■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2012年9月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■絹の道を往く 探訪編(市ヶ尾)Vol.8

しろきやでしらやき
 「しらきや…さんですか?」

「いえ、しろ…きやです。あれっ、今『しらきや』って言いました?」

「え、ええ。言いました」

「すいません。創業者の苗字が白井(しらい)さんなんで、つい…」

「ははは、よくあることです。『しろきや』なら、日本橋にあった百貨店と同じですね。了解しました」
 白木屋―336年の歴史を誇った日本橋の老舗デパートだ。

「ついでに言うと、居酒屋チェーンとも同じです。こちらは、お客さんの半数くらいが「しらきや」と間違って呼んでいるらしいですよ。ちなみに、居酒屋ではなくて『居楽屋』が正式な名称です」

「名前の話はそれくらいにして、その和菓子の『しろきや』さんですが、廃業されたんですか?それともどこかに移転されたとか…」

「和菓子屋はやめられました。現在は市ヶ尾商店街で『とん平』というトンカツ屋さんをされています。正式名称は、『しろきや・とん平』。

地元では、今でも『かしや』という屋号で呼ばれているそうですよ」

「和菓子屋なので『かしや』ですか、なるほど。『とん平』さんには、たしか亡くなられた司会の玉置宏さんも、よく通われていたとお聞きしましたが」

「イカフライをしょうが醤油で食べるのが好きだったそうです。そうだ津屋さん、今度食べに行きませんか。三元豚のとんかつも美味しいですけど、松輪あじのフライもいけますよ。そうそう、とんかつ屋さんですけど、穴子の一夜干しもあるので、そいつで一杯っていうのはどうです?」

「穴子の白焼き(しらやき)ですか?いいですねぇ」

「いや、一夜干しです。あれっ、今『しらやき』って言いました?」

「あはは、言ってません」

「津屋さん、勘弁してくださいよ

歴史を刻む
 すでに大場町である。

 大場川がちょうど市ヶ尾との町境。そこから旧道を五〇mほど進むと、大場かやのき公園の遊水地から、市ヶ尾高校に抜ける道と交差する。

「この道は、真っ直ぐ行くと鶴見川にぶつかるんですが、赤田谷戸(現在のみすずが丘やあざみ野南)が開発される前は、たまプラ方面から藤が丘や青葉台に向かう抜け道としてよく利用してました」

 道は、旧道と交差したあと、二〇mも行かないで新道と交わる。旧道も、そのまま左斜めに進むが、こちらも五〇m行かないで上麻生線の新道に出る。(地図を参照)

「金井石材店は、この辺りにありました」

 交差点角から進行方向右手を指差す。

「今、駐車場になっている辺りがそうです。当時の写真を見せていただいたんですが、茅葺き屋根のお屋敷で、裏手には山肌が見えていました」

「ほぉ、山ですか?」

「山といっても小さな山で、今も駐車場の所に痕跡が残っています」

「もしかして、その山からは古墳が発見されたんじゃありませんか?」

「津屋さん、よくご存知で。そうなんです。宅地造成の際に、縄文時代から近世までの住居跡や古墳、土師器(はじき)や勾玉(まがたま)などが見つかっています」

「寺下遺跡といいましたか。確か『稲荷前古墳群』のすぐ横でしたね」

 古墳の博物館と称されるほど様々なタイプ(前方後円墳・前方後方墳・円墳・方墳)の古墳が発掘された県史跡の稲荷前古墳群の南端に位置することから、その関係性が大いに取り沙汰された。

「数千年規模で人々が居住しつづけるほど環境の整った土地だったということでしょうね」
「金井石材店さんもそうですか?」

「えっ?」

「つまり、白井さんのように代々の地(じ)の方ですか?」

「いえ、大正五年に伊勢原から越されてきたそうです」

「伊勢原…大山のある、あの伊勢原ですか」

「ええ、谷本小学校の近くの杉山神社に、金井清吉さんが作った忠魂碑があるんですけど、その裏に『相州中郡高部屋村 住人 中里村支店 金井清吉』と刻まれていました」

「清吉…謝恩碑を作られた方ですね。支店ということは、伊勢原に本店があったということですか」

「ええ、そのようですね。相州中郡は現在、湘南の大磯町と二宮町ですが、大正時代は平塚市、秦野市、伊勢原市と厚木市の一部を含めた広い地域でした。高部屋村は、大山登山の帰りに行った温泉の近くに『高部屋小前』というバス停があったので覚えていたんですが、確かに伊勢原。小田急の伊勢原駅の東側になります」

 杉山神社の忠魂碑は二基あり、清吉さんは日清日露戦争の忠魂碑。その隣にある太平洋戦争戦没者の忠魂碑には、清吉さんの息子、金井茂さんの名が刻まれている。

「石屋の仕事は、一度作れば百年でも二百年でも残る。精魂込めて刻み込め…と、茂さんは、父清吉さんから指導されたそうです」

「まさに歴史を刻む仕事。素晴らしいですね」

絹の道の縁

 道を横切り旧道に入る。細い路地だが、かつてはバスも通ったメインストリートだ。新道に出たところで五ヶ村用水は暗渠となって姿を消す。

「この畳屋さんですけど…」

「佐藤たたみ店…石材の次は畳ですか?ここも何かあるんですか?」

「じつはあるんです。絹の道とは切っても切れない縁が…」



 

高丸



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