■ひろたりあん通信バックナンバー
 2006年10月号
 『
おかえりなさい!地球の水』
   水を考えようよ。都筑水再生センター学習記  

  日本の下水道行政に対して文句がある。何についての文句かって? もちろん、マンホールの蓋についてだ。 特に中年以降の男性の多くが持つ悩み…、といえばわかってもらえるだろうか。

  昔は確かに、10万本くらいはあったはずなのに、気がつくといつの間にか減っている。無駄遣いしたわけではなく、あくまでも不可抗力なのに、時に無神経なヤツから誹謗中傷を加えられる悲劇にもあう。 

 娘が幼い頃、そう、ようやく「ひらがな」が読めるようになった頃のことである。二人で奥多摩辺りを散歩していたと思って欲しい。アスファルトの道を手をつないで歩いていたら、突然娘が「おとうさん、う・す・い」
 なんてことを言う!

 お父さんは、そんな心ない人間に育てたつもりはないぞ!一瞬、頭に血が上ったが、娘が地面を指差しているのに気づく…指の先には、マンホールがあり、その蓋に「うすい」の三文字があった…。

 ひらがなで「うすい」と書かれたマンホールの蓋をたまに見かけるが、私の文句とは、なんで漢字で「雨水」に統一しないんだ、ということである。マンホールの蓋が原因で、わが子の言葉に悲しい思いにさせられた、私のような父親は、世に百万人(推定)はいるのではないか。横浜市内に「うすい」のマンホール蓋があるかどうかは知らぬ。しかし、日本の下水道行政における一施設であることには間違いない『都筑水再生センター』を取材するという高川担当に、私と百万(推定)の同胞たちの、心の叫びを託そうと思う。
 


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 いきなり汚い話で恐縮です。駅のトイレの中で、ふと思いました。「私たちが普段使った水は、どこでどう処理されているのだろう?」いや排泄物だけではありません。たとえば棚に置いてあるトイレ用洗剤。こういった化学物質はそう簡単には分解されないだろうな。

 これらが川に直接流されたらアッという間に生き物は死んでしまうんじゃないだろうか?そういえば、水道の水が「ウマイ」とか「マズイ」とかは考えても、使い終わった水「下水」がどうなっているかなんて考えたこともありませんでした。

(よ〜し、今度の編集会議、特集記事の企画は下水処理場。これにしょう!!)

 

プロローグ
 「いいねぇ、高川君。ホントいいところに目をつけたよ」

みごとに企画が通った会議の後、宮澤さんが嬉しそうに寄ってきました。

「湧水、そして川と、水のシリーズが続いたから、誰か下水道を提案しないかなと思ってたんだよ」

「そういえば、黒須田川や早渕川が綺麗になって、魚が戻ってきたって書いてましたよね。子供の頃、都市を流れる川は、どれも臭くて汚いドブ川というイメージがあったんでビックリしました」

「まさに高度経済成長、便利さばかり追求して、環境問題なんて真剣に考えなかった時代だからね」

「川が綺麗になったのは、もちろん町の人たちの清掃活動のおかげもあるでしょうけど、やっぱり下水道が完備されたことが最大の要因じゃないかと思ったんですよ」

「そうだね。下水は文化のバロメーターと言っても過言じゃない。古代インダス文明の遺跡から下水の溝が見つかったというから、四千年の歴史があるんだね」

「さすがに詳しいですね」

「モヘンジョ・ダロ…、いや、あたりまえダロ。歴史探偵で源流探偵なんだから」

「はぁ…(というか、ダジャレ探偵だろ)」

「しか〜し、日本の下水の普及率はまだまだ威張れたものじゃないのよ。イギリスやオランダがほぼ100%なのに、日本やアメリカは70%程度だからね」

「えーっ、そうなんですか?下水道は、あるのが当たり前だと思ってましたよ」

「もちろん、横浜は100%近いよ。けど、県によっては20%にも満たないところがあるんだ」

「エッ!マジですか?ということは…汲みと…り」

「そういうこと。だから、高川さんもお客さんの気持ちを汲み取って、横浜の近代的な下水道施設がどうなっているのか、しっかりと取材してきてくれよな」

都筑水再生センター
 ということで、中川店の私、高川と望月担当の二人は、都筑区佐江戸町にある下水処理施設「都筑水再生センター」に向かいました。

 最寄り駅は、JR横浜線の中山駅。鶴見川と恩田川が合流する地点にセンターはありました。市内に十一か所ある処理場のひとつで、青葉区、都筑区、緑区、旭区から流れてきた下水がここで処理されています。

