■ひろたりあん通信バックナンバー
 2010年6月号
 
「本を開けば世界が広がる」
  心のアミューズメントパーク図書館活用法

少年時代 
 そこは尾張徳川家の庭園だった。

 その広大な敷地の中にある市民プールで、ひとしきり泳いで遊んだ子どもたちは、入り口付近に出店している屋台の顔の大きさほどもあるソースせんべいを買うのが恒例であった。

 そいつをかじりながら、みんなで蝉時雨の森の中を次の目的地へと向かう。

 森を出ると徳川家の遺品が数多く収蔵されている美術館が現れた。しかし、目的地はそこではない。その隣の建物だ。

 我先にと階段を駆け上がる。大きなガラス戸を力いっぱい開けると、冷房の冷たい空気に混じって微かなカビの匂いが鼻腔をくすぐった。

「しーっ、静かにしろよぉ」

わんぱく共の神妙な顔が妙に可笑しかった…。

 いきなり、幼い頃の回想シーンとは、お恥ずかしいかぎりだが、大げさでもなんでもなく、子どもの頃の図書館の思い出は、今もこのように胸に焼き付いている。

 大きな音を立ててはいけないという緊張感と、不思議と落ち着く安心感。

  物心がつく頃から本が好きだったという自分にとって、そこはまさに夢のパラダイス。未来にも過去にも、宇宙にも海底にも行ける「心のアミューズメントパーク」だった。

本棚の迷路を歩きまわり、お目当ての一冊を見つける。

椅子に座り、ページを開くと、泳ぎ疲れた気だるさなんて、あっという間に吹っ飛んだ。

鞄の中の宿題も、一緒に来た友達のことも、すっかり忘れて、ファンタジーの世界を独りで旅していた。

 昆虫の種類も花の名前も、ここに来れば、何でも知ることができた。

 シーザーやアレキサンダー、ルパンやホームズ、土方歳三や坂本龍馬との出会いもここだった。

 思えば、なんと贅沢な空間だろう。その気にさえなれば、哲学の世界だって、科学の世界だって、数学、音楽、医学、法律、政治、なんだって知ることができた。(あくまでも、その気になれば…だが)

 図書館通いは、中年を過ぎた現在(いま)も続いている。最近は、もっぱら調べものだ。

 とくに郷土史に関しては地域の図書館に勝るものはない。インターネットだって、これほど面倒はみてくれない。図書館なくして「地名推理ファイル」の連載はありえない…マジで。

都筑図書館「誕生祭」
 都筑図書館が今年15歳の誕生日を迎えた。それを記念して、六月の初めに「誕生祭」が催されるというので、いつもお世話になっているお礼とお祝いかたがた取材に伺った。

 都筑区の図書館は、地下鉄センター南駅徒歩5分の都筑区総合庁舎の建物の中にある。 1階区民ホールでは、パネル展示「都筑図書館十五年のあゆみ」と、市民ボランティアや司書の方による『つづきおはなし劇場』が催されていた。

  『おなはし劇場』には、わが『あおば紙芝居一座』も参加している。都筑区ということで、荏田の剱神社に伝わる民話を元にした「村を守った刀」ほか、三つの作品が口演された。

 ほかの市民ボランティアの方や司書の方によるプログラムも、子どもたちに喜んでもらおうと、それぞれ工夫が凝らされている。思わず子どもと一緒に見入ってしまっていた。

 翌々日には、同じく区役所6階大会議室で、区内の自主幼稚園「りんごの木」の代表柴田愛子さんと、絵本作家の長野ヒデ子さんによる『アイアイ・デコデコ対談』が開かれた。

 柴田愛子さんのお話をお聴きするのは三年半ぶりだ。『夢の吹く丘』でもインタビューさせていただいたが、とにかく、これほど愉快で、しかも人生の滋養になる話をされる方はいない。

 長野ヒデ子さんにお会いするのは初めて。私の好きな新美南吉の絵本も書かれているので、そのほのぼのと人間味のある絵柄は存じ上げている。作風同様、温和で心やさしい人柄とお見受けした。

