■ひろたりあん通信バックナンバー
 2011年10月号
 
草笛…あぜ道…赤とんぼ
     都会っ娘・上野の「寺家ふるさと村」散策記
谷戸田って何?
   「そろそろ、寺家のヤトダも稲刈りだね」

  秋の特集を何にしようか?いろいろな資料を見ながら思案していて、見つけたのが自然たっぷりの『寺家ふるさと村』。

 以前ご紹介したのが十年位前なので、「そろそろ、どうですか?」と宮澤さんに尋ねたところ、返ってきたのが冒頭の台詞。

「ヤ・ト・ダ?何ですか?寺家にそんな場所があるんですか?」

「あれっ、上野さん関東人なのに知らないの?谷の戸と書いてヤト。丘陵地の谷間で、川の原流の森や田畑を含めた環境のこと。関西ではタニって言うけど、この辺りではヤト。鎌倉や千葉では、ヤツ(谷津)とかヤチ(谷地)って呼ぶね」

「ヤトにある田んぼのことですか〜。行ったことがないからピンときませんねぇ」

「えっ、寺家に行ったことがない?それはいかんな〜。東京に住んでいて浅草に行ったことがないのと一緒だよ。しょうがない、今日は天気もいいし、すぐ近くだから連れて行ってあげるよ」

 という成り行きで、寺家ふるさと村の取材が事実上決定しました。谷戸田も知らない、まだ寺家に行ったことがないという私・上野と一緒に寺家の散策にお付き合い下さい。

ふるさと村
 寺家…正式に言うと寺家町は、横浜市の北北西、川崎市麻生区と東京都町田市三輪町に接する一番隅っこにあります。市ヶ尾からなら、鶴見川を上流に向かってどんどん歩いていってもいけますが、疲れるので車にしました。

「宮澤さん、寺家の地名は何ですか?やっぱり寺があったんですか?」

「王禅寺の末寺で『東円寺』という寺があったみたいだよ。今は無いけどね」

 寺家という地名は全国に八カ所あるとか、たま〜に、ジゲと濁って読む人がいますが、「ジケ」が正しいそうです。

四季の家 
 散策する前に、ふるさと村全体を知らなければということで総合案内所『四季の家』に向かいました。ここには五十台分の駐車場があります。ただ、休日は相当混雑するので、出来ればバスを使ったほうがいいかもしれません。青葉台と市ヶ尾の駅から市営バスが出ています。(別枠参照) 

 建物の入口では野菜を売っていました。到着したばかりらしく、じゃがいも、赤玉ねぎ、葉しょうが、夏ねぎ、ゴボウ、冬瓜、栗…などなど、朝採れたばかりの新鮮な野菜が並んでいます。

 写真を撮ろうと構えた瞬間、先程外にいたお客さんがどっと押し寄せて、まるでバーゲンセール状態。どうやら、野菜の到着を待っていたようです。よほど人気があるのでしょうね。

 館内のホールは写真や絵画の展示会が常に開催されています。(ホールギャラリー は先着順で6ヶ月前から受け付け。1週間1000円、利用は二週間まで)

 ホールには、狐や狸、コサギなど、寺家に住む小動物の剥製や昆虫の標本が展示されていました。マムシもいるので、嫌いな人は驚かないでくださいね。

 四季の家を出て最初に向かったのは『熊野神社』。山の上にあります。階段のかたわらに彼岸花がたくさん咲いていました。振り返ると、田んぼの畦にも赤い花がチラホラ…。神秘的な花です。


彼岸花
「別名、曼殊沙華。他にもユウレイバナとかワスレグサとかドクバナとか、日本全国で四〇〇以上の呼び名があるそうだよ。昔、飢饉の時の最後の食料(救荒植物)として、お百姓さんが植えたのがはじまりらしいよ」

「球根に毒があるって聞いたんですけど?」

「毒は水にさらすと消えるんだって。恐ろしい名前をつけたのも、子どもが摘んだりしないようにってことだろうね」

 

 

懐かしい風景
 熊野神社の先には、『熊の池』という、へらぶな釣り専門の釣り堀がありました。大人一日2,200円(女性・子供別)です。ふるさと村には、「大池」「むじな池」「新池」「熊の池」「居谷戸池」という五つの池があります。

 その熊の池からむじな池には森の中を抜けていきます。鬱蒼とした樹木に囲まれていると、なんだか山奥を歩いている感じです。野鳥のさえずりが、その思いを一層ふくらませます。耳をすますと、足元の草むらには虫の声。草花からは小さな秋の訪れを感じることができました。

