■ひろたりあん通信バックナンバー
 2008年8月号
 みんなで歩こう♪ゲゲゲ・野毛
 
 こどもと大人の港町、桜木町駅周辺街歩記

  休日前夜、久しぶりに旧友が遊びに来た。

「今夜は、大いに飲もうぜ!」と酒を携えているが、聞くと車で来たという。

 飲酒運転の取り締まりの厳しいご時世にどういうつもりだ!「大丈夫、明日酔いが醒めてから帰るから」

 こいつ、断りもなしに泊っていく気だ。図々しいが、それはまあいい。でも駐車違反の取り締まりも厳しいご時世だ。

「大丈夫、駐車場に停めたから」

 そういえば、近所にコイン式の駐車場ができたのを思い出す。

「バカ言え、そんなもったいない」そして近所の終夜営業のファミレスの名を出し「あそこならタダだから。過去何回か食事したことがあるしな」と、根拠にまったく乏しい正当性を主張する。

 そういえばこの男、学生時代金がないと、デパートの食品売り場で試食のはしごをしていたっけ。「タダより安い物はないからな」

 飲食費と宿泊費と駐車代を、焼酎一瓶で購う彼に、半ば敬意すら表する私だが、先人の戒めに対してはすこぶる保守的で、どうしても「タダより高い物はない」と考えてしまう。

 金を出さずに居心地の悪い思いをするなら、相応の出費をして精神衛生を保ちたいと思う私は、ある意味貧乏性なのだろうか。

「人さまの心づかいを、むげに断るのは慈悲の心が足りないんだよ」

 ファミレスの駐車場は、オーナーのおまえへの心づかいではないと思うが…。そんな彼は明日、入園無料の「横浜市立野毛山動物園」に子どもを連れていくそうだ。

「税金払ってるから胸張っていけるさ」

 確かにそのとおりだ。しかし、おまえは、川崎市民ではなかったか?
 

 

★          ★          ★ 

 港北NTセンター南店の小林です。昨年、うちの店にデザインの専門学校を卒業後、新卒で入社した若い女性社員がいます。

 田久智穂くん。田久は「たきゅう」と読み、愛称は「Qちゃん」、マラソンが得意かは知りませんが、イラストレーター志望だけあって、芸術的なイラストを描きます。

「Qちゃん、ひろたりあんに力を貸してよ」

「えっ、わたしでいいんですか?」

 美的センスに乏しいキャップの編集には華がありません。

「編集キャップに、楽隠居してもらおうよ」

 僕の優しさをキャップはわかってくれるかな?

 そんなわけで、今回が彼女のデビュー戦。僕と齋藤担当が露払いを務めます。取材先は、大道芸まつりで有名な野毛です。

 といっても、横浜に住んで間もない方は知らないかもしれませんが、駅は市営地下鉄の桜木町。ランドマークタワーや大きな観覧車のある【みなとみらい地区】の駅を挟んだ反対側になります。
 

野毛山動物園
 「野毛なら、いい店知ってるよ」

 三人だから今回は遠慮するのかと思いきや、やはり付いてきたこの人。

「宮澤さん、野毛には飲みに行くんじゃないですよ。今回は野毛は野毛でも、子どものための野毛を紹介するんですから」

「ノゲノゲノゲノゲ言わなくても分かってるよ。いい店といったからって飲み屋さんとは限らんだろう」

 桜木町が初代の横浜駅だったこともあり、古くから賑わった繁華街が今なお残る大人の街というイメージがありますが、実は野毛周辺には、子どもたちが楽しんだり、勉強したりするのに相応しいスポットがいくつか点在しているのです。

 特に僕がお勧めするのは野毛山動物園。なんといっても入園料無料が魅力です。

「タダですか〜?じゃあ、あんまり動物いないんじゃないですか?」と齋藤担当。

「そう思うでしょ。それが違うんです。キリンやライオンなど、百種類以上の動物がいるから、結構見ごたえあるんですよ」

 まずは、案内所で園内マップと【ふぉーしーず(ZOO)ーん】と言うパンフレットをいただきます。このパンフレットにはスタンプを押す欄があり、三ヶ月ごとに更新されるスタンプを押して集めると、その枚数ごとに色々な景品がもらえるのです。