 昔から仲好しで友人だというお二人のお話は、じつにコントラストに富んでいて可笑しかった。こちらも写真を撮りながらゲラゲラ笑って しまっていた。

つづき図書館ファン倶楽部
 都筑図書館には、心強い支援グループが存在する。その名も『つづき図書館ファン倶楽部』

 今回の誕生祭の企画もファン倶楽部のアイデアが反映されているとのこと。

 平成十二年、都筑区政5周年記念シンポジウムの公募によって集まった「図書館が大好き」という皆さんが、「市民にとって魅力ある地域図書館づくり」をめざして平成十五年に立ち上げた。

 今回のようなイベントや講演会の協力だけでなく、都筑区内の図書施設マップの作成や図書館司書の方との定期的な会合。図書館への理解を深めるため、県外の図書館へ見学に訪れるなど、精力的な活動をされている。

 年四回発行されている『つづき図書館ファン倶楽部通信』には、素敵な挿絵と共に、会員お勧めの本やイベントの紹介がされていた。

 感心したのは、「知の旅の水先案内人」と題して、図書館職員の皆さんのプロフィールが紹介されていたこと。職員の方の人柄が分かれば、利用者と図書館の距離がグッと縮まるはず。素晴らしい!

 ちなみに、鎌倉在住の長野ヒデ子さんもファン倶楽部のメンバーだそうだ。

山内図書館
 都筑図書館も頻繁に利用するが、やはり、山内図書館の利用率の方が高い。青葉区に越して以来、二十七年間ずっとお世話になっている。

 三年前の三十周年記念事業では、実行委員として、ささやかながらお手伝いさせていただいた。

 昭和五十二年、横浜で三番目の図書館として『山内図書館』は開館した。

「青葉区なのに、なんで山内?」と、疑問にもつ区民の方も多いかと思う。(自分などは、山内支所が併設されていたので、なんの疑問にも感じなかった) 

 聞くところによると、署名、陳情、勉強会など、地域住民による盛んな図書館作り運動があったことによるものらしい。

 当時は緑区。普通なら「緑図書館」となるところを、地元住民の方の「山内」という古い地名を残したいという希望が通り「山内図書館」となった。

 開館当時の利用者数は、日本でも一、二位を争うほどだったらしい。

 その山内図書館も、今年四月から指定管理者制度が導入され、指定管理者として有隣堂グループ(株式会社有隣堂と三洋装備株式会社との共同事業体)が運営・維持管理することになった。

 このことに関しては、「コスト削減によるサービスの低下」「図書館という文化がなくなる」などを危惧する住民の間で侃々諤々の議論があったという。

 実際どのように変わったのか、浜田新館長にお話をお聞きした。

「指定管理といいましても、基本的には横浜市の直営の管理ですので、横浜市の共通サービス的な水準は維持しつつ、民間の発想とか工夫を加えて、よりサービスを向上していきたいなというように考えています」 

 その手始めが、火曜日から金曜日の開館時間の延長だ。これまでより一時間半延長されて、午後8時半まで開いている。これなら、仕事帰りの方も安心して利用できるのではないだろうか。

 「学校図書館との間には、専任担当を置いて、学校との連携を強めていくことも考えています」

 また、図書館と協働で講演会などを主催してきた『山内図書館サポーターズクラブ』とは、これまで以上に緊密な関係を築いて「地元に愛される図書館」を目指していきたいと、力強く語っていただいた。

 図書館をぐるっと見回すと、これまでと違う珍しいモノが二つ目に入った。

 『山内堂』というワゴン車の文具売り場と熱帯魚の水槽。利用者に少しでも喜んでもらおうとの心配りが伺える。

 『有隣』という社名は論語の「徳孤ならず 必ず鄰有り(徳のある人は決して孤立するものではない。必ず理解し共鳴するものが現れてくる)」から名付けられたとか。

 図書館を愛する市民の方々と、共鳴しあって、市民がより便利に利用できるような図書館を目指してほしいと願う。新しい歴史をスタートさせた山内図書館。今後の活動に 期待しましょう。

