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子どもの頃、縁日でひよこを買った。家に帰ってから、父親に説教された。曰く、縁日のひよこは弱くて育たない。曰く、縁日のひよこは価値のないオスばかりで、万一育っても雄鶏で朝からうるさく鳴く。
結論は「そんな無駄遣いするなら、小遣いはもうやらん!」しかし父の言に反して、このひよこはよく育った。確かに可愛かったのはほんの一時期だったが、成長するにつれ、これも父の言に反して、雌鳥だということが判明したのだ。
私は人から「現金なヤツ」と言われるが、これは父親譲りで、父は雌鳥だと確認するや否や、私への説教を都合よく忘れた。なぜなら、雌鳥は卵を産むからだ。父は即席の小屋を作り、雌鳥の快適生活を保証した。雌鳥はその恩に応えて、当時まだ高価だった卵を、長らく父に提供し続けたのである。
かつて「卵神話」なるものがあったように思う。運動会の朝、必ず生卵を飲んでくる学友の存在、あれは栄養補給というより、親から継承した健康の万能の神「卵」への信仰だったのではないか? 「巨人、大鵬、卵焼き」の世代の方には、理解していただけると思う。
なのにその世代に育ったはずの宮澤担当が卵嫌いだという。卵の親方みたいな丸い体型の、大食漢の彼の言葉とは思えない。今や卵は安くなった。しかし味は薄くなった。大量生産システムのゲージ飼いが原因だろう。
今回取材班は宮ヶ瀬で「卵拾い」をしてきたそうだ。新鮮な烏骨鶏の卵でも食べれば卵嫌いも治るだろうに、宮澤は敵前逃亡したという。生卵でもぶつけてやろうか。
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今年の夏は暑かった。そのせいかどうかはわからないが、編集会議で披露される各スタッフの企画案も夏バテ気味だ。みんな自分の企画が採用され、炎天下に自ら取材に行く羽目になるのを嫌ったのだと思う。
新米スタッフの僕が出したのは「宮ヶ瀬湖」、正直に言うと、単なる思い付きで、体裁だけ繕った夏バテ企画である。僕だって暑いのはイヤだ。
案の定「宮ヶ瀬は五年前にやったからなあ…」とキャップの渋い声。しめしめ、これで難行から逃れられる…。
ところが、先輩達はさすがつわもの揃いだ。僕よりもっとどうでもいい企画で、自らすすんで討ち死にしていく。これはまずい。
「宮ヶ瀬は前にやったんですよね」
「さっき君が言ってた『コッコパーク』とか、前とは違った切り口でやってみるか」
キャップの一言で、僕の企画がめでたく(?)初採用されたが、なぜか気分は曇りがちだ。
わが不幸(?)を嘆きたくなるような猛暑の日、僕、與口(よぐち)は、同僚の井口担当と丹沢山系、大山の北にある「宮ヶ瀬湖」に向かった。
「なんでオレが巻き添えを食うんだよ!」と怒っているのは宮澤さん。新米の僕を心配したキャップの配慮で出番となったのだ。そして、その宮澤さんに巻き添えにされたのが、営業促進課の大塚氏だ。
青葉インターから東名に乗り、厚木方面へ、大和トンネルを抜けた辺りで「愛甲石田を抜けて行きますね」と運転役の大塚氏。すかさず「あっ、なるほど!」と助手席の宮澤さんが返す。
「この阿吽の呼吸は、食べ物の話ですね」と井口担当がつっこみを入れる。
「途中の七沢温泉の辺りに有名なラーメン屋さんがあるんだよ!」と大塚さんの講釈が始まる。今日は「宮ヶ瀬コッコパーク」のほか、いろいろ廻る予定で忙しいのに、まずは腹ごしらえ、というのがこの二人のいつものパターンらしい。
ラーメンの話題で宮澤さんの機嫌も直ったようだ。のんきな二人である。
県道63号線に入ると、だんだん左右の山なみが迫ってきた。「ほら、『ZUND BAR』って看板見えるでしょ…」と前方を指さす大塚氏。そして僕らの同意すら求めずに、県道を左折し、さらに狭い道に入っていく。
「もう、11時ですよ(時間がないのに)」
「大丈夫、お店はもう開いてるから」
「いや、そうじゃなくて…」
脱タマゴ宣言
店内は、周りの風景とは全く違い、町中のお店のようなオシャレな雰囲気。
「要するに『寸胴バー』なんです」
あちこちのラーメン屋さんを食べ歩いているらしい大塚氏。ウンチク話は長いのでここでは割愛させて頂く。ただこの店が「天空落とし」という湯切り技でも有名な大和の「中村屋」の店主のお兄さんの店で、味も「中村屋」譲りだということと、大塚氏がラーメンの写真を撮っていたことだけは、報告しておきたいと思う。(厚木市七沢1954・7
046・250・0123)
いやいや入ったけれど、ラーメンはさすがに美味しい。今度家族と来ることにしよう。
「たまご食べてよ」と宮澤さんが大塚氏のどんぶりに自分の味玉子を放り込む。
「たまご苦手なんだよね」と宮澤さん。
「えーっ、これからコッコパークですよ!」
「たまごは君たちにまかせるよ」
と、脱ダム宣言ならぬ、いきなりの脱タマゴ宣言だー。
「我々はダムの取材に行くから。時間も遅れ気味だしね」誰のせいで時間が押してるんだ?
