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「この前、娘の学校の運動会があったんだよ」
「はぁ、それが?」
真心がこもらぬ宮澤担当の物言いはいつものことだが、それでも少しむっとする。
「運動会だよ、小学校の」
「はぁ」
「ほら、親子競技ってあるだろ、親子が力と意気を合わせて、二人の信頼ある結びつきを披露するわけだよ」
「そんな、大げさなものかなあ?」
その競技は、要するに綱引きなのだが、少し演出がある。まず児童たちが赤白に別れ綱を引く、しばらくたってウルトラマンだかの音楽が流れると、親が子どもの救出に向かい、親子一緒に綱を引き勝負を決する。
「娘の組が負けててな、ここはマジにウルトラマンの心境で、助っ人をしたわけだ」
「はぁ、それで?」
「思いっきり足を踏ん張り、渾身の力で綱を引いた」
「それで結果は?」
「負けた。おまけに両足がつりそうになったんだよ」
そのことを思い出しながら、私は自然と足を撫でている。
「それで、これはいったい何の話なんですか?」本当に真心のない言い方だ。
「つりそうになったんだよ、ほら『つり』の話じゃないか!」 「・・・」
私は毎号、巻頭特集の内容に応じて、この欄を埋めている。今回は、海釣りの話題である。しかし私に釣りの趣味はない。要するに書くことがない、何も浮かばない。
「だからって、足をつってどうするんですか」
「つっちゃあいない、つりそうになっただけだ」オレの苦肉の策に理解を示せよ。
「こんなくだらないこと書くくらいだったら…」宮澤に一瞬悪魔が宿った。
「僕なら首でもつりますけどね」本当に真心のないヤツである。
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釣りってしたことありますか?
子どもの頃海や川で糸を垂らして、一喜一憂した経験のある方も多いかと思います。今の子どもたちはどうでしょう? 高度に発展したゲームに、種々あるスポーツ、わざわざ海や川に出かけなくても楽しみはたくさんあって、釣りの経験も興味も、まったくない子が多いのかもしれません。
「魚ってどこにいる?」と聞かれた子どもが「魚屋さん!」と真面目に元気に答えたという話を聞いたことがあります。
どこまで冗談でどこまで真面目なのか分かりませんが、瞑目した魚しか見たことのない子どもたちは、それだけ自然の仕組みについて、想像の範囲外であることがままあるのかも…。
「娘が小さい時だけどな、カレイやヒラメみたいな、平べったい魚の存在を知ったんだろうね」
今回の特集の企画が承認された後、編集キャップが話しはじめました。「ある晩、食卓にのぼったアジの開きを見て『あっ、カレイだ!』なんて言うんだぜ、ほんとバカだろう?」
きっとお嬢さん(のバカ)はキャップに似たんですよ、と口に出すほど私はバカではありませんが、キャップは『遺伝の法則』について勉強する必要があるようです。
しかし、アジの干物が大海原を泳いでいたら確かに不気味です。だからこそ、海や川で魚を釣る。原始的だけど自然の中で学ぶことは多いと思います。それが船で沖に出ての釣りだったら、いつも食卓にのぼるお魚さんは、こんなところに棲んでいて、こうして獲って、釣ったばかりの魚はこんなに活きがよくて…。
夏休みの行楽の予定に船釣りもいかが? との提案が今回の企画です。
というわけで、某日ひろたりあん取材班美しが丘店支部の、佐々木&高野(私)は、青葉区から車で一時間半、横須賀は新安浦港へ向かいました。 新安浦港は、横須賀市街や軍港からも近く、猿島を沖に臨む小さな港です。電車だと、京浜急行堀ノ内駅が最寄(各釣り船屋の送迎あり)です。
しかしこの小さな港には、釣り船屋さんが五軒もあり、釣り人たちで賑わいを見せています。その理由の一つが、どの釣り船屋さんからも「午後船」が出ていることです。
「船釣り」と聞くと、こんな想像をしませんか? まず新聞屋さんのように、睡眠欲と闘いながら丑の刻に起き出す。恨みを持つ人が、わら人形と五寸釘を持ってひっそりと丑の刻参りに出るように、釣り竿と釣り針を持って早朝起きを恨みながら家を出る…。なぜなら、釣り船の出船は朝早いからです。でも、午後の出船ならどうでしょうか。誰一人恨むことなく、平和な気分で出かけられるでしょ。