こんなに便利
 ここまで書いてきて、タイトルの図書館活用法にまったく触れていないことに気がついた。

 まだ図書館を利用したことがない方。まずは図書館に行ってカードを作っていただきたい。

 このカード、横浜市内のどの市立図書館でも本が借りられるという超優れものなのだ。しかもタダ。有効期限は5年だが、身分を証明すれば、すぐに更新できる。

 借りられるのは一人6冊まで、カードと一緒に貸出しカウンターに持っていけば、ピッとやってもらって、二週間借りていられる。

 返却はカウンターに本だけ返す。時間外で閉まっているときは、返却ポストへ。

 返却ポストは、青葉台・市が尾・たまプラーザの各駅構内にも設置されているので、通勤通学の時にも返すことができる。

 借りる本が見つからないという方は、まず検索機をお使い頂きたい。

 画面にキーワードを入力するだけ。タイトルや著者が分かっていれば、詳細検索に進む。

 便利になったもので、自宅のパソコンからでも、同じ画面で検索ができる。貸し出し中かどうか、どこの図書館にあるか、すべてチェックできるのだ。

横浜市立図書館 蔵書検索

 意外と知られてないのが、予約サービス。検索機かホームページでパスワードとメールアドレスを登録すれば利用できる。

 検索して見つかった本の画面から「予約」をクリックして、利用する図書館を指定。図書カードの番号とパスワードを入力して、「はい」をクリックすれば予約完了。

 あとはメールを待つだけ。青葉区のみとなるが、区内の各地区センターも利用施設として選択できる。

 最後に、ぜひ活用していただきたいのが、「レファレンス」。

 レファレンスとは、図書館の資料を使って、調べものや情報探しの手伝いをしてくれるというサービスだ。

 これこそが知の宝庫・図書館の真骨頂といってもいいだろう。

 膨大なデータベースの中から、ありとあらゆる質問に答えてくれる…はず(よほどおバカな質問じゃない限り)まずは、利用されたし。

国民読書年
 二年前の国会決議で、平成二十二年を「国民読書年」とすることが定められた。

 決議書には、『活字離れ』『読書離れ』が、言語力、読解力の衰退や精神文明の変質の大きな要因だとある。 

若者の読書離れが問題視されてから、すでに数十年。若者はもうお父さんお母さんだ。言語力、読解力は確実に衰退しているだろう。

 精神文明の変質とは大げさな言い方だが、精神文明=想像力ではないかと思っている。

 想像力はつまり、相手の立場や環境、喜びや苦しみを慮る(おもんぱか・る)ことができる能力。 ようするに「思いやり」だ。

 最近のニュースを見ていると、どうもこの「慮る」ことのできない人が巷に溢れているような気がする。

「ゲームを捨てよ、図書館へ行こう」 

 土曜、日曜にスポーツをやるのもいい。しかし、文武両道。本を読むことも同時にしなければ、将来きっと後悔することになる。

 ゲームなんてもってのほかだ。子どもたちがゲームに没頭している時間、一冊でも二冊でも本を読む時間にまわせば、知識も視野も広がるし、その後の人生においての選択肢も確実に増えるはず。

 いや、読解力とか、教育的効果ウンヌンではない。

 (↑愛子さんの受け売り)

 文字を書いたり読んだりできる能力を有しているのは、人間だけ。しかも、その文字によって、泣いたり、笑ったり、感動したりできる。せっかく人間に生まれてきたのなら、その能力をフルに活用しなければ、勿体ないではないか。

 本を読む楽しさ、知らない世界へ行ける楽しさ、知らない事を知る楽しさ…、そして、図書館で本を探す楽しさ

 それを、ぜひお子さんたちに味あわせてあげて欲しい。

 

 それが一番の図書館活用法…かな。

                                  (宮澤高広)

※小学校から高校まで、足繁く通った名古屋市東図書館は、昭和40年7月1日に『徳川園』内に開館。当時は三階建ての建物で、館内には売店もあった。残念ながら、平成13年10月26日にナゴヤドームの北側 「カルポート東」に移転した。

※徳川園は、尾張藩二代藩主光友が、元禄8年(1695年)に自らの造営による隠居所として移り住んだ大曽根屋敷が起源で、昭和6年(1931年)、十九代当主義親から邸宅と庭園の寄付を受けた名古屋市は整備改修を行い、翌年「徳川園」として公開された。
昭和20年(1945年)に大空襲により園内の大部分を焼失した後は一般的な公園として利用され、平成16年秋に日本庭園としてリニューアルした。


下に見えるのが市民プール。鬱蒼とした庭園の森を抜けて行く
緑色の屋根が『徳川美術館』、その右隣の建物が『東図書館』

 

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