名されたそうです。 

「うらり」の中には三浦の季節の海の幸はもちろん、旬の野菜やマグロ加工品などを販売するお店があり、観光客で大賑わいです。

 ここでは三崎マグロの新名物といわれる「とろまん」や「マグロアイス」なるものを見つけチャレンジしました。とろまんは三浦の野菜とマグロを使用した中華まんで、ホッカホッカで美味です。でもマグロアイスは微妙〜な味。

 マグロをこよなく愛する僕ではありますが、今回のみはコメントは差し控えさせていただきます。勇気のある方は、話のタネにチャレンジしてみては?

 三浦の野菜は有名ですが、なんと地野菜を使った野菜プリンを売っていました。店のおばあちゃんにすすめられて、小さなカップのやつを試食。三浦大根を使った大根プリンや、ニンジンやキャベツのプリン、どれもすごく美味しくて(とくにニンジン。ニンジン嫌いの子供にはオススメ)これまた三崎の新名物発見です。

 ひろたりあんプレゼントにと考えましたが、日持ちがしないので断念。代わりにダイエットにもいい海草で作った麺「海草美人」を選びました。

 三崎の味を少しだけ味わい、ちょっぴり幸せを感じつつ、いよいよ観光船に乗船です。船に弱い本川担当「絶対アカン!」と、乗船拒否。

 左手に北条湾、右手に城ヶ島を眺めながら船は進みます。観光船ガイドのお姉さんの案内を聞いているうちに、船は城ヶ島大橋をくぐり宮川湾に到着。ここが魚の見えるポイントです。さっそく船内に入って海底観察です。窓をのぞくとカワハギやメジナ、メバル、ウミタナゴなど様々な魚が寄ってきました。マグロが来てくれないのが僕的には残念です。

 でも水族館とは一味違った自然の海の様子に、窓に顔を張りつかせて眺めていました。船の上に出ると、実際に餌付けを体験させてもらえます。撒き餌に群がる魚って、なんだかかわいい。

満腹!マグロづくし
  四十分間、海の美しさを満喫して港に戻ると、いよいよ本懐を遂げる時がやってきました。本川担当は美味しいマグロ料理のお店を、市場周辺でリサーチしてくれていたんです。もはやマグロ並の判断力しかなくなったレッドゾーンの僕は、お店に向かう本川担当の背中をただ追うのみ。

 着いたお店はテレビ番組でもよく紹介される「くろば亭」珍しいメニューが多いことで知られるお店です。 せっかく本場まで来たんだからと、普段食べられない料理を注文しました。

 まずはマグロの骨髄の冷製。期待と空腹でクラクラしている僕を裏切ることのない味。骨の髄まで味わうとは、まさにこのこと。呆れ顔で「望月クンって、ほんまマグロのことを『骨まで愛して♪』なんやね」古い流行歌を持ち出す本川担当は無視して、ここはビールを注文するしかありません。僕はビールのことも「骨まで愛して」いるんです。

 マグロの胃袋や、血合いのカルビ焼きなど珍しいマグロ料理を堪能し、最後はやっぱり中トロ丼。

 有名店だけあって店内は混み合っていましたが、店のおばさんの元気な接客と豪快なマグロ料理の数々は、きっと満足させてくれるでしょう。

 マグロづくしで大満足、大満腹の僕たちは、車を停めた「うらり」の駐車場まで戻ります。 ふと目の前に、駄菓子屋さんがあるのに気がつきました。来る時は腹の虫にせかされて気づきませんでしたが、なるほど三崎の商店街(三崎銀座商店街)は、実にレトロで風情を感じさせます。駄菓子屋さんの次は、歴史を感じさせる銭湯。雑貨屋さんや洋品店。時間があったら、ちょっと寄ってみたくなるようなお好み焼き屋さん。映画のロケ地になりそうな、どこか懐かしい町並みです。

 今回は平日に訪れたためご紹介できませんでしたが、三崎の名物に朝市があります。毎週日曜日、朝5時〜9時、朝市会場(魚市場前海業センター)ではマグロはもちろん、鮮魚、野菜、花など三十八のお店が出店します。また、毎月最終土曜日のお昼2時〜夕方6時、三崎下町商店街で三崎港楽夕市も開催されます。そして、今月の二八日〜三十日には「年末ビッグセール」が開催されます。

 朝市会場や「うらり」だけでなく三崎漁港周辺あちらこちらで、大売出しの大賑わいとなります。マグロや地魚だけでなく、三浦産の旬の野菜も市価よりも安く販売されます。今年は三浦半島で正月の準備をしてみてはいかがですか。

 三崎からの帰り道。国道一三四号線に入ってまもなく、視界に緑の絨毯が飛び込んできました。車を停めて近くに行ってみると、それは一面の大根畑。行きの際には気づかなかったのは、マグロのことで頭がいっぱいだったからでしょうか。  緑の絨毯は、遠い先まで続いています。畑の真ん中に立つと、北海道にいるような錯覚を覚えました。大根だけでなく、キャベツ、ニンジン、ブロッコリー、メロン、スイカ…、三浦半島は、野菜や果物の宝庫でもあったのです。

 

 「マグロ堪能」という野望を成就した今、あざやかな緑の真ん中で、幸せがこみ上げてくるのを感じる二人でした。
                                          (望 月)

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