■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2013年12月号
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■絹の道を往く 探訪編(鉄 町)Vol.13

 鉄小学校の体育館は二階建てである。正確には、一階に教室が四部屋あり、体育館はその二階にあるというべきか。一階の下駄箱で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて上がる。

 下駄箱の横に大正時代に使われた消防ポンプと、当時の火消しが着ていた刺子袢纏(さしこばんてん)に刺子頭巾(ずきん)が展示してあった。

「この刺子頭巾を見るたびに、テレビドラマの『影の軍団』を思い出しますね。知ってますか?千葉真一が服部半蔵で、決めゼリフがカッコイイんですよ。『我が身、すでに鉄なり。わが心すでに空なり…』。学生の頃だったので、わが心すでに空腹なり…な〜んて言って…」

「このポンプは、戦時中も使われたと書かれていますね」

「えっ…、あ、ああ、そうですね。鉄小学校に焼夷弾が落とされた時に活躍したようですね」

 鉄小学校に焼夷弾が落とされたことは以前に書いた。その時に常駐していた兵隊さんたちが急いで火を消したので事なきを得た…とも書いたが、どうやらその時に使用されたポンプらしい。

「消火栓も無かった時代ですからねぇ。どれほどの威力があったのでしょう?」


「あ、それなら、同じような消防ポンプが元石川小学校にあってですね。地元の消防団の方が綺麗に洗って組み立てて、試験的に放水してみたことがあったんですよ」

「ほ、それで…」

「それが驚くことに、鉄筋校舎の三階近くまで水が飛んだんですよ」

「それは大したものですねぇ」

「ま、昔は水道がありませんから、川だったり溜池だったりから水を引いたようなので、多少は威力が落ちるでしょうけど。実際なかなかのモノでしたよ」

くろがね倶楽部
 廊下を挟んで両側に教室がある。右側が大きな家庭科室で、左側は手前から「郷土資料館」と「はまっ子の部屋」だ。

 もちろん、ここに来た目的は「郷土資料館」にある。

「資料館を開けてもらうよう連絡しておいたんですよ」

と、廊下の一番奥にある教室に向かう。

「なんですか?この部屋は」

「『くろがね倶楽部』の教室です。学校施設を地域の資源として活用する総合型の地域スポーツクラブですね。跳び箱やマット運動など子どもの体力向上を目指したジュニアスポーツ教室やダブルダッチ教室に野球教室。スポーツだけじゃなく、茶道教室やサイエンス教室もあるようです。あ、そういえば、津屋さんも昔少年野球のコーチをされていたんですよね」

「まぁまぁ、子どもが小さかった昔の話ですよ」

 東京大学理学部物理学科卒で工学博士、半導体エネルギー研究所の顧問で、それに本も書かれて、スポーツも得意…。飄々としていて気さくで、こうして一緒に旅をしていても、まったくそういうことを感じさせないが、よくよく考えたら、月とすっぽん、提灯に釣鐘、鯨と鰯、駿河の富士と一里塚…というくらいに差があるのだ。

あっ、自分にも自慢できるものが一つだけあった。

「津屋さん、この引き戸のガラス窓に貼ってあるタヌキの絵。くろがね倶楽部のキャラクターなんですけど、実はこれ、私が描いたんですよ」

ほぉ、それはすごいじゃないですか、宮澤さんは絵も描かれるんですね」

「はい、絵も描きます。恥もかきますし、冷や汗なんて、しょっちゅうかいてます」

 などと、講演会でよく使うギャグを披露したところで…ガラガラガラッ!と勢いよく引き戸が開いた。

「あぁ!な〜んだ。ドアの前でウロウロしている影が見えたから、不審者かと思ったら、宮澤さんか」

「ふ、不審者って・・・ったく。あ、こちら津屋さん。津屋さん、こちらは『くろがね倶楽部』の事務局のM原さんです」

「どうも、初めましてM原です。あの、大山街道を歩かれた話はずっと読んでました。大変ですねぇ、宮澤さんと一緒に歩くのは。お疲れになりませんか?」

「そんな余計な質問はいいから、資料館の鍵を開けてくださいよ」
「はいはい。じゃ、ちょっと待っててくださいね」

「ね、冷や汗かくでしょ」

 くろがね倶楽部の教室は、運動や集会ができるように真ん中が広く空けてある。

「もう一人、K戸さんという女性がいるんですけど。二人とも鉄小学校の元PTA会長なんです」

「そうでしたか。PTAを卒業してからも、こうしてボランティアで学校に関わるなんて、よほど子どもが好きなんですね」

「くろがね倶楽部は、地域住民のふれあいの場ということで、地域の人たちにも開放しているんですよ。子どもだけでなく、本人曰く、鉄の町が好きなんですね」

平三郎先生ふたたび
 郷土資料館には、養蚕や機織りの機械を中心に、一般の農具や生活用品が整理されて展示されている。すべて地元(鉄町、大場町、寺家町、黒須田など)の農家から提供していただいたものだ。

  

「懐かしいものばかりですね。あ、囲炉裏ですか!」

 教室の一番奥の隅に一段高くなった板の間があり、囲炉裏や濡れ縁、上がり框(がまち)まで設えてある。

「道具を見ていると、やはり、この地域は養蚕が盛んだったということはよくわかりますねぇ」

 気がつくと、津屋さんがメガネを外して、壁にかかっている標本らしきものを食い入るように眺めている。

「宮澤さん、これは『繊維や織物の鑑別としみ抜き方法解説標本』ですね。そしてこっちは『生絲の種類と応用品標本』です。この標本は、農家が持っていたものではありませんねぇ」

「確かにそうですね。あ、こっちの壁には繭玉の標本…ですね」

 ガラスの額の中に沢山の繭玉が不揃いに並べられている。

「あっ、津屋さん。み、水野平三郎ですよ」

 繭玉の標本の隣に、表彰状らしき額があり、そこには、この土地に養蚕指導を行った平三郎水野先生の名前が記されていた。

                                             高丸
 
 

 

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