 とくに、アミメニシキヘビの脱皮した皮やインドクジャクの羽根をパウチした下敷きは、ここだけでしか手に入らない貴重なグッズです。

「スタンプ四個ということは、一年に四回来れば、この大きなニシキヘビの皮がもらえるのか〜、こんなのを財布に入れたら、相当お金が貯まるだろうな〜。そうだ、細かく切ってタンスや机の引き出しに入れれば…。それより皆に売ればいいんだ…」

 とらぬ狸の皮…じゃなく、蛇の皮算用をしている宮澤さんはほっといて、三人はさっさと園内へ入ることにしました。

入ってすぐの所にレッサーパンダの「チップ」と「キンタ」がいます。

 立ち姿を写そうと、カメラを取り出し檻に近づく齋藤担当。が…いません。それもそのはず、夏バテなのか木の陰で寝ていました。茶色い尻尾だけが出ています。「残念!」。

← いきなり出鼻をくじかれましたが、可愛らしいレッサーパンダは、Qちゃんが得意のイラストで描いてくれました。

ミラクルアニマル?
「あっ、どこかで見た顔だと思ったら、ミラクルさんだ」いきなり宮澤さんが言い出しました。

「お知り合いですか?」と驚く、素直なQちゃん。 じつはミラクルさんとは、チンパンジーのことです。

 今年三月に入園したばかりのメスのミラクルは、あの日本一の入場者数を誇る北海道・旭山動物園で生まれ、こちらにやって来ました。一昨年、旭山動物園に行った宮澤さんは、このミラクルをしっかり覚えていたと言っていますが…。

「ミラクルの母親っていうのは、育児放棄で3回子育てに失敗しているんだ。飼育担当者が苦労して、母親の母性を取り戻させることに成功させて、育ったのがこのミラクル。これは奇跡なんだぜ。だから名前がミラクル。けっこう有名な話だよ」

「だからと言って、本当に顔を覚えていたかどうかは怪しいものですね〜?」

「旭山動物園で、ミラクルにウ○チをぶつけられそうになったんだ。あの顔は絶対忘れないね」

 あなただって、ウンチクをぶつけて他人(ひと)を困らせてるでしょ。ぶつけたくなるミラクルの気持ちがわかりますよ。
 次の「は虫類館」ではヘビやワニの他、日本でもここでしか見ることができないヘサキリクガメがいます。

 このカメはマダガスカルのリクガメで、世界で最も絶滅の危機に瀕した品種のひとつです。

 現地で保護、繁殖をしていましたが盗まれ、日本にも密輸されてしまいました。業者が摘発されたことで、ここで飼育することになったのです。他にも密輸されたカメが五種類展示されていますが、何だか複雑な心境です。
 


命のぬくもりを感じます
 ライオン、トラ、キリン、シマウマと動物園定番の動物を観ながら歩きます。「野毛山動物園」なかなかあなどれません。 

 三分の二を周った辺りに「なかよし広場」がありました。ここでは、ヒヨコやモルモット・ハツカネズミ等に直接ふれることができます。人気コーナーのようで、平日にもかかわらず沢山の親子連れの姿が訪れていました。

 木屑を敷いた台の上には白と茶の数十匹のハツカネズミ。どのネズミも人懐っこく写真を撮ろうと近づくと、伸びたレンズを伝わってカメラの上に登って来る始末。小さな子どもたちも最初はビックリするものの、慣れてくると体に張り付かせて嬉しそうにしていました。

 それにしてもこのネズミたち、高さ1メートル位の台の上からは、ぜったいに降りようとしません。

「ほら、そこの椅子の上からは飛び降りられても、あの屋根の上からは飛び降りないでしょ。それと一緒、この高さはネズミにとって降りられない高さなんですよ」と飼育員さん。

