■ひろたりあん通信バックナンバー
 2009年4月号
 『
南総陽春発見伝』
  ひろたりあん三人衆 海を渡る

 昔、高校の同級生たちと一緒に車で正月帰省したことがある。

 もちろん、交通費の負担を軽減しようという魂胆だ。

 当時の私が所有していたのはポンコツのワゴン車で、後部座席で仮眠がとれるというメリットが歓迎され、提供させられることになった。

 同行するのは私を含めて三人。そのうち一人は女友達、もう一人の男は当時大阪近郊に在住していて、途中で拾うことになっていた。

 実はこの二人、長距離恋愛中で、彼らの久々の逢瀬を楽しもうという魂胆も垣間見え、その「利用された」感が、少々不服ではあった。

 12月30日、女友達を助手席に乗せ、深夜の東名・名神を走る。ところがこの女友達、図々しくも私の横でいつの間にか寝入っている。おまえ、ばちが当たるぞ! と思っていたら、それはその後現実となった。

 友人を拾い、中国自動車道に入ると雪が降り始めた。すぐに雪は激しくなり、路面を覆い始めている。

 雪道の運転は未経験だった私、急に大きく左右に振れ出した後輪をコントロールできずに、路肩の土盛りにドッスン…、後部座席で熟睡していた図々しい女友達は、その衝撃で座席から転げ落ち、額に大きなこぶを作った。ざまあみろ! と言っている場合ではないが、低速走行だったので、バンパーの破損のみの被害は幸運だった。

 修理代を足せば結局割高だったマイカー帰省だったが、この出来事が仲を取り持ち、後の彼らの結婚を後押ししたと考えば、安いものだったかもしれない。もし当時ETC割引があったら、元は取れていただろうか。

 


★          ★          ★ 

 三月のとある日、編集キャップが不敵な笑みを浮かべながら、こっちへ来いと手招きをしました。ふと嫌な予感が…。

「高速道路のETC割引が始まっただろう、そのメリットを体験取材して読者に活用してもらおうと思う」

「はぁ…」

「紹介するのはマザー牧場。今まで会議で何度も企画が上がったが、距離と予算で二の足を踏んでいた。今回は、アクアラインも千円になったことだし、君たちもたまには羽を伸ばしたいだろう?」

「いいですねぇ。じゃあ、お昼はジンギスカン食べてもいいですか?」

「もちろん、食べなさい。ソフトクリームも腹いっぱい食べなさい。あっ、そうそう、あそこにはバンジージャンプもあるから、それもしっかり体験してきてね」

「…」

 そりゃ、仕事と言われればやりますけど…。

「自分がですか? それとも宮澤さん? まさか…上野さんじゃ…」

「誰でもいいです。ジンギスカン食べて遊んで来れるんですから、それくらいのリスクがあってもいいでしょう」

(そ、そうかな〜?)

ETC付いてないです〜 
 ということで、宮澤・上野・私大塚の三人は、私の愛車の「軽」に乗り込み、千葉へと旅立つことになりました。

「えーっ、軽?」

 紅一点の上野が、頬を膨らませます。

 「二人が乗ったら重量オーバーで動かないんじゃないの?」

 余計なお世話です。

「高速料金の割引きについて、自分は納得してないんだ」車に乗り込む前から、不満を口にする宮澤さん。

 「不公平でしょ。ETC付いてない車はどうするの?それ以前に車の無い人にはメリットないし。だいたい、地球温暖化防止に逆行しているだろう。ガソリンの暫定税率の時は、あれほど言っていたのに〜、まったく矛盾だらけだ」

「はいはい、それで宮澤さんは行くんですか?行かないんですか?」

「もちろん、行きますよ。読者に情報提供するためなら仕方がないじゃないですか」

 やはり、ジンギスカンが効いたようです。因みにバンジーの話はまだしていません。

 横浜青葉ICより東名高速に乗り、横浜町田から保土ヶ谷バイパス・狩場線を通って、ベイブリッジ・高速湾岸線から、アクアラインに入りました。トンネルに入ると約十キロ弱で、海ほたるに着きます。

 海ほたるは、アクアラインの途中にある、パーキングエリア機能をもった人工の島です。

 海ほたるの各お店は「千葉産」の品物に拘って扱っているようで、極端な話、千葉県内を巡らなくても、ここで千葉の美味しいものが堪能できてしまえそうです。私たちは熱々の「木更津揚げ」を道中のおやつにゲットしました。

 千葉県に上陸すると、すぐ料金所です。基本料金(軽2400円)を払う姿を見て、上野が毒を吐きます。

「あれっ、ETCの体験取材じゃなかったんですか?」

「土日の取材だと混むから仕方ないでしょ」(この日は平日。それ以前にこの軽、ETC付いてないんですけどね)

