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しがないアパート住まいだが、一階なので猫の額ほどの庭がある。
もちろん住民すべての共有財産なのだが、わが家族以外立ち入れないから、わが家の庭と勝手に解釈している(ただし毎月賃料を徴収されるが)。
引越した当時、妻は庭作りにいそしんでいた。
花の種を植え、毎日手入れをする。花が咲き、心が洗われるような景色が出現する。
「ねえ、見て」
流した汗の量だけ妻の満足げな表情に対し、全然汗を流していない、即物的な彼女の夫と、彼のよくないところばかり似た幼い娘は「ああ、きれいだね」と発するだけで、彼女が期待するほどには感動を見せない。
それならと思ったかどうかは知らぬが、次に彼女は庭の一部を菜園に変えた。枝豆やトマトなら、家計の足しになる、節倹こそ賢妻のつとめ(要するにケチ)を信条とする妻らしい選択だ。
しかし、即物的な父子の関心は低いままで、ある日とうとう妻のフラストレーションが爆発した。
「二人してゴロゴロしてないで、草むしりを手伝いなさい!」
しかし妻は、自分が冷静さを失っていたことを、後で心から後悔することになる。幼い娘がいやいやむしっていたのは、雑草ではなく、妻が植えた枝豆の苗であった…。
「どうしてくれるのよ!」幼い娘には罪はないし、私に当たるのも筋が違う。「君がまいたタネじゃないか」でもその一言が争いのタネになり、夫婦喧嘩の花が開くのである。もちろんそれは「サカタのタネ」が開発したタネではないが…。
あれから十年、妻は「サカタのタネ」だけを頼りに、今なお庭作りに孤軍奮闘している。
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夏の風物詩、私にとってはわが家のベランダのミニトマトもその一つです。妻が毎日水をやり、肥料もマメにあげて、今年も実をつけてくれました。小さな植木鉢に植えているせいもあって、数えるほどしかありませんが、わが家のベランダでできたトマトの味はまた格別。サラダの中にその赤い実を見ると、夏が来たことを実感します。
さて、その採れたてのミニトマトを口に入れて「うん。うまいっ!」と言いたかったのですが、去年よりも皮が硬く味も落ちていました。思わず「うーん」とうなってしまいます。見ると妻も同じく怪訝な表情。ちゃんと水と肥料をあげたといっても、何の知識もない素人が育てたせいでしょうか。小さな植木鉢もよくなかったかもしれません。でも去年は同じ条件でも、もうちょっとマシだったような気がします。
ふと高校時代に習ったメンデルの法則が思い出されました。
「交配によって良質の品種ができても、その性質が次の世代には受け継がれない」確かそう習ったように思います。
要するに第一代目の子孫(F1)が美味しいからといって、二代目(F2)が美味しいとは限らないということ。倹約家の妻は確かに去年のミニトマトから種をとっていました。
そんなことを考えていた7月の終わり頃、テレビで「サカタのタネ」という会社が紹介されていました。ブロッコリーのシェアが世界の五〇%を占めること、海外にもたくさんの農場や研究所があること。
種や苗を販売している会社だということは、もちろん知っていましたが、野菜や花の新しい品種を数多く生み出し、それが世界中で流通していることに驚きました。
なんと、あのプリンスメロンやアンデスメロンは、「サカタのタネ」が生み出した品種なのです。
その本社ビルが横浜市内にあると聞いて「今度の特集記事はこれだっ!」と、私のひろたりあん魂に火がつきました。
さっそく会議の席で提案すると、意外なことにスタッフの半数以上が、この会社を知っていました。(およそ、家庭菜園やガーデニングなどに縁の無い人たちばかりだというのに…)
「作って安心、売って安心、買って安心『安心です』がアンデスメロンの由来なんて常識だよ」
好奇心と探究心の火はスタッフにも燃え移ったのか、私の企画がめでたく採用となりました。