午後船がない釣り船屋さんも珍しくない中、ここでは一年中、午前から昼までの午前船(七時二十分〜十二時)、昼から夕の午後船(十三時〜十七時)という半日船が楽しめるのです。そしてさらに言うと夏期は土日・祝日に限り夜船(十八時〜二十一時)も出ているので、朝がニガテ、平和主義、という方々にも無理なく利用できます。われわれも平和主義者なので、村上釣船店さん(пZ四六・八二二・一七七九)の午後船に乗ることにしました。もちろん、朝がニガテなわけではありませんよ(一応念のため)。
釣りだというのに初心者二名、手ぶらで来ちゃいました。でも安心、装備一式全て借りられるんです。氷・クーラーバック・カッパ・長靴・餌で五千五百円(女性・中学生以下三千五百円)、竿五百円、仕掛け二百円、駐車場五百円と、本当に手ぶらで来てもOKです。酔い止め薬も置いてあります。釣った魚を入れるポリ容器も…。
「帽子と日焼け止めくらいは用意したほうがいいよね」と佐々木担当。
あんたは必要ないでしょう! インドネシアで現地人よりも色が黒いと言われたあんたが…。
本日狙うはメバルです。船はメバル狙いかアジ狙いかで分けているそうですが、結構混ざって獲れるのが実情で、カレイ、クロダイ、カサゴ、サバ、タチウオも釣れるそうです。アジやサバは年中、春夏はメバル、カサゴ、秋にかけてタチウオがこの港でシーズンだとか。
「最近はイカやタコが減っちゃって、今はやってないんですが、また増えたらイカ・タコ用の釣りも再開する予定ですが…」とのことです。
今回のメバル釣りにはルアー(擬似餌)を使います。半透明な小魚を模した餌に、目の辺りになるのか赤いビーズが付いています。そこまでガブリと食いつくと、針に釣られちゃうという寸法です。いたってシンプル。というか不安。こんなんで釣れちゃうの? と素人の疑問は尽きません。
むかーし子どもの頃、新潟沖で釣りをしたときは、ゴカイだっけかウニョウニョ動く餌をつけたし、奇しくも小生の意図しない胃袋からの撒き餌によって、でかいのもホイホイ釣れた記憶がありますが…。「きたねーな」「すいません」
一匹も釣れなかったらどうしよう…なんて一抹の不安を抱えつつ、私と本物の漁師なんじゃ? と見紛う褐色の同僚と、数人の釣り人を乗せて、船は港を出ました。漁場は猿島〜観音崎沖、水深二十〜三十メートルのところ。
出港のときに、船長からメバル釣りの奥義(というほどでもないが)を伝授されました。糸に仕掛けと軽めの錘(おもり)を付け海に落とす。錘が底に付いたら、少し巻き上げ糸のたるみを取り、竿を一メートルくらいの幅でゆっくり上下に揺らす。疑似餌をいかにうまく小魚と見せるかがポイントで、激しく竿を振ったりする必要はないそうです。アジは少し上の三メートルくらいのところにいるとか。これら魚の泳層を把握して、その位置に仕掛けを垂らすことを棚取りというそうです。
棚取りが果たして理解できたのかはともかく、糸をたらすこと数分、佐々木がヒット! あまり大きいとはいえないけど、本命のメバルを釣り上げました。先を越されてなんとなく面白くない私。「類は友を呼ぶんだね」「?」目が大きく張り出しているから「メバル」ですが、その黒褐色の肌といい、ギョロ目の褐色人、佐々木担当に瓜二つです。こういうのを「友釣り」っていうのかな。
さーて、こちらも食いついてくれよ、と竿を持つ私の手にも、自然の波ではない抵抗感が。竿の先がククンとお辞儀をする。お、キター! ここであせりは禁物。一気に釣り上げようとすると口が切れ、せっかくの魚もご対面前にお帰りいただくことに。一応慎重になりながらも、はやる心を抑えつつ、ようやくご対面あいなったマイ・ファースト・フィッシュちゃんは……アジ!? 新鮮ぴちぴちのアジが釣れました。まぁ、いろいろ混じると言ってましたし…。