 到着して、最初に案内されたのは会議室。ここで下水道の役割や水再生のしくみをビデオを観ながら勉強します。

「おすい」と「うすい」
 横浜市の下水管の総延長は約一万一千キロメートル以上、横浜→ニューヨーク間の距離に相当するそうです。その下水管から送られてくる下水の量は、なんと横浜スタジアム5杯分に相当します。 

これはつい最近のことですが、私が友人と、その友人の幼稚園に通っている姪っ子の二人連れと、町でバッタリ出会ったときのこと。

10メートルくらい前からその小さな姪っ子が、『わーいっ!』って笑いながら駆け寄ってきたので、しゃがんで『おいで〜』って両手を広げて抱きとめようとしたら、目の前でいきなり止まったかと思うと、足元のマンホールを指差して、大きな声で…

『ほら〜!お・す・い』。

満面の笑みで教えられ、両手を広げたまま思わずズッコケてしまいました。なんでも、ひらがなを覚えたばかりとのこと。マンホールに書かれた「おすい」と「あめ」に敏感に反応してしまうんですね。

「おすい=汚れた水」つまり生活排水は「汚水ます」から道路の下の汚水管を通して処理場に入り綺麗な水に処理してから川や海に返され、「あめ=雨水」は、各家庭の「雨水ます」や道路の「排水ます」から雨水管を通して、直接川や海に流されます。

 マンホールに「おすい」あめ」とかかれているのは、汚水と雨水を別々の下水管に分けて流す方式「分流式」を意味するのです。現在、青葉区都筑区を含めた横浜市の4分の3がこの分流式です。

 一方、汚水と雨水を一緒に下水管に流す方法を『合流式』といいます。マンホールに文字はありません。合流式は、建設費が安く管理がしやすいかわりに、大雨の時に道路や下水管の汚水の混ざった水が川や海に流れ出してしまうという欠点があるのです。

 特に降り始めの雨水には汚れが多く含まれているので、『雨水滞水池』を建設して降り始めの雨水を一時的に貯めておいて、雨が降り止んでから再生するような対策をとっているそうです。

水再生のしくみ
 ビデオを観終わったあと、施設の中を案内してもらいました。

 管制室では施設全体をコンピューターでコントロールしていて、大抵は2人で監視・制御しています。雨の日には汚水管にも雨水が入り下水量が増えるため、雨量を把握することが大事になってきます。

 管制室には、県内各地の細かい雨量を示すモニターがありました。天候にも目を光らせているのです。職員は39人で、二四時間流れてくる下水を、常時交代で処理にあたっています。これだけの大きな施設が、思ったより少人数で管理されているのには驚きました。

 地下には大小の管が所狭と配されていました。メタンガスを利用した発電設備もあります。広々とした上の設備とは対照的で、まるで映画にでてくる地下秘密基地。鉄の扉に取り付けられた取っ手も潜水艦のハッチのようね形をしていました。

@沈砂池
 汚水管を通ってきた汚水はセンターの地下約一八メートルにある沈砂池に入ります。この池で汚水をゆっくりと流しながら、土や砂を沈めて取り除くのです。大きなゴミをスクリーン(むしろ柵と言った方がいいくらい大きくて頑丈)に通して除去します。

A最初沈殿池
 水はその後ポンプで一気に地上に送られます。このポンプで一秒間に約3・4トンもの水を揚げ、それが3本稼働しています。
 下水処理施設で使われる電力は、日本で使われている電力総使用量の約一%だと言われています。地下の発電設備の能力は、停電で外部からの電力供給がなくなった場合でも、3日間はまかなえるほどで、水量が増える雨の日は、外部からの電力と並行して、ここで発電した電気を使っているそうです。 地上に揚げられた水は、まず『最初沈殿池』に入ります。ここでは緩やかな傾斜に水をゆっくりと流し、時間をかけて沈砂池で沈まなかった軽いゴミや浮遊物を沈めます。
沈んだ汚泥は、汚泥資源化センターに送られて処理の後に焼却されます。その灰は改良土として建設埋め戻し材に使用したり、セメント原料として100%有効利用されています。

B反応タンク
 浮遊物やゴミを落とした水が、次に送られるのが反応タンクです。下水処理の中心部といってもいいでしょう。ここでは標準式と高度処理という二つの処理方法が併用されています。

