■ひろたりあん通信バックナンバー
 2007年1月号
 
カモメはカモメ 桜は桜
   『県立三ツ池公園』 鶴亀トリオ漫遊記

  「お父さん、豚肉は英語でなあに?」少しにやけた顔で娘が問う。

 「豚肉? Porkだよ」

 「それじゃあ、牛肉は?」賢い父はこの時点で娘の企みに気づいている。

 「Beef」

 「それじゃあトリは?」こんな単純なトラップに引かかる私ではないが、娘に甘い父は彼女の喜ぶ顔が見たい。

 「Chickenだろ」すると「ブブー、鳥はBirdです」嬉しそうに娘が笑う。

「こりゃ一本取られたな」ここで終われば幸せな家庭のワンカットだが…。

「お母さん、お父さんってバカだよ」 「そうね、少しバカかもね」

 なんて母娘の会話は面白くない。

 「バカじゃない、わざと間違えたんだよ」声が荒くなる。「それに鶏と書いて、トリとも読むんだ、だから決して間違いじゃない」

 すると憎たらしいことに「あっ、やっぱりバカだ。雄鶏ならCock、雌鳥ならHenだもんね」バカな父より数段賢い娘が、鋭い二の矢を放ち、あわれ私は討ち死にしてしまったのである。

 鳥といえば、一昨年の春、特集記事の取材で行った、七沢の県立自然保護センターを思い出す。そこで野鳥観察もした。あれ以来取材に出てないが、一番の理由は私の出無精にある。

 「外に出ないとデブになるから、出無精なの? そういえばお父さんのお腹やばいよ」この口の悪さは誰に似たのか。

 「そうじゃないさ、会社の宮澤さんは毎日飛び回っているけど、結構デブだぞ」

 その宮澤担当、今月も鳥のいる公園の取材をするらしい。宮澤さん、トリはBirdだからな、決してChickenじゃないぞ。宮澤担当の肥満を心配する私なのだ。


★          ★          ★ 

鶴鶴亀亀
「それにしても遅いですね〜」 江川担当が窓の外を見ながらつぶやく。

「こっちが市ヶ尾を車で出た時間に、あざみ野駅から電車とバスを乗り継いで行くって、電話があったんだから。いくらなんでも、もう着いてなきゃおかしいよ。また寝ちゃって電車乗り過ごしたんじゃないの?」と私。

 私、小林と江川の二人がいるのは、鶴見区にある「県立三ツ池公園」の北門近くの喫茶店。遅れているのは、例によって宮澤さんだ。

 仕事の都合だか何だか知らないが、宮澤さんだけ電車で行くということになった。しかし、待てど暮らせど、一向に現れない。

私、小林と江川の二人がいるのは、鶴見区にある「県立三ツ池公園」の北門近く「ヌーベル」という喫茶店。遅れているのは言わずと知れた、ひろたりあん担当のお目付け役(自称)宮澤さんである。

「そろそろ外に出たほうがいいんじゃないっすか。ほら、金沢動物園の取材の時みたいに『携帯が入らないじゃないか〜!!』って、まじ逆ギレされますよ ()

そう言って、携帯電話を確認する江川君。

「ほんと、いつも世話が焼けるよね。どっちがお目付け役だかわかりゃしないよ」

 レジでコーヒー代を支払って店を出ると、バス通りの方から公園に向かって悠然と歩いてくる宮澤さんを発見した。

  「お〜い、宮澤さ〜ん!」 大声で呼ぶと、こちらに気づいて片手をあげたが、慌てる風も無く、何が可笑しいのか笑いながら、私達がそばまで歩いてきた。


  「いやぁ〜、まいったよ〜。新横浜から鶴見行きのバスに乗ろうとして、バスターミナルで待ってたんだよ。やっとバスが来て乗り込んだんだけど、運転手さんに『これ三ツ池公園行きますよね?』って確認したら『行かないよ』って、『何で?』って訊くと、ナント! そのバスは鶴見行きじゃなくて、鶴ヶ峰行きだったんだな。アハハハ。こりゃマズイってんで、急いで隣のバス停 まで走ったんだけど。惜しくもひと足違い。それから、また10分以上待たされて、それでこの時間。まいった、まいった。ガハハハ」

