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独身の頃、知り合いの女性(といっても飲み友達のおばさん、親子くらい歳が離れていた)から、手造りの味噌を貰ったことがある。
味噌汁にして飲んだが、特別美味いというほどではなかった。ただ、とっても懐かしい、ひなびたような味がして、故郷の母を思い出した。
千昌夫さんに「味噌汁の詩」というヒット曲がある。日本人なら故郷と味噌汁を忘れるな、みたいなフレーズがあった。
北国のおふくろさんの味噌汁の味を思い出し、最後に「かあちゃーん」と叫ぶそんな唄だったと記憶している。それをマザコンと言うなかれ、男にとって母親のふところは故郷そのものなのだ。
私は北国生まれではないが、それでも「味噌汁イコール優しいおふくろ」と自然に結びつく。遠く離れて住む母と息子は、熱い味噌汁で結ばれているのかもしれない。
最近「おふくろさん」騒動というのが、世間を賑わしているようだ。歌手の森進一さんの名曲「おふくろさん」に、オリジナルではない台詞が無許可で付け加えられていた。それを知った作詞の川内康範氏が激怒してこの騒動が始まった。
昔は師弟関係というか、親父と息子のような好ましい関係だったそうだが、不肖の息子と、それを決して許さない頑固親父みたいな、こじれた関係になってしまった。
これが「親父」ではなくて「おふくろさん」だったらどうなっていただろうか? ここで答は問わない。ただこの二人の男に、熱くて美味い味噌汁を飲ませたら、事態は少しは和らぐかもしれない。
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一杯の味噌汁
会議を欠席した。めったなことでは休まないのだが、さすがに今回はダメだった。
「二日酔いですか?」 携帯の奥から笑いを含んだ大塚君の声が響く。
「ま、まさか、二日酔いのわけがないだろ。酔いはもうとっくに醒めている。ちょっとお腹の調子が悪いのと頭痛がするだけだ。それより4月号の特集、何に決まったの?」
「横浜にある醤油工場の見学に決まりましたよ」
「ほう。横浜に醤油工場があるんだ?」
知らなかった。この企画を出したのはNTC南店の廣瀬君で、すでに取材に向かったという。
「早いねぇ。じゃあ、今月は少し楽ができるな」
電話を切って、味噌汁をひと口すする。やっぱり二日酔い…じゃなく、具合の悪い時はしじみの味噌汁に限る。(大根の味噌汁をご飯にぶっかけてもいいけどね)
味噌汁を飲みながら、ふと思いついた。横浜に醤油工場があるなら、味噌の工場もあるんじゃないだろうか? 身体を引きずるようにしてパソコンに向かう。
「あった!」思ったとおりだ。
数日後、廣瀬担当から編集キャップのもとへ原稿があがってきた。
横浜醤油株式会社
地元で七〇年続く手造りの老舗ブランド「マルハマ醤油」の工場を視察してきました。醤油といえば千葉県の野田を思い浮かべる方も多いかと思いますが、横浜にも醤油工場があったのです。
神奈川県内に、醤油の製造工場は2軒しかありませんが、その一つが神奈川区にある『横浜醤油株式会社』です。横浜市のマークを丸で囲んだ「マルハマ印」が目印です。
創業は昭和十二年、七〇年続く伝統の味を守るため、大量生産をせず、一貫して手造りにこだわり続け、無添加でコクのある醤油を提供しています。
現在、横浜醤油では、主に「こいくち醤油」「あわせ醤油」を製造しています。現在販売されている高級手造り本醸造醤油は、仕込みから約一年の時間をかけるそうです。
また「もろみ」や「もろみジャーキー」「もろみ漬け合鴨ロースト」といった醤油製造から生まれたアイデア商品も造られています。とくに「もろみジャーキー」は醤油のもろみがうまく生かされており、とても柔らかく、従来のジャーキーとは違った食感で、歯の悪い人でも比較的かみやすい仕上げになっています。
平成十二年までは神奈川区白幡町において全ての工程を行っていましたが、現在ではもろみ造りを東北で行い、ここ横浜工場では火入れ、仕上げ、パッケージなどを行っているそうです。
経済学部出身の三代目・筒井社長(ホームページで紹介されている怪しげなシルクハットにタキシード姿の人物がそうです)は、初め醤油のことがまったく分からなかったそうです。
