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「ゴールデンウィークは、どこに連れてってくれるの?」小学生の娘が父親にたずねる。
「そうだなぁ…」答えようとした時、私に注がれる鋭い視線を感じた。「余計なこと言うんじゃないわよ!」そんな意思のこもった視線は、もちろん妻から発せられている。「倹約の求道者」たる妻が、私の大風呂敷を警戒しているのだ。
「あたし、ディズニーランドに行きたいな」すかさず妻が口を挟む。「連休中なんか混んで大変よ、渋滞にはまって何時に着くかわからないわよ」ホテルを取って一泊二日という手もあるのだが、無論口には出せない。
「じゃあ遊園地でもいいよ」妻は少し逡巡したが「まあ、遊園地ぐらいなら…」しかし「あたし、ジェットコースターに乗りたいの」という娘の言葉にあわてて「やっぱりダメ!」と前言を翻す。
遊園地の絶叫マシンには、身長制限があって、これまで娘は悔しい思いをしてきたが、ようやく条件を満たす身長に達したのである。しかし、妻は観覧車にも乗れない高所恐怖症なのだ。私はといえば、コーヒーカップに乗ってさえ、目を回し気持ちが悪くなるほどで、ジェットコースターなんか乗ったら絶対に死ぬ。
「動物園にしましょう、あんた動物好きでしょ?」「いやだ、動物園にはコースターがないもん」「いや、ある!」金沢動物園のある金沢自然公園には、全長100mのローラー滑り台があるが、あれはコースターとは言えないか?「それにコアラちゃんもいるぞ」しばし考えた後「ほんとにコースターあるの?」疑惑を湛えた眼で私を見る娘。わが子ながら哀れに感じた父は、せめて恥を忍び、娘と一緒にローラー滑り台を滑ろうと決意した。
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雨で散々だった先月号「ウミキューチケット」の取材。発行後に行われたミーティング。そこには、中途半端な取材で読者の皆様にご迷惑をかけたことを反省…するどころか、誰が「雨男だったのか?」で議論する三人組の姿がありました。
「そりゃ、小林君でしょう。日程を決めたのは小林君なんだから」と大人げなく宮澤さんが言えば。
「いやいや、宮澤さんと一緒に行ったヨコハマ山手、港の見える丘だって、雨だったじゃないですか〜」
「でも、その次の三溪園は快晴だったろ。ん!ということは…雨男は、初参加の…江川君?」
や、やばい。知らん顔で聞いていたら、こっちにお鉢が回ってきてしまった。
「え〜い!もう、いい加減にしなさい。誰が雨男か知りたいなら、もう一度三人で行ってくればいいじゃないですか」
呆れかえりながら、様子を見ていた編集キャップの一言で、議論はおしまい。またまた同じメンバー(市ヶ尾店、小林、江川、そして宮澤さん)で取材に行くこととなりました。
『金沢自然公園』
今回の取材先は私、江川が提案した「金沢動物園」に決定。場所は横浜市金沢区。円海山・北鎌倉近郊緑地保全区域やいくつかの市民の森に囲まれた緑豊かな金沢自然公園内にあって、世界の希少草食動物を中心に飼育、展示されています。
三月某日、空は雲ひとつない青空。寒くもなく爽やかな陽気です。
「これで決まりだね。雨男は宮澤さんだよ」
私の車に乗り込むなり、小林さんが勝ち誇ったように笑いました。それには理由があります。実は、集合時間になっても宮澤さんが来ないのです。電話をすると、別の取材が急遽入ったとのこと。
「終わり次第かけつけるよ」と言ってはいたのですがアテになりません。とりあえず、二人で出発することにしました。
国道246号〜16号へ、横浜横須賀道路を経て、釜利谷ジャンクションから金沢支線に進み、料金所左端の専用ゲートから直接高速側の駐車場に入れる…予定でしたが、入り口を見過ごして一般道へ出てしまいました。仕方なく正面口の駐車場へ回り、ここから入ることにしました。(注=専用ゲートは、高速からの出入りだけなので、金沢文庫や八景島に寄られる方は、私たちと同じ一般道に出てください)
正面口駐車場からは、動物園の入り口まで無料の「コアラバス」が運行されていました。
「おっ、コアラバスだって、間違って良かったんじゃない」と小林さん。(後で知ったのですが、高速駐車場からもコアラバスの送迎があるそうです、少しガッカリ)
平日にも関らず親子連れのお客さんでアッという間にバスは満席。大はしゃぎの子どもたちに囲まれ、まるで幼稚園の送迎バスに乗り込んだようです。
園児(?)たちとバスに揺られること6分。あっというまに動物園入り口に到着しました。
