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地元、横浜ベイスターズの体たらくぶりに、私の野球への興味は、海の向こうMLBのイチロー選手一人に絞られた。
この号が出る頃には、9シーズン連続200本安打の偉業が達成されているはずだ。
ところで野球と「3」という数字とに奇妙な関連性があるという。三振・3アウト・三冠王はもちろん、9回・塁間90フィート・バッテリー間60フィート6インチ等々、主要なルールは不思議と3の倍数に支配されているのだ。だから、背番号3の長嶋さん、51のイチロー選手、18の松坂投手…みんな野球の申し子ってわけだ。
3は、正三角形を見てもわかるとおり、非常にバランスがよいせいか、他の数字よりも使用頻度が高いようだ。
日本三景・三筆・三猿・三度目の正直・三種の神器・三日坊主・かけつけ三杯…数え上げたらきりがない。古くはてんぷくトリオ・トリオスカイライン・レツゴー三匹・漫画トリオ・ぴんからトリオ、今ならダチョウ倶楽部・ネプチューン・わが家等々、三人組のお笑いも多い。
実は、ここまで3にこだわるのは理由がある。
「昔『3ばか大将』って、アメリカ製喜劇がありましたね。石頭のカーリーが白目をむいてウヒーと声をあげるのがおかしくってね」ここでもウンチクを語る宮澤に「3ばか大将はおまえらだ」と心の中でつぶやく。
三人で取材に出かける宮澤たちにトリオ名を付けたいのだが、なかなかいいのが浮かばない。だから宮澤の「くいしんぼうトリオ」を今回は採用したが、仮称としておく。ただし宮澤個人は「3ばか隊長」で決定とする。
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ギリギリ神奈川シリーズ?
ツクツクボウシが鳴いている。まだ8月なのに、空には秋の雲。(そういえば、今年は熱帯夜もなかったな〜)少し早めの秋の訪れを喜んでいたら、同様に夏の嫌いな大塚君が、いつものように屈託のない笑顔でやってきた。
「宮澤さん、9月の特集ですけど、ギリギリ神奈川シリーズっていうのはどうですか?」
「何それ?」
「ほら、宮澤さん、7月号で湯河原行ったじゃないですか〜」
どうやら、湯河原に私一人で取材に行ったのがお気に召さないようだ。
「だから、あれは他の仕事のついで。ギリギリって、また箱根あたりでも行こうものなら、キャップにイヤミを言われるよ」
「安心して下さい。今度は静岡ではなくて、山梨との県境ですから」
「よけい遠いだろ!」
「近いですよ。津久井ですから」
「津久井?…あ、津久井か〜、なるほどね。でも、ツ・ク・イ・でナニをする〜?」
「温泉がありますよ」
「温泉あったけ? でも、それだけじゃな〜。…あ、そうだ。津久井といえば、村田さんだ。ちょっと聞いてみるよ」
「誰ですか?」
「郷土史に興味のある人で村田さんを知らない人はまずいない。津久井に住んでいる歴史研究家の村田公男さんだよ」
早速電話を入れると…、
「残念だな〜、日にちが合えば案内してあげられたんだけど…」
なんと取材当日は、長野方面に調査に行くことになっているそうだ。
「城山町の役場で、私の名前を言ってもらえれば、いろいろと教えてくれますよ」
ということで、行き当たりばったり、情報は現地調達ということになり、私と大塚、そして色気より食い気の上野嬢の三名は、翌朝7時半に市ヶ尾から『ETC無し軽自動車』に乗って城山町へ向かうことになった。
津久井は相模原市
平日朝のラッシュのせいで約1時間半かかって役場に着いた。正式には、相模原市城山総合事務所。
相模原市…?
