■ひろたりあん通信バックナンバー
  ▼2008年8月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■街道を往く 大山街道編 9 

黄泉の国と奥都城
  市ヶ尾からもえぎ野に抜ける新道を通り、医薬神社の裏手から境内に入る。以前はこちら側が正面だったことは、先月号で書いた。その裏手の小さな階段のところに祠があり、右から「双体道祖神」、「地神塔」「大師坐像」、そして宝篋印塔か五輪塔の上の部分が置かれている。

「これらの石仏は、以前はもっと下の方にあったそうですよ。さっきの田中屋マートの信号から、この新道を上ってくる途中の左側ですね。こちらから見ると右側ですけど」

「私は、さっきのT字路の手前だって聞いたんですけどね」

「テニスコートがあった辺りですね。それは区画整理で移動したあとです。当時、高橋さんというお宅の畑の隅に保存してあったものを昭和六〇年頃に、ここへ移したんだそうです」

 当時の写真を見ると、草むらの中に五つの石造物が仲良く並んでいる。

「地神塔と大師坐像に【左 大山道】 と刻んでありますね」

「崖くずれが多いので、旅人に分かりやすいように、道標の役割もしていたと聞きました」

 祠の前の階段を上がると、神社の横に小さな公園がある。公園と社殿の間を通って正面にまわり、参拝をすませて、ふたたび公園に戻る。坂を上ってきたので、ここらで一休みしたいところだが…

「この信号を左に入るんですね」津屋さんは、すでに公園の外に向かって歩き出していた。慌てて追いかける。

「津屋さん、あの高台のいちばん目立つところに見えるのが、廣田花崖の墓なんですよ」

 医薬神社から信号を挟んだ斜め向かいの高台に【黄泉の国】という名の墓地がある。廣田新聞店の創業者、そして作家、廣田花崖は、この墓地に眠っている。

 【黄泉の国】にある他の方々の墓石には『○○家之墓』ではなく『○○家奥都城』と刻まれている。

「奥都城(おくつき)ですか。神道の墓の形式ですね。万葉集にも出てきますよ。都(つ)は格助詞で(〜の)ですね」

「さすが津屋さん、やはりご存知でしたか。城には四方を囲まれたという場所、柩の意味もあるそうです」

「それにしても、花崖さんの墓は、一番いい場所に建っていますね」

「昔は、あの場所から多摩川の花火が見えたそうですよ。切り通しで道路を造ったせいで、崖のようになっていますけど、神社からは、なだらかな道が続く丘だったそうです」

「医薬神社前」の信号から、その切り取った道に入り、柿の木台町内会館の前を通ると「藤が丘ゴルフクラブ」のグリーンが目に飛び込んでくる。

「一里榎の先のT字路から新道に出て、医薬神社まで上ってきましたよね。じつは新道をそのまま、まっすぐ突っ切り、住宅地を大きく右にカーブしながら、ここまで続く道、それも大山街道なんです」

「というと、医薬神社に向かう道と、こちらの道と二つに分かれているんですね」

「はい。ただ、ゴルフ場に沿ったこの道は、昭和の初めに造られた新道で、元々の旧道はもっと高い位置にありました」

千代吉の茶店
 ゴルフ場に沿って百メートルほど歩くと、右に入る路地がある。その路地の手前の角。今歩いている道と並行するように坂道が庭へと続く住宅がある。

「こちらのお宅、石原さんというんですが、この坂の道が旧道です」

「ずいぶん高いですね」

「こちらの道より、七〜八メートル高いです。実は、このゴルフ場の土地も、ここと同じ位の高さだったそうです。ようするに、元々の土地があの高さで、この新道は切り通しだったということですね。石原さんの先祖は江戸時代にこの場所で茶店をやっていたそうです」

「それは聞いたことがあります。だけど、あんな高いところに大山街道が通っていたとは知りませんでした」

 故、戸倉英太郎氏の「都筑の丘に拾う」という著書に「和田に二軒の掛茶屋があった。荏田と長津田の中間で、其の上大変見晴らしのよい所であるから旅人の腰を休めるものが多く、二軒ともよく繁昌した」と書かれている。 

 石原さんの茶店は『池谷のみせや』と呼ばれ、安倍川餅や駄菓子、酒も売っていたそうだ。

「茶店を始めたのは、現当主・石原博さんの曾祖父で千代吉という人です。元は、もえぎ野小学校の近くに住んでいた石原家の三男だったそうですが、江戸時代の末期、二十三、四の頃に結婚して、この街道沿いに店を出したんです。よっぽど繁昌したんでしょうね。このゴルフ場の土地は、明治時代に、その儲けで手に入れたそうですよ。先見の明と商才、そうそう文才もあったそうで、子どもたちに手習いも教えていたそうですよ」

 その曾祖父・千代吉が江戸時代に伊勢神宮に五十日かけて旅した道中記を、石原博さんが『伊勢参宮道中記〜曾祖父千代吉の旅路を探る〜』という本で紹介されている。

「ほう、読んでみたいものですね」

「今度お貸しします。面白いですよ」

「ところで、もう一軒の茶屋はどこにあったんです?」

「この先をまっすぐ行った、上條整形外科と藤が丘地区センターのところです。あ、その前に、またちょっと寄り道したいんですけど、いいですか?」

「はは、またお地蔵様ですか?」

「あれっ、すごいですね。当たりです」

 ゴルフ場の駐車場を突っ切って、道を何度か曲がると、藤が丘第二公園に出る。

 この公園の一角、赤い帽子に赤い前掛け、なんと赤い波柄のワンピースまで着せてもらった一体のお地蔵様がポツンと立っている。近くまで来て初めてお地蔵様の前に一人の男性がうずくまっているのに気がついた。
 

                                               つづく

街道を往く 大山街道編の「ひろたりあん特製マップ」を差し上げます。

※荏田宿〜長津田までの地図をクリアファイルブックに綴じたもの。現在もえぎ野まで完成しています。それ以降の地図は連載にあわせて随時お届けします。

ご希望の方は、住所、氏名、電話番号を明記の上

メール hirotarian@b06.itscom.net 

もしくは、FAX 045-971-4982 にてご応募ください。


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電話 045-974-4433 

メール hirotarian@b06.itscom.net

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