 まったく悪びれる様子もない。二人が呆れて黙っていると

 「バスの中で考えたんだけどさ〜、鶴見と鶴ヶ峰でツルツルなんて面白くない?」

 「はぁ〜?何がですか?」

 「もう、だめだな〜。ツルツルとくれば、カメカメ。つまり『始めツルツル、あとはカメカメ』。こりゃぁ〜春から縁起がいいや〜。な〜んてね。特集記事のタイトルは、『ツルツルカメカメ、三ツ池公園散策紀』 で行こうよ」

  「ツルツルカメカメって、年越し蕎麦じゃあるまいし。まだ十二月の初めですよ(あんたの頭は一年中正月か!)。それにツルツルは分かるけど、カメってなんなんですか?」

「だって、あなたたちが喫茶店で休んでいる間に追い着いちゃったでしょ。ウサギと亀のカメですよ」

「休んでたんじゃな〜い!待っていたんですよ!」(アホか!)

カモメはカモメ
 やっと三人揃ったところで、駐車場のある北門から公園に入る。入るとすぐに、サッカーやレクリエーションのできる多目的広場、野球場、そしてテニスコートとスポーツ施設がつづく。テニスコートでは沢山の人がプレイしていた。

  「ここのテニスコートは一時間 680円なんですよ。安いでしょ」

  「小林君、テニスコートが安いのはいいんだけど、今回の取材の目的、忘れてないよね?」

 「もちろん」

 会議の席、冬に屋外の公園の取材をするのか? と、難色を示す宮澤さんを

 「三ツ池公園は、冬になると沢山の渡り鳥がやってくるんですよ。野鳥観察をするなら、この時期しかありません」と説得し、

 「じゃあ、今回は野鳥で行きヤチョウ」というダジャレで、この取材が決まったのだ。この程度のレベルのダジャレが、宮澤さんにはウケるのである。

  「野鳥でしょ。ほら、いるじゃないですか」

 テニスコートの隣の大きな池には、沢山の水鳥達が気持ちよさそうに泳いでいた。

 県立三ツ池公園には、名前の由来になっている大きな池が三つある。北門から歩くと、「下の池」「中の池」「上の池」の順だ。  この三つの池では、冬の間だけ渡り鳥を見ることが出来るのだ。

「いるったって、カモだけじゃん」

「カモはカモでも、あの白と黒の奴はキンクロハジロっていうんです。目が黄色くて体が黒いでしょ」

「おお!キンクロー。頭の後ろに寝ぐせがついてる」

「キンクローって、どっかの俳優さんみたいに言わないでくださいよ。それに寝ぐせじゃなくて、冠羽!」

 三人が池の端でワイワイやっていたら、キンクロハジロたちがどんどん近づいてきた。

「エサでも貰えるって、思ったんちゃう?」と江川担当が笑ったとき、百メートルほど先の対岸付近から、いっせいに白い鳥が飛び立った。

「あっ、こっちに来ますよ!」

 白い鳥の大群は、キンクロハジロの群れの中に舞い降りてきた。

「あれ、これってもしかしてカモメちゃうの? なんで池にいるワケ?」と不思議そうな江川君。

「池だろうと湖だろうと、カモメはカモメ。孔雀や鳩や、ましてや女にはなれない〜♪」と、歌いだす宮澤さん。

「なんじゃ、そりゃ?」

「たぶん、横浜港から飛んで来たんだよ。ここから近いし」

 それにしても不思議な光景だ。エサを貰えそうにもないと悟ったのか、しばらくすると、カモメもキンクローも向こうへ行ってしまった。

 

 