 標準法とは、下水にバクテリアや原生動物などの微生物のいる泥(活性汚泥)を入れ、空気を送り込んで攪拌します。微生物が下水の中に溶けている汚れを食べ、泥のかたまりとなって沈むことによって水を綺麗にするのです。空気を送り込むのは、微生物も人間と同じように酸素がなければ生きていけないからです。

 高度処理は、反応タンクを嫌気槽、好気槽、無酸素槽等に分割して、生物学的に窒素やリンを効率よく除去する方法です。要するに標準法では除去できない窒素やリン(東京湾で発生する赤潮の原因)を取り除き、さらに砂ろ過、オゾンにより滅菌消毒されます。

 高度処理された再生水は、鮎やウグイが住めるほどきれいな水だそうです。その再生水は、日産スタジアムや横浜アリーナの空調やトイレなどに使われているのです。

 また、鶴見川と平行して流れている枯渇した農業用水路を利用したアメニティ空間『江川せせらぎ』にも放流されています。この江川せせらぎには、ホタルも戻ってきました。

 都筑水再生センターは、横浜市で最初に高度処理を始めましたが、今ある四つの反応タンクの内の二つが高度処理、残りの二つが標準法です。予定されている増設工事の時に、標準法の反応タンクを高度処理に造り替えるそうです。

 反応タンクには臭いが近所に漏れないよう、また雨水が入らないようにと蓋がしてあります。嫌気槽はやはり臭いがしましたが、全体としては思ったほどではありませんでした。

C最終沈殿池
 反応タンクを通った水は最終沈殿池に送り込まれます。役目を終えた活性汚泥は下に沈み、一部は反応タンクに送られ再利用されます。活性汚泥を沈めたうわ水は接触タンクと呼ばれる消毒設備に送られオゾン殺菌されます。

D消毒設備
 最後に塩素で大腸菌などを消毒して鶴見川に放流します。
 処理が終わった水は川に流れる前に水質を毎日チェックされています。放流地では、近所の人たちが釣りをしていました。

 再生センターには一日約19万トンの水が送られてきます。わかりやすく言うと横浜スタジアム半分くらいの量です。水がセンターに入ってから処理を終えるまで約14〜5時間かかります。人工増に伴い増設工事の予定があるそうです。

大いなる自然のリサイクル
 今回の取材では小学校のPTAの女性も一緒だったのですが、主婦の視点からディスポーザについて質問されていました。

 ディスポーザは、野菜くずや魚の骨など、台所の生ゴミを砕いて、水といっしょに下水管に流し込む機械のことです。生ゴミが減るというので、近年マンションや戸建て住宅で取り付ける家庭が増えています。しかし、下水管をつまらせたり、水再生センターへの負荷が高まったり、処理機能を低下させる恐れがあるので、単体では使わず、浄化システムを備えたもので、認定された製品だけを設置してくださいとのことでした。

 また、洗濯機や自動車を洗った水など、洗剤を使った汚れた水を雨水管に流すことも注意されました。分流式の雨水管は直接川や海につながっているので当然のことです。

 汚水管については油です。油は排水パイプや下水管が詰まる恐れがあるので、絶対に流さないでください。

 水再生センターの運営は、現在借金でまかなっている状態だということです。汚れた水を流せば、それだけ自分たちが税金を負担しなくてはいけないのです。個々人が「汚れた水を流さない」という努力をすることが大切なんだということを、実感しつつセンターをあとにしました。

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「あれ?ひとつ肝心なことが抜けてるじゃない」

原稿を見ていた宮澤さんからダメ出しがありました。

「えっ、なんですか?」

「浸水対策さ。下水道の大きな役割のひとつは、洪水を防ぐということだよ。毎年、全国各地で大雨による河川の氾濫が起っているだろう。下水道が完備されていれば、それを最小限でくいとめられるんだ」

「そうか、雨水管はそのためにあるんでした」

「側溝などにゴミやタバコの吸殻を平気で捨てる人がいるけど、災害の被害を拡大しかねないから絶対にやっちゃいけないんだ」

「下水道は人の命も守っているんですね」

「地球の水の量は一定なんだよ。それが液体、気体、固体と姿を変えながら、陸と海と空を循環している。だから、水を汚せば汚すだけ、自分たちの使える水もどんどん減っていくんだ」

「水は、大いなる自然のリサイクルか〜。人間が勝手に流れをストップさせてはいけないんですね」

(高 川)

都筑水再生センター

横浜市都筑区佐江戸町25

п@045-932-2321
 

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