まず、券売機でチケットを買います。(一般=五百円、高=三百円、小、中学生=二百円)入り口と動物園はドーム状のトンネルゲートでつながれていました。 中に入ると、そこはもう「イッツ・ア・スモールワールド.」さまざまな動物や虫たちが歌を唄い。楽器を演奏しながら私たちを歓迎してくれます。
優しい動物園
園内は、アメリカ区・ユーラシア区・オセアニア区・アフリカ区の4大陸のエリアに分かれています。 11時20分からユーラシア区で、インドゾウの調教が始まるそうなので、時間配分を考えて僕たちはアメリカ区から回ることにしました。
この動物園の特徴は動物と人間との間に檻をもうけない「無柵放養式」が採用されていること。といっても、サファリパークのような放し飼いではなく、檻がない代わりに「モート」という大きな堀で仕切られているのです。動物たちのストレスをできるだけ抑え、人との距離を十分にとって、動物もお客さんもゆったりとした時間をすごせるようにと考えられているそうです。 
そしてもうひとつ。各動物の説明板には、現在の野生の状況やレッドリスト(絶滅の恐れのある動物を絶滅の危険度の高さにより、リストアップしたもの)が表示されています。この園では、絶滅の恐れのある動物の保護や繁殖にも積極的に取り組んでいるのです。
アメリカ区には、世界最大の鹿「ヘラジカ」や園のシンボルマークにもなっているオオツノヒツジ。夢を食べるバクなど9種類の動物がいます。
アメリカ区の次はユーラシア区です。インドゾウはここにいました。二頭いるゾウの名前は「ボン」と「ヨーコ」といいます。
「ジョン(レノン)とヨーコ(オノ)みたいやね〜」と私。
実は、ボンは横浜と姉妹都市提携をしているインドの都市「ボンベイ」の「ボン」で、「ヨーコ」は横浜の「ヨコ」を伸ばして付けたそうです。因みにボンベイは現在の「ムンバイ」。横浜同様、港湾都市だそうです。
さて、ゾウの調教です。飼育係の人がポンポンと叩くと、足を上げたり、横に寝転がったり、係りの人を上に乗せたり、よく訓練されています。そして、最後は高圧洗浄機のようなもので身体を洗ってもらって、おしまい。
「こりゃ、車の洗車より大変だね」
確かに、私の車の倍の大きさはあります。ほかにも、給餌体験イベント「ゾウにおやつをあげよう!」を実施しているそうです。
ユーラシア区には、ほかにもインドサイやお爺さんのようなニホンカモシカ、イケメンのシロテナガザル、そして美しい姿のタンチョウヅルがいました。
時間も正午を過ぎ、お腹が減ったので入り口を出たところにあるレストランに向かいました。すると、アフリカ区のキリンの前で携帯電話を耳に当てている宮澤さんを発見。
後から声をかけると、驚いたように振り返り、「あっ、こんな所にいた!さっきから何度も電話してんのに!もう!」と、ご立腹の様子。
「えっ、そうですか?…ああ、圏外になってました」と小林さん。
「まったく、使えない携帯だな〜」 と、いきなりキレまくっています。
動物園内で一番凶暴な生き物の登場に、いくぶん空も曇ってきました。
海のものとも、山のものとも…
動物園は金沢自然公園の中にあるので、外にも遊べる所が沢山あります。レストランで食事を終えた三人は、その一つ、「おもしろ自然林」を散策してみることにしました。
ここでは『おもしろクエスチョン』という小冊子(展示コーナーのある「ののはな館」でもらえます)を見ながら、自然林の中にある「クエスチョンポスト」を見つけて、小冊子のポイントのページにある問題に答えながら歩きます。つまり、オリエンテーリングを兼ねた一石二鳥の自然学習なのです。
自然林に入って、すぐに枝を揺らして走っていく野生のリスを発見しました。動物園の外で動物に会えるなんて、ビックリです。
林の中を植物の名前を覚えながら進んでいくのですが、宮澤さんが意外なくらい木々や草花の名前を知っていることに驚きました。
「山の男にとっては常識だよ」
「はい〜?だれが山の男だって〜?宮澤さんは海の男じゃなかったんですか?」
「それは先月。今月は山なの!」
思わず顔を見合す二人。まったく、あきれた人です。
(海の物とも山の物ともつかないとは、こういう人のことを言うんだね)と、小林さんがそっとつぶやきました。
三つめのクエスチョンポストの近くには、アオダモの木が生えていると書いてありました。
「あの表面が滑らかな木がアオダモだよ。知ってるか?アオダモはバットの原料に使われているんだ」と山男・宮澤さんが得意げに語りだしました。
「これは、『しなり』と『反発力』を生む粘りが、他の材料よりもあるからなんだ。ただし、樹齢七十年以上のアオダモじゃないとバットとしては使えないだぜ」