 むじな池を過ぎると、先ほどの四季の家から続く谷戸田に出ました。誰が吹くのか草笛の音色が…。曲は夕焼け小焼けです。秋風に揺れる稲穂の上には、たくさんの赤とんぼ(秋茜)。 東京育ちの私ですが、古里に帰ってきたような、なにかとっても暖かな気持ちに包まれました。

「こういう谷戸田の風景はもちろんだけど、山の向こうの民家がある辺りも、岐阜を思い出していいんだよね」と、宮澤さん。田舎者…じゃなかった、田舎のある人は、また感じ方が違うようです。

直売所&喫茶店「南」
 しばらく歩くと『御食事処 和風喫茶青山亭』がありました。階段を登ると銀杏の木と両脇はモミジの木。紅葉の時期に茶室から眺める谷戸田や紅葉の景色は最高でしょうね。

 隣の『郷土文化館』では、陶器や漆器などの展示をしていました。今年25周年を迎えた郷土文化館では、『茶室 白心庵』で、11月の26日・27日に、25周年記念茶会が開催されるそうです。

 「あれ?直売所が喫茶店になってるぞ」と、素っ頓狂な声をあげる宮澤さん。

 その『南』という看板のある喫茶店、入ってみると、店内右手に採れたて野菜が並んでいました。直売所も兼ねていたんですね。

 奥さんが青森出身ということで、地元の野菜だけでなく、青森県のリンゴやジュースも売っています。

 常連のお客さんが「いつ頃ですか?」と尋ねていたので、何の話か聞いてみると、手作りこんにゃくのことでした。特に柚子こんにゃくは人気だそうです。今月末に出来ると聞いて「絶対来よう!」と決心しました。

茶炭・丸善
「あっ、バーベキューがありますよ」と地図を見て私が言うと、「えっ、あったっけ?」と怪訝な表情の宮澤さん。半信半疑ながら、その場所に行ってみると、そこは茶道用の木炭を扱っている『丸善』というお店でした。

「BBQって書いてあるのはレジャー用の炭も取り扱っているってことじゃん。まったく!」

ああ、勘違いでした。

「この丸善の大曽根さんは、鎌倉時代の『吾妻鏡』という歴史書にも載っている由緒ある家柄なんだよ。以前に『夢の吹く丘』で紹介した釜師の根来さんや陶芸家の人たちを寺家に招いて『ふるさと村』のベースを作ったのも、こちらの十三代目なんだ」

 茶道をされている方の間でも丸善の炭は品質や形状の良さで有名なんだそうです。とくに『寺家の白炭』と呼ばれる枝炭は神奈川の名産一〇〇選にも選ばれているそうです。 

あ、枝炭とは炭をついだときの装飾的な役割と、火移りを早くする火つけ用の細い炭のこと…だそうです。

 茶道に詳しくない私たちに十五代目の社長さん自ら懇切丁寧に説明してくださいました。炭が用途によって違うこと、夏期に使用する風炉と冬季に使う炉の二種類があること、茶人にとって一番大切にしているのは炉に入れる灰(老舗の鰻屋さんのタレのように、火事の時は真っ先に持ち出すそうです)だということ。

 炭を伐る工場だけでなく、藁灰と炉灰を作る工程まで見せていただき、見るもの聞くものすべてが新鮮で、すっかり魅了されてしまいました。怪我の功名でしたが、丸善さんに立ち寄れたことはよかったです。

 寺家は結構広い!やはり一度では紹介しきれませんね。

 自然や風景だけでなく、グルメや陶芸やそば打ちなどの体験教室。毎年秋には寺家の作家さんたちによるアート展『寺家回廊』の開催などなど、寺家には見所が満載です。

 今回私は、心に初心者マークを貼っての散策で余裕もありませんでしたが、、これから二度三度と通い、鳥や草花の名前も分かるような熟練ハイカーになって、ふたたびご案内できればと思っています。

 まだ寺家に行かれたことのない皆さんも、ぜひ一度、足を運んで見てください。心が暖かくなることだけは間違いありませんよ。

担当:上野


 


バスは30分に一本程度、以下の駅から出ています。

◎青葉台駅(2番乗り場)
 ★「鴨志田団地」行き (31系統) 
 ★寺家循環「四季の家 (30系統)

◎市が尾駅(8番乗り場)
 ★柿生行き「早野」下車 徒歩15分

歴史探偵・高丸こと、宮澤高広

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