朝日、神奈川新聞に連載
「サカタのタネ」の本社は、市営地下鉄仲町台駅から徒歩2、3分のところにありました。社員の皆さんが、日々手入れをされているという敷地内の花壇は、公開緑地として地域の方に開放されています。
「へぇーっ、エントランスからして違うね〜!」
その花壇に思わず感嘆の声を上げたのはご存じ宮澤氏。小さなサボテンでさえも枯らしてしまうくらいだから、家庭菜園などやっているはずもないのですが、環境問題にはうるさいらしく、「CO2やホルムアルデヒドなどの汚染物質を吸収するサンパチェンスという植物も開発しているそうだね」と、興味津々で取材に同行。
受付で来意を告げると、さっそく応接室に案内され、ほどなくして広報宣伝課長の淡野一郎さんがお見えになりました。
淡野さんは、同社農場にて花卉類の品種育成にブリーダーとしてたずさわり、東京農業大学の非常勤講師もされているという種苗の専門家。今年の6月まで朝日新聞の増ページ「be」に自身の家庭菜園について連載されていたので、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。現在は、神奈川新聞で『やってみよう、やさいの栽培』というコラムを執筆されています。

新しい品種育成
「創業者の坂田武雄氏は今の社長の祖父にあたる方で、事業を始める前に国費留学で米国やイギリス、オランダなどに滞在して、苗木や球根の勉強をされました。帰国後(一九一三年)横浜の六角橋に坂田農園を設立したんですが、当初は外国の苗木を輸入して販売しようとしたんですね。でも、これはあまりうまくいきませんでした」
日本の検疫体制の立ち後れから、検疫を通らず焼き捨てられたこともあったそうです。
「それで、苗木がダメなら種子をやろうということで種子の輸出を始めたんですね」
当時はタネを輸入することはあっても、輸出することは珍しかったそうです。
「在来のタネの輸出と、海外の野菜や花の種子の輸入。この二つですと、ただ単に商社の機能しかありませんが、そこに品種育成。新しく自分たちで品種を作ろう。自分の農場で品種育成を進めて、優良品種を輸出しようと考えたんです」
生産と研究開発、それが「サカタのタネ」が発展する礎となったのです。そして一九三〇年(昭和五年)、世界で初めてというオールダブルのペチュニア「ビクトリアスミックス」が最初のヒット商品となりました。
「ペチュニアっていう花は、通常は一重咲きなんですけど、それをオールダブル(全て八重咲き)になる品種を育成し、そのタネを輸出したんです。これが大変好評を博し、全米審査会で入賞、欧米では1グラムのタネの重さが、同じ重さの金の8倍の価格で取引されました」
その後は、パンジー、トルコギキョウなど、新しい品種を次々と開発。国内外の種苗コンクールで数々の栄誉に輝きました。野菜も含めその数一二五種以上。つい先日も、生産管理部次長の別所雅夫氏がオール・アメリカ・セレクションズ(全米審査会)で2008年度のブリーダーズカップを受賞されたそうです。
「パンジーは元々春の花なんですが、これを秋咲きにしたのが当社なんですね。さらに『よく咲くスミレ』といって、冬でもよく咲くものも開発しました。それから、タカラさんと一緒に企画した『虹色スミレ
with リカ』ですね。これはリカちゃん人形とタイアップしたパンジーです」
白い花弁の周囲が赤、ピンク、ブルーなど、まさに虹色の珍しい花色のパンジーです。こうしたパンジーの売上金の一部は骨髄バンク事業に寄付されているそうです。
「トルコギキョウは、ヨーロッパでは第二次大戦で全滅して、日本の長野と静岡で細々と栽培されている状況だったんです。これをF1品種化し八重咲など様々な品種を開発しました。この花は現在花屋さんでブーケに使いやすい花として重宝されています」