そう、城山町・津久井町・相模湖町・藤野町の4町で構成されていた津久井郡は、平成の大合併で、相模原市に編入されて消滅したのだ。ちなみに、その合併によって相模原市は人口が70万人を超え、神奈川県第三位、政令指定都市以外では、日本一人口の多い都市となったのである。
ついでに、城山町、津久井町は(まち)ではなく、合併で(ちょう)になった。
二階の城山経済環境課に伺って、村田さんの名前を出すと、
「あ、村田先生のお知り合いですか」と、好意的な対応。ただ、津久井のオススメをお聞きすると…
「オススメと言われましても津久井は広いですから…」と、少し戸惑い気味の返事であった。
とりあえず、観光マップとリーフレットで、津久井湖と津久井城跡の城山周辺のスポットをいくつか教えていただいた。
「そうか、城山を忘れていたよ。神奈川の城はほぼ攻略したけど、津久井城は縁がなくて、まだ落としていなかったんだよ」
城と聞いて、がぜん力が湧いてきた。はしゃぐ私を横目に、浮かない顔の二人。
「それより、相模川の鮎を食べさせる釜めしのお店がありますよ。お昼はそれにしましょうよ♪」と、助手席の上野がマップの広告を指差しながら、話題を変えた。
ところが…、
「できれば、川魚は避けたいんですけど…」
驚いた。なんとあの大塚君が、泣きそうな声で、食べ物を拒否したのだ。
「嘘だろ!君に嫌いな食べ物なんてあるはずがない」と、私。
「そんなことないですよ。大塚さんは、柿とバナナもダメなんですよ」と、上野が変なフォローを入れる。
「ま、せっかくだから、今日のお昼は相模川の鮎でいいんじゃない」
「そんな〜(泣)」
かんこ焼きとパンダメダカ
車を津久井湖畔にある『津久井湖観光センター』の駐車場にとめて、城山に向かおうとしたら、「その前に、観光センターをのぞきませんか?」と上野嬢が言いだした。
観光センターの中は、地元津久井地域でとれた農産物や地元企業の加工食品など、美味しそうな名産品がたくさん売られていた。
平日にもかかわらず大盛況。大塚君が通路ですれ違うのに苦労している。
いいものを見つけた。『かんこ焼』という津久井地方の郷土料理だ。地元の方に怒られそうだが、長野県の「おやき」に似ている。
「観光センターだから、かんこー焼きですか?」と上野がおバカな質問。
そうではなくて、乾いた粉で乾粉だそうだ。これから城山に登ってもらうので、二人にも買ってあげた。それぞれが、切り干し大根、かぼちゃ、しめじの具入りを選び、お店の人にチンしてもらう。津久井湖をながめながら、熱々をほおばる。こういう素朴な味は嫌いではない。
観光センターの表でメダカを売っていた。メダカなんて久しぶり。しかし、近づいてよく見ると瓶には白メダカ、ピンクメダカと書いてある。
驚いていると、店のおじさんが、「もっといるよ、ほら、これはパンダメダカだ」と瓶を渡してくれた。
「本当だ。目がパンダのように黒い」
メダカは30種類位いるそうだ。
二人EXILE
腹ごしらえをすませ、いよいよ城山に登る。涼しいせいか、今日は体調もいい。ズンズン登って行って、振り返ると二人がいない。なんと、まだ入口付近の案内地図を眺めているではないか。
「おーい! 何してんの〜?」
「だって…、頂上まで40分もかかるんですよ。四月の館山城とぜんぜん違うじゃないですか〜」
当然だ。館山城は平山城。津久井城は標高約三五〇mの山城だ。
「地元じゃハイキングコースだぞ〜」というより、散歩コースだ。
やれやれという表情で、歩き出す二人。
だんだん、国道を走る車の音が聞こえなくなってきた。途中二股に道が分かれているが、長年の勘で迷わず進む。
二人も後を必死に付いてくる。
その様子をカメラに収めようとしたが、前を歩く大塚君の巨体の後ろでピョコピョコ上野嬢が見え隠れ。
まるで二人エグザイルだ。
空中散歩
山頂の飯縄神社に着いた。ヘロヘロになった大塚君が「休んで、イイナワ〜?」とダジャレを言う。
「残念、これは『いいなわ』ではなく『いいづな』と読む。
飯縄権現は上杉謙信や武田信玄などの武将たちが信仰した戦の神さま。ほら、上杉謙信の兜の前立が飯縄権現『白狐に乗った烏天狗』でしょ。有名だよ」
「私は『愛』の前立てしか知りません」
「そんなことより、頂上まで来たんだから、サッサと降りましょう」と、興味なさげな上野が急かす。
「何言ってんの。本丸はまだだよ」
「え〜、ここが頂上じゃないんですか?だって、ここから下り坂ですよ」
「この山は頂が二つあるの。ひとつが、ここ飯縄曲輪(くるわ)で、もうひとつが本丸。さっき地図見てたでしょ」
「そんなの気づきませんでした!」
ぶつぶつと文句を言いつつも、ふたたび本丸をめざす。途中、堀切があった。本丸へ行くためには、一旦下に降りて、また登らなければいけない。
「堀切というのは、尾根を切り取って、そこに橋を架け、敵が来た時には切り落として防ぐようにした防御施設のことだよ」
「現在(いま)は、敵に攻められることもないんだから、橋くらい架けておいてもいいじゃないですか〜」と、口をとがらす上野嬢。
確かに…。
なんとか山頂の本丸跡に到着した。
ここから見る津久井湖が、また素晴らしい。
この城は「根小屋式山城」といって、屋敷や馬場などが山麓に設けられていた。今、その跡にはパークセンターという資料館が建っている。