桜は桜
 さっきのテニスコートの奥にはプールがある。そのプールから更に進むと、瓦屋根の立派な門が出現。その門の奥には、これまた見慣れない木造の建物が…。

 神奈川県と韓国・京畿道(キョンギドウ・中央に首都ソウルのある韓国の北西端部)との友好提携を記念して、平成二年に造られた『コリア庭園』である。

「へぇ〜コリア、タマゲタ」(誰が言ったか分かるよね)

 コリア庭園の建物は、李朝時代の貴族の別荘 がモデルになっているそうです。入り口に韓国伝統の結婚式の衣装がペアで立てかけてあり、その上に顔をのせると記念撮影ができる。

 また、庭では韓国の伝統的な遊戯が体験できるコーナーが設けられていた。トゥホノリ(矢投げ遊び)という、輪投げとダーツを足したような遊びに挑戦してみた。矢を壷の中に投げ込むだけなのだが、これが中々難しい。他にもペンイチギという名のコマ回しや、サッカーのリフティングのように羽根を落とさないで蹴る「チェギチャギ」なども体験できる。

 コリア庭園の隣、正門を入ったところに、この十一月二九日にオープンしたばかりの『パークセンター』がある。ここには講習や雨天時のお弁当のスペース、園内の植物や生き物を調べるためのパソコンも設置されている。また、太陽光発電や緑化植栽など、センター内は環境に配慮した工夫がされていた。

 パークセンターを出ると、大きな馬がいた。『馬超龍雀(ばちょうりゅうじゃく)』という天馬の像である。これもまた、神奈川県と中国遼寧省の友好提携五周年を記念して、寄贈されたものなのである。よく見ると、片足一本で体全体を支えて いる。1700年程前の漢墓から出土した像のレプリカだそうだが、当時から力学的な原理を利用していたとは、驚きだ。

 

「馬超はいたのに、野鳥は、いないな〜」宮澤さんが恨めしそうな視線を投げつけてくる。

「あ、そうだ。三ツ池公園は桜の名所なんですよ。『日本のさくら名所百選』にも選ばれているんです。神奈川県では、小田原城址公園と横須賀の衣笠山公園とここの三つだけなんです。すごいでしょ」

「あのね。まだ十二月の初めですよ。どこに桜があるんですか?」

「それがここには、十月から十二月と春の、二回花を咲かせる十月桜と冬桜があるんですよ。知ってますか?冬にも桜が咲くんですよ」

「なに!冬ざくら。知らいでかっ。群馬県の鬼石(おにし)まで、わざわざ見に行ったことがるほどだ。あそこのは有名だけど、ここでも咲いてるの?」

「当たり前でしょ。三ツ池公園には、78品種もの桜があるんですよ」

「それを早く言ってよ〜。じゃあ、それを探そう」

 手分けして探したら、「上の池」と「中の池」の間の歩道に小さな白い花を咲かせている桜の木を見つけた。すかさず写真撮影を始める宮澤さん。しかし、花が小さすぎて中々ピントが合いません。

 そんな四苦八苦している宮澤さんのところへ、ジャージ姿の高校生が集団で駆けて行きました。どうやら、公園に隣接している鶴見高校の生徒達のようです。彼らにとっては、この池の回りは格好のランニングコース。次から次に現れる若者に翻弄される宮澤氏。ついに泣きが入りました。

「あーっ、イライラする〜。だめだ、だめだ。花もだいぶ散っちゃってるし、やっぱり、冬の桜じゃ絵になんないよ〜」

「でも、桜は桜でしょ」

 ふたたび、野鳥探しの再開。こんどは池を離れて展望台の方へ向かう。

黄色い絨毯
「おお!見て見て。これは綺麗だ」

 展望台へ上る階段は、下から上まで色とりどりの落葉で、まるで絨毯のようだ。今年は暖冬のせいか、公園の樹々も、まだまだ色づいている。公園を見下ろす展望広場からの景色もこれまた絶景。三人の頭の中から、野鳥は飛び立ったようだ。