「なるほど」

「いいや、俺ならあの屋根の上からでも飛べるな」と、宮澤さん。

(じゃあ、飛んでください。いっそのことランドマークの上から飛んでください)と言いたかったけど止めました。なぜなら…

「動物園に来ると、なんだか優しくなれますね」と、手のひらのヒヨコを撫でながら、つぶやくQちゃんのひと言で理性を取り戻したからです。

 なかよし広場の隣には涼しそうに泳ぐフンボルトペンギン。「羨ましいな〜」と眺めていると、足元を綺麗なルリ色の物体が横切りました。なんと、インドクジャクです。

 ここではクジャクが放し飼いになっているのです。小さな男の子が追いかけていくと、クジャクは慌てるふうもなく、のんびりと逃げていきました。

 他にもニューカレドニアの国鳥で、絶滅危惧種のカグーや、大きく羽根を広げたコンドル。眠たそうなラクダに、笑い顔のフクロウなどなど、その種類の多さは、無料の動物園とは思えません。

 八月いっぱいまで【身近な生きもの ZOO〜ム イン!】と題して、神奈川県に住む生き物のパネル展などが開催されています。夏休みの自由研究の課題探しにいかがでしょう。

 そろそろ次のスポットへ向かおうと、「シロクマの家」に入っていったQちゃんを呼びに行くと、そこには目を疑う光景が…、Qちゃんがシロクマの子どもをあやしているではありませんか。な〜んて、このシロクマは実物大の模型。シロクマは空き家になっているので、オリの中に入ったり、自由に見学できます。これも貴重な体験ですよ。


 

横浜市中央図書館
 動物園を散策すること約二時間、日差しは強く、少々へばり気味の四人は、オアシスを求め、すぐ隣の中央図書館に向かいました。

 ここは、地上五階、地下三階の全国有数の大規模な公共図書館です。夏休み中ということもあって、地下一階の音楽・映像ライブラリーのコーナーや、同じ階にある学習室も満員御礼でした。

「学生の頃、家で勉強するより図書館でするほうが、ナゼか勉強はかどったよね」と、齋藤さん。

「静かだし、他の人も勉強してるから私もやらないと…、って頑張るからじゃないですか」と、社会人になって間もないQちゃんの答に一同納得。

 資料はもちろん豊富だし、何より冷房も効いていて無料。図書館の便利さを改めて見直しました。

「私も調べ物をするのに結構利用しているよ」という宮澤さん。

 あんたのは、野毛の飲み屋街に行くための口実でしょうが。
 

紅葉ヶ丘周辺
 野毛坂を通って紅葉ヶ丘に足を向けると「県立青少年センターホール」があります。

 ここの演劇資料室では、演劇雑誌の貸し出し。科学部では夏休みに合わせて、自由研究の相談や科学実験教室などを催しています。

 その隣は、「神奈川県立図書館」です。県立というだけあって、国会の議事録や全国の地方史、全国各地の電話帳や新聞の縮刷版を閲覧することができます。推理小説の探偵なんかが調べにくるアレですね。神奈川新聞は、縮刷版ではなく、そのまま昔の新聞を読むことができました。

 勉強に疲れたら掃部山(かもんやま)公園でひと休み。ここは明治初期、鉄道建設のために来日した外国人技師たちの官舎があった場所です。

 掃部山の名は、幕末の大老・井伊直弼の役職・掃部頭(かもんのかみ)から付けられた。

 桜田門外の変による、井伊直弼の死から約20年、1882年(明治15年)頃、旧彦根藩の士族らが「鉄道山」と呼ばれていたこの丘を買収し、「掃部山」と名付けた。

 掃部山は、1914年(大正3年)に庭園部分と銅像を含めて井伊家から横浜市に寄贈され、整備の後に同年秋に掃部山公園として開園した。

 公園中央に、正四位上左近衛権中将の正装に身を包んだ井伊直弼の銅像が建っている。高さ11メートルの堂々としたこの像は1954年(昭和29年)に再建されたものである。

 注:横浜開港50周年記念の1909年(明治42年)に除幕式が行われる予定だったが、旧攘夷派の人々らの圧力によって中止を余儀なくされる。   

 旧彦根藩の士族たちは、除幕式を断行したが、一夜のうちに井伊直弼の銅像の首は切り落とされてしまったそうである。第二次大戦末期には、政府の金属回収によって銅像は取り払われてしまった。