「へーっ、山の男はバットにも詳しいんですね」
「ああ、『父の魂』を読んでたからね」
「父の魂?小説ですか?」
「少年ジャンプの創刊号に載っていた漫画だよ。知らない?」
「知るわけないでしょ!何十年前ですか!」
いつまでも、アオダモから離れない宮澤さんをほっといて、二人は先に進みました。すると、林の中に一本だけ真っ白な花を咲かせた大きな木がありました。
「何の花だろ?」残念ながら、僕たち二人は花の名前はまったくわかりません。
「仕方ない、山男に聞くか?」と小林さんが後に向かって大声で訊ねます。
「おーい!宮澤さーん。この白い花は何ですか〜?」
「あーっ?なにー白い花?それはコブシだよ〜」と宮澤さん。
「コブシだって」
「へーっ、これがコブシか〜?」と感心しながら、近くに寄ると裏側に名札がありました。…「山桜」と書いてあります。
「まったく!違うじゃないですか」
のんきに歌を唄いながら宮澤さんが登って来ました。
「こっぶすぃ咲く、あんの丘♪北国ぃの〜アンア、北国ぃのぉ〜はぁ〜る〜♪」
「な〜に、のん気に歌唄ってんですか?これはコブシじゃありませんよ。山桜じゃないですか!」
「あっ、これ?これは山桜に決まってんじゃん。な〜んだ、遠かったから分かんなかったよ」
「またまた〜、本当は知らなかったんじゃないですか?」
「敷島の大和心を人とはば 朝日に匂ふ山桜花」
「なんですか、それ?」
「本居宣長の歌だよ。日本人の心は朝日に照りかがやく桜のようだと言うことだ。つまり、人の間違いを追及するような小さな心じゃダメだってことだよ」
「ふわ〜そう来たか〜。それにしても和歌も知ってるんですね?さすが歴史探偵」
「ふっ、当然。短歌のひとつも諳んじられないと武士とは言えない。武士といえば源義家の歌にこんなのがあったな、“吹く風を 勿来関(なこそのせき)と 思へども 道もせに散る 山桜かな”」
「こんどは武士ですか?」 それまで黙って聞いていた小林さんがあきれたようにチャチャを入れる。
「宮澤さんの場合 “吹くホラを いつものことと 思えども あきれ果てたる 山男かな”ですね」
「な、なに〜!!」
「うまい!小林さんの勝ち〜!」
あとで、コブシの花が咲いているのを見ましたが、全然違ってました。
眠るコアラに跳ぶワラビー
自然林散策を楽しんだ三人は、オセアニア区の動物に会うため、再びトンネルゲートをくぐりました。ここは、半券があれば何度でも出入りできるのです。
オセアニアといえば、何といってもコアラ。真っ先に向かったのですが、展示室のどこにもいません。
「あ、あれだろ。木の枝と枝の間の灰色のやつ」
確かに枝の分かれ目にいました。しかし、丸くうずくまってピクリとも動きません。
「おーい。動け〜!お客さんだぞ〜」
無理です。聞くところによるとコアラは一日のうち17〜20時間も眠るそうです。(羨ましい〜)
でも、午後に行われる餌の交換のときは、ユーカリを食べる姿が見られるそうなので、その時間をねらいましょう。
動かないコアラはあきらめて、その手前にいるウォンバットを見ることにしました。こちらは僕たちが近くに行ったとたんに動き出しました。太めの体をモゾモゾと揺すりながら歩いてきて、砂場の砂を一生懸命ほじくっています。
「あはは、コロコロで可愛い〜。そういえば、ウォンバットって誰かに似てない?」と、小林さん。
「確かに、あの小さな目と丸々としたあの体。似てますね〜」
二人の視線の先に、小さな目でファインダーを覗いている一人の男の姿がありました。因みに、このウォンバットの名前は「ヒロキ」です。「タカマル」ではありません。
隣のカンガルーは、コアラと違ってよく動くこと。そのまた隣は、カンガルーに似ていますがワラビーといいます。すかさず、宮澤さんの歌が炸裂。
「ワ〜ラ〜ビ、まみれてよ〜♪」
その歌声に反応したのか、ジッとしていたワラビーが飛び跳ねながら逃げていきました。どうやら神経を逆なでしたようです。
オセアニア区には、他にもヒクイドリやワライカワセミといった珍しい動物がいました。
動物園を出ると、雨がポツンと頬に…。やばい。春に三日の晴れ間無しとはよく言ったものです。横浜で最大級(百メートル)のローラーすべり台はパスして、急いでコアラバスに乗り込みました。
間一髪!高速にのってから突然雨脚が強くなりました。結局、今回は三人ともセーフ。引き分けということで、結論は次回に持ち越しとなったのでした。
(江 川)
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