特に「ロジーナ」という品種は、思わず「バラ?」と思ってしまいました。このトルコギキョウは、蕾から咲くまでの間に色が変化するので、ブーケを作る際にバラのように数種類を買って揃える必要がありません。現在世界で七〇%のシェアを占めているそうです。
適地適作
野菜の新品種も数多く開発されました。皆さんご存知のピーターコーン、ハニーバンタムといったトウモロコシも「サカタのタネ」オリジナルです。大玉トマト五品種をひとくくりにまとめた統一新ブランド『王様トマト』もトマト好きにはたまりません。
「トマトっていうのは、青いうちに収穫するんですね。ですから、店頭に並んだトマトは栄養価が低いとか、味がよくのってないなどの問題があったんです。家庭菜園のトマトが美味しいのは熟してから、もいで食べるからなんですね。『王様トマト』は、赤くなってから流通にのせることができる、家庭菜園のようなトマトをお店で買って食べてもらおうと開発したんです」
「それから『フリーダム』というイボの無い品種のキュウリですね。イボがない利点は、消毒の必要がないことです。水洗いだけで済むので味が落ちないんです」
「それは料理で使ったことあります。シャキッと歯ごたえがあって、竹輪に入れる時入れやすいんですよね」と宮澤さん。
それって料理じゃなくて、酒のツマミじゃないですか。ずぼらですね。さすが、サボテンを枯らすだけのことはあります。
ベランダで育てた今年のトマトについても尋ねてみました。
「お庭のミニトマトの皮が硬い原因がF2だからということは充分考えられますね。タネ屋としてみたら、毎年買ってもらう方がいいんですが(笑)、個人的に楽しまれるぶんには、遊びで色々と掛け合わせてオリジナルを作ったりするのはいいと思うんですね。ぜひやってみてください。植物の世界が面白くなりますしね」
海外の農場や研究所は、欧米、アジア、アフリカなど一九ヶ所の拠点があり、それぞれの土地にあった品種の開発・販売され、一三〇カ国で同社の種が流通しています。
「野菜の自給率が昨年40%をきったんですけど、先進国で最低の自給率ですね。ただ自給率とタネの生産がごっちゃにされて誤解されているんですが、私たちが口にしている野菜はほとんどが元々原産地は海外なんですよ。ですから、海外の野菜は原産地の気候っていうのが彼ら(野菜)の生育に一番ぴったり合っているんですよ。そうやって収穫したタネの方が安定した良いタネがとれるんです」
日本で販売しているタネの約80%は海外で採種したものだそうですが、それには理由があったんですね。
地球規模で社会貢献
取材のあと、本社ビルの屋上に案内してもらいました。同社では、十二年前に建てられた当初から屋上に木を植えて緑化に努めてきました。
色々な木が混在して植えてあるため、虫が大発生しないことと、保水性と通風性の高い土を使っているため、剪定だけで水やりをしなくても緑が保たれています。
また、横浜市内の学校にゴーヤで緑のカーテンを作る企画では、社員の方が栽培指導を行っていらっしゃるとのこと。
こうした緑化事業だけでなく、先述した地球環境を考えて開発されたというサンパチェンスを公園や商店街に植栽される普及活動など、「地球規模で社会貢献を目指している企業」なんだと心から実感しました。
私も帰ったら、別の野菜に挑戦してみたいと思います。もちろん、サカタのタネで…。
(高 川)
ガーデンセンター 横浜
「サカタのタネ」のタネは、全国のタネ屋さんで買うことができますが、これから家庭菜園を始めようかという方は、ぜひ京急神奈川駅の近くの直営店「ガーデンセンター横浜」に足を運んでみてください。


ずらりと並んだタネの豊富さもそうですが、初心者に分かりやすく説明してくださいますよ。また、会員の方は、一部商品を除いて1割引で購入できる通信販売もあります。
横浜市神奈川区桐畑2 TEL.045(321)3744

ホームページ http://sakataseed.co.jp/

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