 つまり、現在の銅像は1954年(昭和29年)に再建されたものである。

NHK大河ドラマの影響か、井伊直弼の評価を見直す意見も最近は頻繁に聞かれる。来年は横浜開港150周年、図書館などで幕末の勉強をしてから、この公園から港ヨコハマを眺めてみるのもいいかもしれません。
 

掃部山 掃部山公園に隣接して能楽堂や音楽堂もありました。

 紅葉ヶ丘から、伊勢山皇大神宮、成田山横浜別院を抜けて再び桜木町の駅前に戻ってきました。

「そうそう、君たちに美味しいものをご馳走してあげよう」宮澤さんに連れて行かれたのは『コティベーカリー』という小さなパン屋さん。大正五年創業の老舗です。

「ここのシベリアは、水羊羹をカステラで挟んであるんだ。美味しいから食べてみな」

 創業当時の製法を守るシベリアは、一個三百円。

「ほら、懐かしい、大正ロマンの味だろ?」

「えっ?栗の味なんてしませんよ」

「それはマロン。ロマンだよ、ロマン。理数系の小林君には男のロマンなんてわかんないだろうな〜。あっ、私は他の取材があるから、ここで失礼するよ」

と、言うが早いか、手を振りながら野毛の街に消えていく宮澤さん。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜。そっちは飲み屋街ですよ。ロマンて、もしかしてスナックの名前ですか〜?」

どうやら、彼には野毛は(のもう)と読めるようです。    

                                     (小 林)
 

 

ゲゲゲ野毛♪ 夜は酒場で・・・
 それではオマケとして、大人の野毛を少しばかりご紹介しましょう。

 まずは、中央図書館を下ってきたところにある串焼き屋【だるま】

 コの字型の小さなカウンター、この店にはメニューはなく、すべておまかせ。 この道四十六年のおやじさんがみせる熟練の包丁さばきと串打ちを楽しみながら、おやじさんに惚れ込んで弟子入りしたお兄さんが手際よく焼いて出してくれる串焼きを味わいます。

 絶妙な塩加減はストップの声をかけるのが惜しくなるほどの美味しさ。なかでも、身先(鳥の尻尾の部分)は、コリコリと美味。肉だけでなくピーマンの中に味噌を入れて焼いた一品や茄子、蒸し椎茸など、充分に堪能できる野毛を代表する老舗ですよ。

 柳通りの【浜幸】は馬刺しのお店。ここでぜひ味わってほしいのが、馬肉と鹿肉が半分ずつ入った、その名も「馬鹿鍋」。

 馬の腸を煮込んだ信州郷土料理の「おたぐり」も、柔らかくて酒の肴に最高。もちろん馬刺しは絶品です。

そうそう、2004年11月号特集 「銭湯を知らない子供たち」に捧げる。歴史探偵 高丸の「裸の大将朦朧記」の中でもご紹介した桜木町駅近くの「明るい農村・居酒屋ごっつあん」も忘れるわけにはいきません。富士山の銭湯絵を眺めながら、ときにけん玉ショーなども楽しめます。度胸のある人はスズメバチを漬け込んだ焼酎もご賞味あれ。最後にスズメバチを油で揚げてくれるのだが、これがなんとカッパえびせんの味。とにかく明るく楽しめるお店ですよ。

 そして、最後のシメは、やはりここ、大岡川に面した「都橋商店街」

 以前、若手の落語家さんに連れてきてもらいました。小さなスナックがずらりと並ぶ二階建ての建物は昭和三十九年、東京オリンピックの時に建てられたもの。

 どこに入ったらいいかわからないという方は、二階にある『優佳良(ゆうから)』をお勧めします。

 横浜の花火大会には毎年露店を出しているという、働き者で気さくなママさんが野毛の夜を楽しませてくれること間違いなし。

 まだまだご紹介したい店はございますが、紙面の都合上このあたりで失礼いたします。ヒック!
 

                                     (宮 澤)

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