■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2012年7月号 
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■絹の道を往く 探訪編(市ヶ尾) Vol.6

 ある特定の地域にだけ集中して多い名字というのがある。意外なことに、水野姓もその一つだ。水野姓の全国平均は100位以下。にもかかわらず、愛知県では10位(岐阜県は12位)と、尾張周辺での水野姓の割合は群を抜いている。

 ちなみに、宮沢(澤)姓は全国平均380位だが、長野県だけが二桁の11位と、こちらもダントツだ。これだけハッキリしていると、ルーツも探りやすい。

 尾張の水野氏は清和源氏の流れをくむ豪族だったらしい。徳川家康は同じ愛知県でも三河の出身になるが、生母の於大(おだい)の方の実家は尾張の水野家である。この水野の家からは、天保の改革を行った水野忠邦など、幕政に多くの人材を輩出している。

時代の波
 中里村では「尾張の水野さん」といえば、それだけで通じたという。

 水野平三郎氏が生まれた愛知県丹羽郡は、養蚕が盛んな土地であったと…、以前書いた。養蚕技術も近江や信州、上州同様、最新の方法を取り入れていたようだ。

 その点、神奈川県の養蚕技術は全国的にみても立ち遅れていた。

 平三郎氏がどのような経緯で、この地に指導者として入ることになったのかは定かではないが、桑の栽培や給桑(蚕に桑を食べさせること)の方法、蚕の飼育管理、飼育機械や飼育施設の改良改善など、故郷で身につけた先進技術を精力的に伝え広めたことは間違いない。

 それによって、鶴見川流域における繭の生産量は飛躍的に増大した。良質な繭の増産は、すなわち現金収入の増加。自給自足で米や野菜を栽培する以外に生活の糧を得る術のなかった当時の農家の人々にとって、平三郎氏は単なる技術指導者ではなく、救世主のような存在だったのではなかっただろうか。

 謝恩碑は「功績を永く後世に伝えんと、関係者二八六名が故人の報恩と共に面影を追憶する熱意によって」建てられた。人格者だったことは間違いない。

 しかし、昭和四年の世界大恐慌による繭価の大暴落、戦争による食糧不足によって養蚕は衰退の一途をたどる。

「おカイコがダメになって、植木屋、種(たね)屋、それから農機具屋、井戸も掘ったかな…、そして、今はご覧のとおり水商売ですよ(笑)」

 株式会社「水野商会」の代表取締役、平三郎氏のひ孫にあたる水野喜正氏は冗談交じりに話をされるが、その時代その時代の波に乗り、同じ場所で商売を続けられるというのは並大抵のことではない。水商売と揶揄されたが、現在は水道関係だけでなく、空調工事、消防設備、ソーラーシステムなど幅広く事業展開されている。

★             ★


「やはり、そうでしたか」

「津屋さんのお陰ですよ。感謝します」

 と、この会話はもちろん、水野商会さんを訪ねた後の話で、絹の道散策の途中ではない。

「金城社の写真も拝見しましたが、驚きましたねぇ。あそこまで立派な事業をされてるとは思いませんでした」

「植木屋をされていた二代目の儀三郎(戸籍上は義三郎)さんも祥泉院に桜の樹を寄贈されたりしているんです」

「ほぉ、あの桜の樹は…そうだったんですか」

 祥泉院だけではない。市ヶ尾の八雲神社から見える範囲(横穴古墳や禅幢寺公園など)の桜の木はすべて植木屋をされている頃に儀三郎さんが寄贈されたのだという。

「同じ愛知県から、まったく同じ土地にやって来た大先輩。救世主にはなれないですけど、私もこの土地の人たちに感謝してもらえるような人間になりたいですね」

石工・金井清吉
絹の道散策の続きに戻る。

 日野往還の旧道、水野商会の隣が金井石材店。その先、三階建の茶色いビルが廣田新聞本社である。

「津屋さん、確信が持てました」

「え、なんのことです?」

「あの謝恩碑の裏に石碑を彫った石工の名も刻んであったんですが…」

「そうでしたか?それは気づきませんでした」

「ちょっと待って下さい。写真を撮ったので今お見せしますね」

 デジタルカメラはこれだから便利だ。

「あ、ありました。え〜っ、石工、中里村大場…金井清吉とあります。たぶん、この金井石材店のことですよ。津屋さんが平三郎水野先生が水野商会さんと関係があるんじゃないかと言われたので、確信しました」

「しかし、ここの住所は大場じゃなく、市ヶ尾ですよね?」

「じつは、金井石材がここに移ったのは昭和四十五年なんです。その前はこの旧道の先…大場町入口交差点の近くにあったそうです。これから通っていきますので、その時に場所をお教えしますが、そこの住所は大場町で間違いありません」

 謝恩碑にまつわる人物が二人…いや、廣田花崖を入れて三人が同じ地域に住んでいた。まさかの展開。目に見えない力がこれを書かせている…そんな気がしてきた。
 

高丸



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