■ひろたりあん通信バックナンバー
▼2014年4月号 
地名推理ファイル歴史探偵 高丸の地名推理ファイル」
■絹の道を往く 探訪編(鉄 町)Vol.17  

新説・杉山神社考 
「遠く四国は阿波の国から海を越えてやってきた忌部(いんべ)族が房総半島に上陸、安房忌部となり、この地を根城に活動。やがて、東京湾沿岸から鶴見川流域を北上、都筑の地に移住し、祖神を祀った…というのは、郷土史研究家の戸倉英太郎さんの説なんです」

      

「戸倉さんの『杉山神社考』ですね」

「ええ、戸倉さんは、ほとんどの杉山神社を実際に歩かれ、安房忌部氏の系図や茅ヶ崎社伝…センター南駅近くにある茅ヶ崎の杉山神社の社伝のことですね。それらを細かく精査されて書かれていますから説得力があるんですよ。多くの方がその説を支持されています」

「『都筑の丘に拾う』や『古道のほとり』という著書もそうですが、戸倉さんは、本当に地道に調べられていますね」

「横浜北部の郷土史を語る上では欠かせない存在です。ただ、杉山神社に関しては、昭和三十一年に出されたその『杉山神社考』の最後に、これは現在の感想であって、最後の結論じゃない。研究はまだ終わっていない…と書かれているんですよ」

「ほぉ、終わっていない…ですか」

「残念なことに、その10年後にお亡くなりになってしまったので、感想が書き換えられることは無かったと思います。その後、飯田俊郎さんという方が、戸倉さんの意思を継ぐ形で、五年前に『私説杉山神社考』という本を出されています。戸倉さんが亡くなって以降の発掘調査の内容や三輪の椙(すぎ)山神社の伝承も絡めて書かれていて、こちらも中々面白いですよ」

「三輪ですか?じゃあ、宮澤さんの鉄仮説にもつながってきますね」

「だから、面白いんですよ」

「じゃあ、戸倉さんの説から飯田さんの説に考えが変わったということですか」

「違います、違います。それとは、まったく別の話です。以前、慶応大学の教授のKさんという方と杉山神社について話していたんですけど、その教授が『なんで、そんなに難しく考えるかなぁ。もっと単純に考えればいいじゃない』って言われたんですよ」

「もっと単純に…ですか」
「つまり、あれは川の水運を使って材木を伐り出していた人たちが、川湊近くの舌状台地の上に自分たちの神さまを祀ったんだよ!忌部氏なんて関係ないって…、あまりにも堂々と話されるので、逆に、なるほど、そういうこともあるか!って、納得してしまいました(笑)」

「それはまた強引な説ですね」

「ええ。ですが、杉山神社の祭神の五十猛命は、日本の国土に樹木のタネを蒔いた植樹の神様ですからねぇ。あり得なくはないです。それに、佐藤春夫の小説が本当なら、この辺りは鉄道の枕木の産地だったというじゃないですか…」

「ははは、枕木に杉の木は普通使いませんが…植樹の神様というのは説得力がありますね。でも、私は植樹の神様より、こちらの祠に何の神様が祀られているかのほうが興味ありますねぇ」

  津屋さんが傘を持ちかえて指を指したのは、本殿の右側に並ぶ二つの小さな祠であった。



最強の神と神

「ああ、手前の祠は、瘡守(かさもり)稲荷ですね」

 祠の横の立て札には、(古来より瘡守稲荷神社は皮膚病の神様で、明治38年鉄町の臼井太郎吉の5女ワカ3才の折、耳を病む我が子を愛しんで稲荷に祈願すると、その願いが忽ち叶い、子供の病が快癒したので、ここに瘡守稲荷を請来して塔を建立した者なり)と書かれている。

「じつはこのお稲荷さん、来る途中で話した『鉄町の管理人』というブログを書かれている臼井さんの家のお稲荷さんなんです。家はこの先の宗英寺の近くなんですが、この山のどこか別の場所にあったそうです」
「あ、鉄神社に祀られていたわけじゃないんですね」
  
「そうです。その隣の祠も別の場所に祀られていたものだと聞いています。ちなみに、そちらには大六天が祀られています」

 正確には、『山倉山大六天王尊』という。鉄町の北方の児松下という山林の中にあったそうだが、剣山地区の造成開発に伴い、東急電鉄の手によって鉄神社の境内に移したという。


「あれっ、おかしいですねぇ。祭神は素盞鳴尊(すさのおのみこと)となってます。その下に(疫病除及び山の守護神)とあります」

「宮澤さん、何がおかしいんです」

「大六天というのは仏教でいう魔王のことなんですが、謡曲の『第六天』では、群魔を従えて現れる大六天を素盞鳴尊が宝棒をもって打ちこらしめ、退散させるという話になっています。つまり、敵同士っていうことですね」

「ほぉ、そうなんですか?」
「ちなみに、大六天の身長は二里。寿命は人間の1600歳を一日として、16000歳。男女に対して自由に交婬・受胎させることができる力があり、他人の楽しみごとを自由自在に自分の楽しみに変える法力も持っている。仏道の修行者を色や欲で惑わす。つまり仏敵、欲界最強の魔王です。織田信長が大六天魔王を自ら名乗っていましたが、比叡山延暦寺や石山本願寺との戦いの中で自分の意思を表明したんでしょうね」

「く、詳しいですねぇ」



「ええ、織田信長は大っきらいですから。それより、敵であるはずのスサノオが祀られているのは解せません。確かにスサノオも最強の神様ですけど…」

「最強の魔王と最強の神様ですか…どちらが強いんですかねぇ」

「まるで、ドラゴンボールですね!」

「ドラゴン…何ですか?」

「最後は魔王と神様がフュージョン(融合)しちゃった…とか?あ、だから大六天なのに素盞鳴尊なのか!」

「・・・・・」

「あ、すいません。マンガの話です。忘れてください」

 下らないオチに刺激されたか、ドーッと、雨脚が強くなった。

「こりゃ、たまらん。やはり、引き返しましょう」



 大六天魔王の怒り、それともシェンロン…いや、スサノオミコトの祟りか、(まだ言ってる)鉄町の散策は一旦仕切りなおしということになったのであ~る。

                                             高丸

 

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