また、展望デッキからは、車椅子でも森の中を周れるように「園路」が整備されているが、樹木と同じ高さなので、空中を散歩するような気分が味わえる。
「鮎こわい」
車に戻った腹ペコの三人は、先ほど目星をつけておいた城山町川尻の『釜めし やな川』に向かった。
「私たちは鮎の釜めしにするけど、大塚君は、好きなもの頼みなよ」
「いえ、私も、おんなじので…」
大丈夫と言い張るので無理強いはしない。ついでに鮎の塩焼きも注文した。
最初にやってきた鮎の塩焼きに、まずは私が箸をつける。
「う〜ん、やっぱり鮎は塩焼きだ。なんでこんな美味しいものが苦手なのかね〜。ちょっと食べてみなよ」
「…はぁ」と、少しずつ口に運ぶ大塚君。いつもの笑顔はありません。釜めしも運ばれてきて、しばし歓談しながらの贅沢なひととき。
ふと、テーブルを見ると、鮎の塩焼きは骨を残すのみとなっていた。
「あれっ、ちょっと。鮎は? 塩焼きはどうした? まさか、大塚君…」
「あ、ぜんぶ食べちゃいました」
「えっ、嫌いじゃなかったの?」
「大丈夫みたい…ですねぇ。まぁ、食わず嫌いだったのかも、ははは」
おいおい、こっちはひと口しか食べてないっていうのに。
くそ!「まんじゅうこわい」ならぬ「鮎こわい」だ。やられちまった。
「あ、宮澤さん、熱いお茶でもいただきますか?」
「ここはどこ?」
『釜めし
やな川』を出て、その奥にある、もう一つのダム湖『城山湖』に向かった。この城山湖は『本沢ダム』という。津久井湖が『城山ダム』なので、少々まぎらわしい。ハイキングコースもあるが、二人ともこれ以上歩く気はなさそうだ。
「さて、本命の温泉に行きますか」と、鮎を食べて元気を取り戻した大塚君。あとは彼に任せます。
どれくらい経っただろう。後部座席でウトウトしてたら起こされた。
駐車場に出ると、『ふじの温泉・東尾垂(ひがしおたる)の湯』の看板が目に入る。
「ここどこ?」
「相模原市藤野町牧野8114-2。ここも立派な旧津久井郡ですよ」
地図で確かめると、あと数百メートルで山梨県。しかも、山の中である。
「だから、ギリギリ神奈川シリーズって言ったじゃないですか」と、目的を遂行して満足そうに笑う大塚君。
「ま、いいか!」
ちなみに『ふじの温泉』へは、JR中央線「藤野駅」から送迎バスが出ている。
藤野駅を降りて、もし時間があるようだったら、前方右手の山肌を見て欲しい。巨大なラブレターを見ることが出来る。
また、駅前の道を少し下ると、薬局のような不思議なお店『シーゲル堂』がある。
元々薬局を営んでいたアート好きの店主が立ち上げたお店で、藤野の山里に住む芸術家たちの様々な商品が売られているので、藤野のお土産を選ぶなら、ここがオススメ!他ではぜったい手に入らない素敵な商品は、友だちに喜ばれますよ。
至福の湯、極楽の霧
さて、期待の温泉である。料金は、大人850 円・小人 350 円だが、タオルとバスタオルのレンタル料も含まれるからお値打ちだ。
フロントの前には、津久井名産の土産物コーナー。そして、レストランと休憩室とボディケアルームまで付いている。
お風呂は、内湯と露天風呂、それにミストサウナの3つ。
体を洗い、まずは露天へ。爽やかな風と四方の雄大な山並みを眺めながら、のんびり浸かる。いつもながら至福のひとときである。
ミストサウナの部屋に入ると、たちまち熱い霧が襲ってきた。温泉が霧状に噴射されているのだ。それだけではない。一人用の樽風呂が大小6個並んでいる。
「あちっ!」樽風呂の湯は、内湯や露天のお湯より断然熱い。前回の湯河原の『ままねの湯』より熱いかも。
「無理。とても入れない。露天に行きます」と大塚君。
苦手な鮎は食えても、熱いお湯はやはり苦手らしい。というより、小さな樽に身体が合わなかったか…
この小ささがまた良い。誰に気兼ねすることなく湯に浸かれる。自分にとっては、露天よりも極楽だ。
顔にかかる霧も心地よく。すっかり時間を忘れて長風呂してしまった。
「こんなことなら、待ってる間にマッサージでもしてもらえばよかったですよ」
上野の小言も、芯から温まった身体と心には子守唄のよう。
これで、生ビールでも飲めたら…いやいや、さすがに運転手の大塚君に悪い。遅くならないうちに横浜へ引き返すとする。
九十九折の山道を下る。車窓には、幾重にも重なった山並み。そこに沈んでいく夕陽を眺めていたら、やがて意識が遠のいていった。

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その数日後、城山町の川尻八幡神社で祭礼があった。9台の山車がずらっと並び、それぞれが意匠をこらした華やかなお囃子の競演が繰り広げられる。
「さすがに『かながわまつり五十選』にも選ばれているだけのことはある」
こうした四季折々の風物や自然を味わえる土地が、こんな近場にあったなんて。 津久井は広くて、魅力も多すぎ。城山総合事務所の方が、考え込んだのが分かるような気がします。
これからの季節、皆さんもギリギリ神奈川「津久井」で、のんびりと、小さな旅を味わってみませんか。
 
 
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