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「あっ、ここにあったんだ!」
都筑区中川の閑静な住宅街。「こども探偵団」のメンバーの自宅に届け物をして回っている途中、うっかり路地を間違えてしまった。慌てて引き返そうとした時に、ばったり出会った奇妙な建物。サハラ夢美術館
童話の中に出てくるお城…?波打つ壁はヨーロッパの洞窟遺跡にも見える。住宅地にあるには一風変った外観、なのに不思議とまわりに溶け込んでいる。初対面なのに、なんだか懐かしく、ホッとする。ついつい見とれてしまっていた。
以前、東山田の郷土資料館を取材したときに、館長の栗原さんから『私設ミュージアム・ネットワークめぐり』という、神奈川県内にある私設美術館や博物館、資料館がイラスト入りで紹介された地図をいただいた。
中川に美術館があるのを知ったのはその時だ。大好きな「夢」という文字に興味を惹かれ。「いつか訪ねてみよう」と思いつつ、時は流れ、いつしか記憶の引き出しに仕まいこんでしまっていた。
夢の個人美術館
届け物を終えて、再びその建物の前に立った。
入り口は、正面の扉ではなく、左手の小さな階段を上った奥にある。その階段と通路には、古びた材木が並べられていた。どうやら線路の枕木のようだ。期待がふくらむ、中はいったいどうなっているのだろう?ワクワクする気持ちを抑えながら、あらためてリスの鈴がついた扉の前に立った。
横に(入館希望者はチャイムを押してください)と書いた貼紙がある。
「希望しますよ〜」
と呟きながら、躊躇なくチャイムを押した。
「どうぞ」
ドアを開けて出迎えてくださったのは、ご主人の平野さん。
「スタンプラリーですか?」
中に通され、帳面に住所と名前を書いているときに尋ねられた。
「えっ…?」ミュージアムのスタンプラリーをやっているとは知らなかった。(市内北部13箇所のミュージアムを回るスタンプラリーは、今年3月末までやっているそうだ)
「いえ、じつは…」と、ひろたりあんの記者であることを名乗る。
「あぁ、そうですか。いつも楽しみに読んでいますよ」続いて「特に地名推理ファイルは面白いですね」と、思いがけないお言葉。
「あ、あれを書いてるんです」
嬉しさのあまり、名前の文字がへろへろになってしまった。
『サハラ夢美術館』は平野さんの奥様である創作画家「沙原秀」さんの個人美術館である。
サハラは沙原という雅号から、夢は「自分の美術館を建てたい」という沙原さんの夢。その夢が叶い、十五年前に美術館は建てられた。
七色の招待席
螺旋階段を降りて地下の展示室に案内される。なに気に肌色の壁に触れてみた。何とも言えない優しい感触。
「壁は珪藻土(けいそうど)なんですよ」とご主人。
珪藻土とは、海や湖底に生きていた植物性プランクトン(藻)の死骸が堆積し化石になったもので、湿度の調整や消臭、有害物質の吸着除去などの効果があるということで、近年注目を集めている壁材だ。
(なるほど…) 館内に足を踏み入れたときから感じていた清々しさの理由が分かった。
展示室には、「神話」と題された沙原さんの作品が飾られていた。
シュールとか幻想的とかいうありふれた表現では言いあらわせない物語世界がそこにあった。展示室の神秘的な空間と相まって、次第にその世界に吸い込まれていく。
「せーふぁうたき」
何故だかわからないが、沖縄にある聖地の名前が突然頭に浮かんだ。知念半島にある斎場御嶽(せーふぁうたき)は、神が降臨し鎮座する聖域で、沖縄最高のパワースポットである。
そのことに囚われたまま一階に戻ると、サロンで沙原さん自らが珈琲を入れてくださっていた。因みに、ここの入館料は五〇〇円、珈琲・紅茶のセットで七〇〇円である。
明るい日差しが差し込むサロンで、ご主人も交えしばし歓談。
私の大好きな土地で、何度も訪れている岩手県北上出身のご主人との不思議な縁もさることながら、沙原さんの絵と美術館にまつわる奇跡のようなエピソードの数々には、驚きを通り越して感銘を覚えた。
そのエピソードは、沙原さんの著書『七色の招待席』に詳しく描かれている。
沙原さんの絵にふれて、自殺を思いとどまった青年の話、絵を欲しがる少女が、大好きなその絵を自分のものに出来たときに流した大粒の涙…。
悲しい話ではないのに、なぜか涙が止めどなく流れ落ちた。眉唾と思われるかもしれないが、この本自体に不思議なパワーがあると感じた。是非読んでいただきたい。
気がつけば、二時間以上も話しこんでしまっていた。年明けに、展示室の絵を次のシリーズに掛け替えるというので、改めて取材することにして、その日は失礼した。
真・竹取物語
正月三が日明け、私はふたたび展示室の中にいた。
壁には新しく『竹取物語』の絵が並んでいる。誰もが知っている平安絵巻の「竹取物語」を想像してはいけない。まったく異質な世界。躍動的な輝姫(かぐや姫)は、琉球人にもアイヌ人にも見える。
「そうか、これは縄文の話だ」
この美術館の建っている場所は、縄文時代の竪穴住居があった場所だという。
縄文時代、この中川の近くまで海が来ていた。
作者不詳の竹取物語は、海からやってきた人々(海人族)が伝えたという説もある。
斎場御嶽も、海の彼方のニライカナイという異界から神がやって来る。もしかしたら、この絵の世界こそが、真実の竹取物語なのではないだろうか。
絵の中に隠された物語を読み解こうと、一つ一つじっくり見ていくうちに。ふと、朱色が気になった。 映画「シックスナイン」じゃないが、重要なポイントで赤が使われてるような気がする。
最後に「不死山」と題された絵を見て納得した。
(なるほど、これは生命の赤だ)
雲の中から、にょきっと顔を出す真っ赤な富士山。そういえば、沙原さんが絵を描くきっかけは、七色に輝く富士山を見たことだ。
もう一度、最初に飾られていた絵に戻って確認した。
「蓬莱山」と名付けられた絵、これこそ自殺を思いとどまった青年が、飽きることなく、いつまでも見つめていた絵だ。
幾重にも重なる青い山々、その中央に、ひときわ大きな蓬莱山、その下を流れる一筋の滝。そばに佇む赤い服の人。
蓬莱山とは、不老不死の霊山だ。
「熊野か…」
今度は、和歌山県の熊野が頭をよぎった。
蓬莱山…除福伝説…熊野…生きながら浄土に生まれ変わるという復活の地。彼はこの絵に生命の息吹を感じ、生まれ変わったに違いない。
この建物を「母親の胎内」のようだと言ったお客さんがいたそうだ。まさに「リーインカネーション(輪廻転生)」、再生の館ではないか。
直感アート
この美術館では、展示会だけでなく、絵の教室も開かれている。
「絵は下手だとか、絵が描けないからとかいう人でも大丈夫。感じたままに自由に描いてもらえばいいんです」と、沙原さん。
その名も「直感アート」。 技法、テクニックを教えるのではなく、自分の直感力だけで、楽しみながら自由に絵を描く。
生徒さんの絵を見せていただいたが、どの絵も伸び伸びとした躍動感に溢れ、その美しさに圧倒された。
沙原さんご自身も、美大や絵画教室で絵を習ったわけではない。
自然の美しさに触発され、時に頭に浮かぶイメージのままに、そしてある時は、目に見えない何者かの力を借りて、独自の絵画世界を自由に広げられた。
絵を描くということは、本来そういうものなのだろう。だからこそ、人に感動を与え、時に人生を変えてしまうほどのパワーが生まれるのだ。
「サハラ砂漠に憧れて画集を買ってきましたらね、好きなサンテグジュペリ(『星の王子さま』の著者)の詩があったんです。『オアシスを求めに行くのではない 自分自身の泉を探しあてるために砂漠に入るのだ』と、そして『自分の泉を探し当てたものは倖せだ』そう書いてあったんですよ。それでハッとしましてね。あ、これが私の泉なんだと…」
疲れはてた旅人が、泉の水を飲んで活力を取り戻し、再びあるきはじめるように、訪れた人の心を癒し、新たな人生にチャレンジするパワーを与えてくれる、『サハラ夢美術館』は、生命(いのち)の泉かもしれない。
サロンの窓に差し込む光はオレンジ色に変わり、黄昏がもうそこまで迫っていた。
またしても、長居をしてしまった。話の種も泉のように尽きない。 外に出て振り返ると、夕日が珪藻土の壁に照り映えて、城が燃えるように輝いている。
「ああ、縄文の火焔土器だ…」
争いのない平和な時代が一万年も続いたといわれる縄文時代。そんな長閑で優しい時間が、その建物には流れていた。
(宮澤)
サハラ夢美術館