 木更津南インターを降り30分、マザー牧場に到着。ETC搭載車なら、オープンしたばかりの館山自動車道「君津PAスマートIC」で下車すればたったの10分です。

 チケットを買い『まきばゲート』から入場して、最初に向かったのは、ふれあい牧場。ブタ・ヤギ・うさぎ・モルモット・アヒルなど、小動物が気持ちよさそうに寝ています。もちろん、動物たちを抱っこしたり、ふれあうこともできます。

 

バンジー窮す
 目に飛び込んできたのは、斜面いっぱいに広がる菜の花畑。黄色い絨毯を見渡しながら小道をあがっていくと、バンジージャンプの塔が…。

 一応、仕事だからと覚悟はできていますが、本当はやりたくないです。

 バンジージャンプの受付に行くと先客がいました。お父さんと小学生の女の子。地上にいる係の方の掛け声にあわせ「ワン・ツー・スリー・バンジー!」で、何の躊躇もなく飛び降ります。すごい。

「宮澤さん、やりますか?」

「あたたた、じ、持病のヘルニアが…」と簡単に断られました。

「上野君は…?」

「私、心臓が弱いし…」(言動からは、そう思えないけど…)

「わかりました。やりますよ…」 

 これが本当のバンジー窮す。やっぱり、こうなると思っていました。とぼとぼ受付へ向かうと、係の方から「体重制限があるんですけど、大丈夫ですか?」と聞かれました。

 制限体重を見ると、微妙にオーバー。思わず顔がほころぶ私。

「いや〜、機械を壊して迷惑かけちゃいけないし…、潔く撤退します。本当に残念だな〜」ホッ。

羊たちの沈黙
 心の重荷が取れてすがすがしい気分の三人、次にアグロドームのショーを見学しました。

 様々な種類の羊たちが、ひな壇に並んでいます。

 その舞台の手前、一匹の羊が係のおじさんに押さえつけられています。すると、おじさんは、その羊を台の上に引きずり上げ、バリカンを手に、羊の毛を刈り始めました。羊は何の抵抗もせず、おじさんにくるくると色々な態勢にさせられながら、毛を刈られていきます。羊のあまりの無抵抗な様子に、思わず笑いがこみ上げてきました。

 まな板の上の鯉ならぬ、舞台の上の羊。ひな壇の上の羊たちも大人しく言うことを聞いています。まさに羊たちの沈黙。羊のように大人しい…とは、こういうことなんですね。
 


 

○バケン、そりゃないよ
 アグロドームを出て、裏側に行くと、羊たちが柵から顔を出していました。「羊のえさ百円」とあるので、百円を入れて箱から袋を一つ手にします。中身を見ると、牧草と固形飼料とコーンフレークのようなものが入っていました。

 餌を手に取り、羊の口元へ持って行くと、ペロペロと羊がえさを舐めています。

「NTC南店のKさんそっくりですよ」と上野が笑っています。

「本当だ、○バケンだ」

と三人で大爆笑。

「○バケン、さあお食べ」と、名前を呼びながらえさをやると、よだれで手がベトベトに…。

「うわっ!汚っね」

 

ビールもですか…
 もうすぐ11時という時間ですが、早めの昼食にします。メニューは予定通り「ジンギスカン」。

 マザー牧場内には三カ所、ジンギスカンを食べられる場所があります。そのうちの一つ「バーベキューテラス」に入り、眺めのよい場所に席を確保。ここは、セルフサービス式で、盛りつけられた料理をお皿ごと選んで、レジでお会計し、席に自分で運ぶというやり方です。

 席に着くと、宮澤鍋奉行が一言…

 「まずは牛脂を溶かしながら鍋全体になじませるように伸ばす。野菜をいっぱいのせて、それから肉。こうして蒸し焼きにするんだ」と、言いながら、いつ頼んだのか生ビールをグビリ。

 運転をしないのをいいことに、一人で盛り上がっています。バンジーはやらないは、ビールは飲むは、キャップのコメカミに血管が浮かぶのが見えるようです。
 

千葉で硫黄の温泉?
 「温泉はないんですか? 疲れたから温泉でまったりしましょうよ」と、上野が提案しました。

 そんなこともあろうかと、マザー牧場から約1時間ほどの所にある『七里川温泉(君津市黄和田畑921-2 рO439-39-3211)』という一件宿を探しておきました。