続いて二回目の当たり、さっきより強い手ごたえが。よっしゃ、今度こそメバル来たか…(巻き上げ中)…アジ。次はやや軽めの当たりが。メバルって弱めの手ごたえなのかな?と…(巻き上げ中)…なんだコレ? 細い魚だ。しかも暴れる暴れる。活きがいいねぇ。聞いたらシコイワシだとか。…むぅ。
そんなこんなで、やっと釣れたメバルは可愛くこじんまりとしたモノでした。でも本命が釣れて、嬉しいというよりホッとしました。
釣り場を何度か移動して糸を垂らす、を繰り返します。でもそうホイホイ釣れなくて、ちょっとウトウトしてきたり…。船長いわく、先日の雨の影響もあってか、今日は当たりが弱いとのこと。釣りは日によるもので運ですから。これも自然のコトワリってやつだと、自分を納得させます。隣のベテランそうなおじさんも、ぼちぼちな釣果のようで、そんなに大物は釣れていなかったです。
猿島や陸を眺めながらウトウト、クイクイしてるうち、陽も傾いてきて納竿となり、寄港しました。
港から海を眺めながら、釣果と疲れを風に紛らしている時、褐色の佐々木がポツリと言ったコメント「男は船、女は港…」の意味はサッパリ分かりませんでしたし、もうどうでもよかったです。ただ釣りってのは自分にはあまりに非日常で、ちっちゃい魚でも釣れれば心底嬉しくて、魚を釣るという行為に愛着が沸きそうです。
一匹の猫が歩いています。この猫も魚に愛着があるようです。それにしても、漁港に猫の姿は似合います(笑)。
店の人に話を伺うと、最近は家族連れや女性の姿、しかも意外に若い年齢層が増えたとのこと。昔はホントにおっちゃんたちの独壇場だった釣りも、今や家族で楽しめるレジャーになりつつあるみたいです。実際他の船では、子連れや若い女性の姿も散見できました。近場で手ぶらでも来れる本格的な海釣り、しかも女性子どもは料金が安いということなので、これからのレジャー計画のひとつに是非加えてみてください。
先ほどから猿島、猿島と出てきますが、猿島もちょっと足を伸ばせばいける観光スポット。東京湾に浮かぶただ一つの自然島で、虫や鳥、草花や木がいっぱいで、戦争中の要塞や砲台の跡が残る無人島です。
猿島は、終戦まで一般の人が立ち入れない旧陸海軍の要塞でした。
現在は三笠桟橋(京浜急行横須賀中央駅からすぐです)から連絡船が出ており、気軽に訪れることができます。本格的な洋式要塞跡の探検や、釣り・バーベキュー・海水浴など小さな島いっぱいに魅力がつまっています。
われわれ取材班は釣りの前日に、先に船に慣れとくか、と適当な理由をつけて行ってきました。
実際着いてみると予想外に多くの人たちが、バーベキューや散策を楽しんでいて、小さな島ながらも人気のスポットなのだなと驚かされました。戦時中は軍の要塞だったで、森の道を行くと所々に、草木の緑に埋もれつつ、レンガの基地跡やトンネルがあり、歴史的遺跡に迷い込んだ感覚になります。のんびり散策し、のんびり次の船を待って、潮風に吹かれる…こんな時間もいいな、と島を満喫した、半分仕事の取材班です。
なお、猿島については、われわれの大先輩スタッフが取材をしています(二〇〇一年七月号)。興味のある方は、バックナンバーが廣田新聞店のホームページに掲載されていますのでどうぞ。
さて、釣った魚はどうしましょうか? 取材班は、アジトである廣田新聞店美しが丘店に連絡し、到着後即料理してもらう手筈を整えました。これも供養です。小さいながらも新鮮な魚をさばく人、揚げる人、美しきチームプレーです。できた料理はアジ・メバル・シコイワシの刺身とから揚げ。釣った人に、最初に箸をつける名誉が与えられました。麗しきチームプレーです。
口に頬ばると、ふっくらして新鮮なうまみが広がります。魚臭さがまったくない! 一同舌鼓。魚のから揚げが、こんなに美味いものだなんて知りませんでした。そして意外にも、から揚げに生ピーマンが合うという発見もあり、ホクホク満足な食事となりました。いやぁ、こんなに美味しくてみんなにも喜ばれて、釣った甲斐があったというものです。
横須賀は今年熱い。市制百周年だから。というわけでイベントも盛りだくさん。八月四日(土)には「二〇〇七年よこすか開国祭・開国花火大会」もあります。近くて自然一杯の横須賀に、この夏ちょっと注目してみてはいかがでしょうか?
(高 野) |