結局、ヒロタリアンならぬ、メタボリアンの重鎮二人組に押し切られ、二手に分かれて回ることになってしまった。
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「そろそろ湖面が見えてくるかな」峠を越えたようで、道は下り坂になる。
家族サービスで何度か訪れているけれど、何度見てもこの雄大な景色はすばらしい。しばし「大棚沢広場」と云う湖畔の駐車場で湖面を眺める。
さらに車を進め、湖畔のT字路を左折、宮ヶ瀬湖に架かる「やまびこ大橋」を渡る。渡りきると比較的新しい感じの町並みが続く。町並みが途絶え、トンネルを抜け、宮ヶ瀬湖に架かるもうひとつの橋「虹の大橋」を渡ると、そこは相模原市になった旧津久井町
。目指すコッコパークのあるところだ。
横道にそれ、看板を目印に突き進んでいるうちに道幅がどんどん狭くなって周囲も林、林、林、どんどん山奥へ入って行く。山の中にポツンと養鶏場? 動物園? 野菜の即売所? なんともいえない雰囲気のある施設、それが「たまご拾い公園 宮ヶ瀬コッコパーク(相模原市津久井町鳥屋2370
рO42・785・1429 http://www.kokkopark.com/ )」だ。
「2時間後には必ず迎えに来てくださいね!」
「了解。それじゃ、そういうことで」と、去っていく二人。「大丈夫かなぁ」と不安げな井口担当。まぁしょうがない。僕たちはコッコパークを楽しむとしよう。
命のぬくもり、コッコパーク
入り口で、立っていると、中から園長と従業員の方が笑顔で出迎えてくれた。園内に入るとコンビニ袋のような袋を渡される。靴の上から履くのだという。靴が汚れないための配慮だろうか。また「たまご拾い公園」とあるように、産みたての卵を拾うために軍手と小さなカゴも持たされる。
身支度が済み、いざ入場! 入った途端に、奥から放し飼いの犬や鶏やアヒルや七面鳥達が、わさわさとお出迎えに現れた。一瞬にして僕たちの周りを取り囲み、足元にまとわりつく。
以前は七百羽の鶏を全て放し飼いにしていたそうだが、一時の鳥インフルエンザを懸念して、一部を除きほとんどの鶏を小屋で飼育するようにしたそうだ。
「鶏たちの熱烈歓迎」をかき分けながら最初に案内された鶏小屋が、幻の「烏骨鶏」小屋。小屋の中に足を踏み入れた途端に、またもやたくさんの烏骨鶏に、取り囲まれてしまった。しかし、勇気を振り絞り、産みたての卵を温めている雌烏骨鶏のお尻の下に恐る恐る手を伸ばし、そおっと卵をゲット。普段食べている卵とは違い、かなり小さい。それよりも、その温かさに驚いた。手のひらに息づく命のぬくもりにしばし感動〜。普通の鶏が年間二・三百個を産卵するのに比べ、烏骨鶏は五〇個前後だそうで、そんな貴重な卵を親から掠め盗る僕たちって、罪深いよなあ。
この卵は有精卵。しかも厳選した飼料を使っているそうで、甘みとコクがあり栄養満点だとのこと。帰ってからが楽しみだ。夏バテも吹っ飛ぶかも。
さらに格闘は続き、青い殻の卵を産むあすなろ鶏(南米チリ産のアローカナ鶏で、ゆで卵にすると最高)と赤い殻のタマゴを産む地鶏(オランダ産原種のヒペコ種)の卵を拾い集める。結構な収穫になった。拾った卵は買取りとなる。烏骨鶏三〇〇円、アローカナ一〇〇円、ヒペコ有精卵五〇円で、市場より新鮮で(あたり前か)かなり安い。拾わないで買うだけでもよい。
最後にダチョウ小屋を見学させてもらう。雄一羽、雌二羽が飼育されていて、触ったり餌をあげたり出来るそうだが、この日は、あいにく発情期で気が立っているとのことで、遠目からのご挨拶のみ。
ここでは卵だけでなく、烏骨鶏のヒナ、耳の垂れたロップイヤーというウサギも販売している。