 以前テレビの旅番組で見て、自分も行ってみたかったんです。

 火山がない千葉県で、硫黄の成分を含むのがここのウリ。日帰り入浴も可です。

 建物の中に入ると、いろりがあり、何人かのお客さんが寛いでいました。日帰り入浴料一人800円。

 例によって昨日も徹夜だったという宮澤さん、車内では爆睡していたのに、温泉と聞くと生き返ったように露天風呂に駆けて行きました。

 この七里川温泉の源泉は、十六度なので沸かしています。効能は、切り傷・皮膚病・婦人病・糖尿病など。

 内風呂で温まってから露天風呂に行くと「つくしだ。つくしだ」と、宮澤さんが叫んでいます。見ると、浴槽の傍らにつくしが生えてました。桜やタンポポなど春真っ盛り、ここからは自然の山々も一望です。

フラワーラインのお花は…
 
せっかく、ここまで来たんだから、館山に行こうよ」と、城マニアの宮澤さん。

 なんでも館山城は、南総里見八犬伝の舞台になった城だそうで、資料館の天守閣には、NHKの人形劇「新・八犬伝」の人形も展示してあるとか。

 海が見えてきました。天津で国道128号線に入り、海沿いを南下。しばらく走ると鴨川シーワールドの前を通過し、南房総市に入ります。

「そうだ。この辺に鯨を食べさせるお店があるはずなんだけど…あっ、あった、あった」

 和田浦の国道沿いに「くじら家」というお店がありました。

「ここは食堂だけでなく、鯨製品のお土産物も売っているんだよ。ジンギスカンを食べて、さすがに鯨料理まで食べたら、キャップに何言われるかわかんないから…」

「言われるだけじゃ、すまないでしょ。クビですよ、クビ」

「だから、お土産を買って帰ろうってこと」

「なるほど、鯨のお土産でご機嫌を取ろうってことですね」

「はぁ?自分のお土産に決まってるだろう」

「な、なんと…すばらしい」

 クジラベーコン、鹿の子、サエズリ、本皮、そして尾の身と、美味しそうな鯨肉が並んでいます。宮澤さんは、大和煮の缶詰と「くじらのたれ」なるものを買っていました。

「なんですか? クジラ専用焼き肉のタレですか?」

「なァ〜にィ〜、知らないの、鯨のたれ? 鯨の肉を干したものだよ。独特なタレにつけて天日に干すからタレっていうの」

 小学校時代は、給食に鯨が出ましたけど、タレは知りませんでした。
 

ああ、天守閣
 鯨のお土産を買って安心したのか、再び爆睡の宮澤さん。私も上野に運転を替ってもらい、少し休憩します。

 海沿いをだいぶ走りました。館山に行くには、外房黒潮ラインと海沿いを回るフラワーラインの二コースがあります。

「遠回りですけど、せっかく房総に来たんだから花を楽しみながら行きましょう」

と、上野の意見で日本の道百選にも選ばれたフラワーラインで館山に向かうことに…これが、悲しい結末を迎えることとなるのです。

 時期が遅かったのでしょう、フラワーラインの道路脇の花は、すでに散っていました。まあ、太平洋の雄大な景色を楽しめただけでも好しとしましょうか。

 館山市の市街地に入ると、天守閣が見えてきました。

 城山公園駐車場に車を止めると、ムックリ起き上がった歴史探偵。車外に飛び出すと、公園の桜の花には目もくれず、私たちを置いて坂を駆け上がって行ってしまいました(どこがヘルニアなの?)

 私たちがのんびり上がって行くと、宮澤さんが天守閣の前で呆然と立ちつくしていました。

「間に合わなかったよ〜〜」

 市立博物館の分館である天守閣は5時で閉館。時計を見ると20分も過ぎていました。

「そ、それは残念でしたねぇ」

 外房黒潮ラインを通っていたら、たぶん間に合っていたでしょう。フラワーラインで来たなんて、口が裂けても言えません。

 八犬伝の人形には会えませんでしたが、天守閣から見る景色は最高でした。眼下に広がる館山市街。その向こうには夕日に照らされた東京湾。

快晴なら、富士山や丹沢の山々も一望できるそうです。

東京湾フェリー♪
 館山で美味しい地魚を食べていこうか、と言う宮澤さんのお尻を叩き、東京湾フェリーに乗るため、浜金谷を目指します。

 帰り道、マザー牧場で貰ったパンフレットで運行時刻を確認すると、ちょうど、最終便の時間に間に合うことがわかりました。因みに一割引のフェリーの割引券もマザー牧場で貰えます。

 浜金谷から久里浜まで約四十分。久里浜からは横浜横須賀道路、保土ヶ谷バイパスと東名で青葉市ヶ尾ICまで約一時間。初めて海を渡った今回の取材、無事に帰宅することができました。

 残念ながら(?)バンジーはできませんでしたが、丸一日で十分旅を満喫できました。折角の料金割引、たまには海を渡ってみるのもいいもんですよ。      

                                      (大 塚)


 

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