「おっ、こんどは黄色い絨毯だ!」

 反対側の階段は、イチョウの葉で黄色一色。落葉の感触を楽しみながら、結局なにもしないで降りてきてしまった。

  「中の池」のまわりを、花の広場、遊びの森、里の広場と順に歩いていると、ときおり鳥の鳴き声がする。しかし、いくら目をこらしても、いるのはカラスにハト、せいぜいヒヨドリくらいだ。シジュウカラやメジロ、ツグミにカワセミと野鳥の宝庫のはずなのに、やはり小型の鳥はじっくりと腰を据えて集中しなければ、見つけられないようだ。ましてや望遠レンズの無いデジタルカメラでは…。

 諦めて下の池まで戻ってくると、池に張り出したデッキの売店が開いていた。今の時期は、通常土日だけの営業だが、今日はたまたま平日なのに開けたとのこと。ラッキー♪ 

カモメ食堂
 宮澤さんは「お腹が空いた」と、天然酵母パンとお茶を買う。すると、店のおじさんが、「ここからエサをやると、カモメが食べに来るからやってみな」と言って『かっぱえびせん』を薦めてくれた。商売上手である。

 売店のおじさんの話によると、池にはカモメとユリカモメの二種類がいて、最初は数羽だけだったのが、三年ほど前から友達をたくさん連れて来るようになったそうだ。

「ユリカモメは足と嘴が赤いから、すぐ分かるよ。こうやってエサを持って手を伸ばせば、咥えていくから。ほら」と自ら実演してくれる。

 面白そうなので私もやってみることにした。細長いえびせんの端を持っていると40〜50羽のカモメがいっせいに飛び上がり、あっと言う間もなく、一羽が上手に餌を掠め取って行 った。餌を投げてやると、こんどは器用に空中でキャッチする。あれだけ沢山いるのにぶつかることもない。不思議だ。

 ふと、宮澤さんを見ると椅子に座って、ハトと一緒に天然酵母パンを食べていた。

「宮澤さんもやりませんか?面白いですよ」

「ああ、分かってるよ。仙台の松島や丹後半島に旅行した時、散々やったから。向こうは海の上だったけどね。あ、そうそう。カモメがどこから来たか分かったよ」

「分かったって、さっき言っていたじゃないですか。港から飛んで来たって、三年前に間違えてやって来たら、居心地がいいので居ついちゃったんですよ」

「いや、港だと思ったけど、川だな。この池は、もともと農業用の溜池だったんだよ。鶴見川がすぐ側に流れているのに、なんで溜池を造ったか分かる?」

「えっ、溜池だったんですか?へぇ〜、あれだけ大きな川があれば、そこから水を引いてくればいいんですもんね。ナゼですか?」

「満潮になると海の水が鶴見川を逆流するんだよ。港に近いこの辺りまでね。海の水じゃ田んぼに使えないだろ。鶴見川の河川敷を歩いた時、綱島の近くでカモメがたくさん休んでいたのを思い出した。川からここまでなら600メートルくらいかな。海よりもずっと近いよ」

「あ、なるほど。港までは3、4キロありますもんね」

 カモメたちは、二月中旬には、帰ってしまうそうなので、こんな貴重な体験をしたい方は急いでくださいね。

 急がなくていいのは桜である。1600本以上ある桜の七割は染井吉野なので、やはり染井吉野が満開の時期が見頃だ。でも、あえて普段は見慣れない品種の桜を見たいという方は、二月の寒桜や河津桜、秋から冬にかけての冬桜や十月桜など、時期をずらして、二度、三度と足を運ぶのもいいと思う。

 車でも電車バスを使っても、近いので、ぜひ遊びに行ってみるのをお勧めしたい。あ、くれぐれもバスを乗り間違えないでくださいよ〜。

 桜の開花情報や冬鳥の飛来情報は随時『三ツ池公園』のホームページ

http://www.mitsuike.com/で更新されているので、それを参考にしてくださいね。
                                            (小 林)
 

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