大自然に囲まれながら、鶏たちと戯れて(格闘?)いると、都会の喧騒や日々の生活、そして時間の経つのも忘れてしまう。ふと気づくと、約束の2時間が過ぎていた。
「そろそろ迎えが来てもいい頃だよね」と井口担当。
そうそう、僕たちこそ『放し飼い』にされそうだ。
予定より二〇分も遅れて車が到着した。遅刻したにもかかわらず二人ともニコニコ笑っている。
『宮ヶ瀬ビジターセンター』
二人の笑顔を見ると宮ヶ瀬ビジターセンターは相当楽しかったようだ。
「『小さな自然科学館』ていう感じだね。ヤスマツトビナナフシにも会えたし」
「休まず飛び…七不思議って?」
(あんたの性格こそ七不思議だよ)
「違う。ナナフシの種類。ナナフシは木の枝に似た昆虫だ。あとはカモシカやイノシシとかの燻製、じゃない剥製。特にヤマセミは大きくてね」
「セミが剥製になってるんですか?何ゼミですか?」

「あのね。ヤマセミは鳥なの。カワセミの仲間だけど、大きさは倍以上あるんだ。まず実物なんてお目にかからないけどね」
なんだか話が噛みあわない。やはり実際に行くべきだった。
「遊覧船でダムまで行ってきたよ。霧がかかっていてまるで要塞基地みたいだったよ」と大塚氏。
ビジターセンターは清川村。ダムは同じ愛甲郡の愛川町
にある。遊覧船を降りたところに「水とエネルギー館」というミュージアムがあり、ダムの仕組みや成り立ち、水資源の重要性を学びながら遊べるそうだ。
「それから、『インクライン』に乗ってダムの下まで降りてね…」
インクラインとはケーブルカーの一種で、ダムの点検用に工事中使われていたものに箱を付けて上り下りする。ゴムタイヤが付いていて、三五度の急斜面を昇降するものは、他にはないそうだ。ダムが放流している時に乗ると、眼下にゴーゴーと水しぶきが上がり、まるで、どこかのテーマパークのようなスリルを味わえるという(ダムの観光放流は、毎週水曜日と毎月第二日曜日)。
また、ダムの下には「愛ちゃん号」というロードトレインが待っていて、『あいかわ公園』を一周できる。
「君たちを迎えに来なきゃいけないから、公園は諦めたよ」と恩着せがましく言ってるが、このメタボリアンコンビ、きっとどこかで名物の鮎の塩焼きか、そばでも食べていたに違いない。その出張ったお腹が証明している。
宮澤さんがデジカメでダムの上から撮った画像を見せながら「ね、すべり台みたいでしょ。ちょっと滑ってみたくならない?」

すると大塚氏が「滑るのはギャグだけにしてください!』とピシャリ。相変わらず息の合った二人である。
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その晩、家に持ち帰った卵をテーブルの上に並べてみた。子供達は「これヒヨコになるの?」と脇の下で温め、妻はどんな味がするのかと、僕よりも先に卵を割って食べ始めた。割ってみると黄身はプックラと見事な濃いオレンジ色で、味は甘く濃厚。ゆで卵と目玉焼きを妻に作ってもらい、僕も賞味する。こんなに美味しい卵が苦手なんて、宮澤さんも不幸だな。
大自然の中で夢中になって拾う卵、日頃のストレスも吹っ飛ぶぐらいに夢中になれて、さらに栄養満点の卵を味わうことが出来るなんて…。
曇りがちな気分で始まった今回の取材、でも最後には晴れ、快晴。幸せな気分になれた一日だった。
(與 口)




とっておき情報!
毎年十二月に、高さ三十メートルの巨大なもみの木にイルミネーションが灯る「宮ヶ瀬クリスマス、みんなのつどい」が開催されます。
日本一の星空とジャンボツリーの輝きを眺めながら 今年のクリスマスを楽しまれてはいかがですか。
宮ヶ瀬ドットコム
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