横浜市都筑区中川3−20−20
TEL &
FAX 045-913-3809
【アクセス】
横浜市営地下鉄「中川駅」下車 徒歩8分
東急バス・江田駅発綱島行きバス
江田ドエル前下車 徒歩5分
市営バス33系統・あざみ野〜市ケ尾(本数少ないです)
中川西中前下車 徒歩6分
【開館日】 金曜・土曜・日曜 AM10:00〜PM5:00
【入館料】 500円 ☆ティーセット700円(珈琲・紅茶付き)
【直感アート教室】
原則、第3土曜日の10時より(2〜3時間程度)
入会手続き不要、事前にお問合せください。

『 竹取物語 』
テルミンとギターの調べ
日時 2011年3月27日(日)
open-13:30 start-14:00 (完売)
open-16:30
start-17:30 (募集中)
出演
ぷらイム
(テルミン/大西ようこ ギター&歌/三谷郁夫)
チケット 3000円(要予約・入館料込み・ワイン付き)
【チケット取り扱い・お問い合わせ】
mixi
つる
http://mixi.jp/show_friend.pl?id=4200718
蓮岡 TEL
090-1839-5998 turu_minarie@apost.plala.or.jp
彩企画 TEL
080-5436-0828 theremin-japan@ezweb.ne.jp
お名前・枚数・ご連絡先・チケット送付先をお知らせください。

創作画家 沙原
秀 自作自演の一人語り
「竹取物語」
2001年錣仙山能楽堂で上演の他、様々なアーティストとの共演を経て
洗練を重ねた本作品を、自作の絵画シリーズ「竹取物語」と共に上演
日時 2011年4月3日(日)
開場13:30 開演14:00
語部 沙原 秀
入場料 2000円(茶・菓子付き)
【お問い合わせ】
サハラ夢美術館 TEL045-913-3809
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