現在では「手造り」の伝統をどう残そうかと日々奮闘中。 毎年、六月に開催される「開港祭」に出店し、イベントで新製品の紹介や販売なども行っています。 醤油製造の環境は年々厳しくなっているそうで、たとえば手造りという表現ができなくなってきたこと、スーパーなどとの価格競争など、少量生産のカタチが守られなくなりつつあることが悩みだそうです。
「せっかくの創業者が残した横浜ブランドだから、大切に守り続けていかなければいけませんね」と社長さん。
横浜にたった一つ。今もなお伝統的な製法で根強く営業されている醤油工房ともいえる工場を、今後も絶やさず、残していって欲しいと思います。
(廣 瀬)
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伝統を守り続ける横浜ブランドの醤油ですか。いいんじゃないですか〜」
「そう思うか」編集キャップは少し不機嫌そうだ。
「えっ? ああ、よくないですよね。もろみジャーキーくらい土産に買って来い、ってんですよ。ねぇ」
「そうじゃないっ、ボリューム。内容は悪くないけど、特集記事にするにはボリュームが足りないだろ!」
「なるほど…確かに」
「まったく、遊んで食べて風呂に入ったりしないと書けないのかね?」
「うっ…。ホ、ホント、しょう(ゆ)がないですね〜。そうだ。醤油がないからミソつけちゃいましょう」
「くだらん。ミソなんてつけなくていいから、対策を考えな」
「だから、味噌なんですよ。調べたんですけど、横浜には醤油だけじゃなく、味噌の工場もあるんですよ。それも同じ神奈川区に」
「偉い! じゃ、味噌と醤油でいこう。すぐに取材に行って来なさい。あ、いくら名古屋出身だからって、手前味噌な記事書いて、それこそ味噌つけないでくださいよ」
日本味噌株式会社
環状2号線を走っていて「かねじょうみそ」という看板を見たことのある方もいるのではないでしょうか。
市営地下鉄「片倉町駅」で降りて、徒歩7〜8分。あざみ野から30分とかからない所に味噌の醸造元はあった。
明治十八年、東京深川で味噌の醸造を始めたという老舗。
当時、全国味噌業界で群を抜く業績をあげていたそうだ。
昭和三十九年、新しい発酵技術を取り入れた全行程機械化の近代工場の完成とともに、現在の神奈川区三枚町に移転。
味や風味にこだわった味噌の生産を続けている。
「かねじょうみそ」はブランド名で、正式な社名は「日本味噌株式会社」という。「えっ、聞いたことがない」それもそのはず、主に料亭など飲食店を中心に卸していて、一般のスーパーなどには出回っていない。
「料理屋さんなどで召し上がっていただいていると思うんですけどね。なかなか、うちの味噌だとわかってもらえないんですよ。名前が書いてあるわけじゃないですからね(笑)」と自嘲気味に話す田中清孝社長。「横浜の学校給食にも使われているんですよ」私もどこかで口にしたことがあるかもしれない。
江戸甘味噌
特に力を入れているのが「江戸甘味噌」。
徳川家康が出身地・三河の八丁味噌の旨みと、京都の白味噌の上品な甘さを兼ね備えた味噌を開発せよ、と命じて作らせたという歴史ある味噌である。
江戸の代表的な味として粋な江戸っ子に愛されてきた「江戸甘味噌」は、最盛期には東京の需要の六〇%を占めたそうだ。
とろりとした甘味とコクは、川魚料理や牛鍋や桜鍋などに相性がよく、「駒形どぜう(どじょう)」や鯉こくの「川甚」といった伝統ある老舗の料亭で、代々使い続けられてる。
家庭で使う場合は甘すぎるので、他の味噌と合わせて使うと良いそうである。
味噌の種類
味噌は、大豆を煮たり蒸したりして潰したものに、麹菌と塩を加えて発酵熟成させて造る。日本の総生産量の八割を占める米味噌は、米麹を加えたもの。
米麹ではなく麦麹を加えたものは麦味噌(田舎味噌)。八丁味噌に代表される豆味噌は、大豆を麹にしたものと塩だけで、米麹や麦麹を使わないものをいう。
米味噌は製法の違いによって、赤みそ、白みそ、淡色みそに分かれる。大豆を煮て短時間で熟成させると白みそ。蒸して長時間寝かせると赤みそになるそうだ。
赤みそとは豆味噌のことだと思いこんでいたが、大きな勘違いであった。
また、原料の大豆の量に対する麹の量によって、甘口、辛口の辛さ加減が分かれるそうで、麹を多く使えば使うほど甘口になる。
普通は大豆1に対して0・8だが、「江戸甘味噌」は大豆1に対して麹は2倍だそうだ。
菌に強い味噌
工場を案内してもらう前に、クリーニングされたばかりのパリパリの白衣と帽子を渡された。
靴にもすっぽりとカバーを被せる。完全防備が完了したら、コロコロ(カーペットの掃除をするようなもの?)で全身の糸くずや髪の毛を取り除き、最後に手を洗ってアルコールで消毒。異物や細菌が入らないよう入念にチェックをしてから工場内に
入る。
聞けば、原料を入荷する際も金属探知機で異物の混入をチェックするとおこと。精密機械の工場並の厳戒態勢だ。
「味噌の上にO-157の菌を置いても、四八時間以内に死んじゃうくらい、味噌の麹菌というのは強いんですよ。ですから、この業界には食中毒という問題は一切無いんです。逆に言うと、そういう点がルーズになっちゃうんですね。ですから衛生管理は力を入れています。手間ですけど、チェックするようになって製品も安定しましたし、お客様に安心してもらえるのがなによりですから」と田中社長。
食品衛生優秀施設として、再三にわたり表彰を受けたというのも納得である。
地産地消の津久井味噌
最近、地産地消が叫ばれているが、ここでも神奈川県でとれた大豆と、お米だけを使った「津久井」という味噌を造っている。
北海道の最高級大豆の倍の値段はするという幻の大豆「津久井在来」という品種に、神奈川県奨励品種の米「キヌヒカリ」だけを使う貴重な味噌だ。
神奈川県では、大豆のほとんどが枝豆として早くに収穫されてしまって手に入りにくいため、「津久井」は一年に一回しか仕込みができない。昨夜も、大量の枝豆を肴に生ビールを飲んだ私も「津久井」の生産に影響を与えているのかもしれない。
「どんなに貴重でも、市場に出回っていないなら買えないじゃないの」
いいえ、ご心配なく。毎月最終土曜日に、本社で即売会を開催しているのだ。
昔ながらの量り売りで「江戸甘味噌」「津久井」ほか、麦、豆、赤、白のさまざまな種類の味噌に、各種たれ(つゆ)や海産物、お米なども販売している。
また、地域を大事にする取り組みの一つとして「手作り味噌教室」がある。平成十二年から始め、延べ四千人の方が参加されていて、毎年参加されるリピーターもいるほど人気なのだそうだ。
自分で自分だけの味噌を造ってみたいという方はぜひ問い合わせを。秋(10〜11月)と冬(2〜3月)に開催している。
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漫才じゃないが、日本人の食生活における「欧米化!」は、かなり定着してきた。最近では、味噌や醤油のない家庭すらあると聞く。
健康志向の減塩ブームの影響もあるかもしれないが、健康食として認知されての昨今の海外における日本食ブームに対して、本家本元の日本ではご飯を食べない若い人が増えている。
米を食べずに何が」欧「米」化! だ。
大豆発酵食品は、古来から日本人の食卓には欠かせない調味料である。これらは大豆そのものを食べるよりも、栄養を補給しやすくなっているのだ。
特に味噌は脳卒中の予防、コレステロールの抑制、癌の予防にも効果的だという研究発表があった。味噌汁を毎日食べている人は、全く食べない人よりも胃ガンによる死亡率が五〇パーセントも低いそうだ。
大豆発酵食品は日本人の知恵の結晶。
「味噌汁一杯三里の力」「味噌汁は不老長寿の薬」「味噌汁は朝の毒消し」「医者に金を払うよりも、味噌屋に払え」な〜んて、ことわざもある。
健康のため、毎日毎朝味噌汁を飲もう。二日酔いのお父さん、胃腸薬より一杯の味噌汁がいいですよ〜。
(宮 澤)

日本味噌株式会社(かねじょうみそ)
横浜市神奈川区三枚町364
電話 045-381-7651
http://www.nihonmiso.com/company/index.html
横浜醤油株式会社
横浜市神奈川区松見町3-1-6
電話 045・401・9317
http//www.yokohama-shouyu.com |