■見透かされた下心?
ひろたりあん旅倶楽部の初の試みとして催行した、香港・ベトナム・海南島クルーズも無事終えて、ほっと一息し、私の仕事に対する燃え盛る情熱と、熱帯の灼熱の太陽で火照った体をクールダウンさせるために、何かいいコースはないかと考えたところ、七月といえばさわやかな北海道、しかもラベンダーの最盛期。「これは今の私にうってつけのコースだ」それを聞いていたわがイヤミな上司が例によって口をはさみます「何を言っているんだ。暑苦しいのはおまえの太った体だけだ、おまえがいると部屋の温度が十度も上上昇するからから、早く添乗に出てくれ!」とまあ相変わらず私に対するイヤミ攻撃の情熱は、ますますヒートアップするばかりです。
七月十五日、関東の猛暑とイヤミな上司から逃れるかのごとく、お客様をお連れして、羽田空港から一路女満別空港へ。
「気候は大丈夫かな、肌寒いかもしれないから羽織るものを持って来たほうがよかったかな?」なんて考えた私がバカでした。飛行機から降りるや否や「うあーなんだこの暑さは」と一叫。
バスガイドさんも「今年の北海道は、とてもさわやかとは言えない暑さですよ」と温度計を見たら三二度、天は自分の都合でコースを組んだ私の下心を見透かしたかのように、私をあざ笑います。
■ソフトクリーム総ナメ夫人再び
三泊四日の行程の初日、まず小清水原生花園へご案内しました。小清水原生花園は六月から七月にかけて色とりどりの可憐な花が順を追って咲き乱れ、私たちが訪ねた頃はエゾカンゾウの花が見事でした。すぐ目の前にはオホーツク海が広がり、さわやかな潮風の吹く遊歩道でしばし散策を楽しみました。
散策を終えて、売店を通りかかったところ、「森本さんも召し上がってください」とソフトクリームの差し入れを受けました。実はこのお客様は昨年のひろたりあん旅倶楽部の北海道旅行で「世界中のソフトクリームを総ナメする」と豪語されたご夫人で、私の記憶によると、九州以外の日本の主要観光地やアジアを中心とした海外でもナメまくり、近い将来は欧米も制覇する予定だそうで、その野望はとどまるところをしりません。本日のソフトクリームは王道ともいえるバニラ味、湿気の少ない北海道でナメるソフトクリームの味は格別でした。
■不況にはピッタリ?
「ソフトクリーム総ナメ夫人」からの美味しい施しを受けた後、網走市内で寿司懐石の昼食をいただき、午後は「博物館網走監獄」へご案内しました。
言うまでもなくこの博物館網走監獄は、北の番外地網走刑務所の歴史のみならず、明治時代からの北海道の開拓の歴史をリアルに再現した博物館です。お客様はガイドさんの案内で一時間程度の「囚人」体験をしていただきました。「どうぞお入りください」と勧められて入ったのは、明治時代に建築された舎房(牢屋)です。間取りは三畳一間でトイレ付、三食(健康食です)ついて家賃は無料。おまけに労働もある(賃金も出ます)ので、健康的な日々が送れます。不況といわれるこのご時世にぴったりの環境です。「現在では近代化も進み、冷暖房完備ですので、皆様も是非この機会にご検討ください」というガイドさんのブラックジョークで盛りあがり、楽しく「刑務所体験」をしました。
博物館網走監獄をあとにして宿泊先の「サロマ湖東急リゾート」へ向かいました。ホテルのお部屋から眺める、サロマ湖に沈む夕日が絶景をご覧いただきたかったのですが、残念ながら空は厚い雲に覆われていて、断念せざるを得ませんでした。
■バスガイド泣かせの道
二日目はあいにくの大雨。幸いにもこの日はバス移動の時間が長い日ですので、サロマ湖からひたすら北上し、日本最北端の宗谷岬まで、雨降る大地を車窓よりご案内します。ガイドさんは「この道はガイド泣かせの道としては北海道で隋一です」つまり同じような風景が延々と続き、観光名所もなく、ただ「広大な北海道の風景を心いくまでお楽しみください」としか言うことがないそうです。ただひたすら走ること四時間、ようやく二日目の観光地、ベニヤ原生花園に着きました。道北までくると雨の気配が消え、地域によって気候が違うことに、改めて北海道の雄大さを体感していただいたというわけです。
■日本人を真剣にさせる「カニ」
ベニヤ原生花園を見学した後、お昼は日本一広い村といわれる猿払村でのホタテ料理です。この村はホタテで村おこしをするほど、天然のホタテ漁が盛んです。お客様から「ホタテはここで買った方が安くておいしいの?」と聞かれたのですが、前に宗谷岬に店を構えている知り合いの海産物屋さんに聞いたところ「どちらで買っても同じ天然のホタテですよ、ただうちの店は安いよ」と言っていました。
お客様により良いものを勧めたくなる私を添乗員の鑑と誉めてくれませんか、そこで観光とお土産の時間を兼ねて、一路日本最北端の「宗谷岬」に向かいました。
その海産物屋さんに足を運ぶと、確かにホタテが三割以上も安かったのです。その店主さん曰く「うちは特にバスガイドさんに人気が高いんですよ」北海道の観光地の隅から隅まで知り尽くしたガイドさん推奨店なら、これはまぎれもなく良店です。更に店主は「毛ガニも小さい方が身やミソがたっぷり入っているんですよ。でも内地(本州)の人は大きくて活きている毛ガニがおいしいと思っているみたいだけど実際は身が細いんですよ。活きているだけで毛ガニが高く売れるなんて、われわれにとってはありがたいけどね」店主さんの説明を真剣に聞きいっていたお客様たち、日本人のカニ好きは今にはじまったことではありませんが、カニの話になるとこうも真剣になってしまうのか、少々おかしく思った私です。
■温泉にひるんだ私
いつの間に出発時間になり最果ての旅情に浸る間もなく、宗谷岬での記念写真をさっさと済ませ、ノシャップ岬、稚内公園を廻り、日本最北端の温泉地として知る人ぞ知る、宿泊先の豊富温泉に向かいました。夕食は豪華に舟盛り、ウニやホタテ、ホッキ貝など北海道ならではの食材を堪能しました。ただ私が気になったのは、大浴場から漂ってくる強い石油の臭いです。豊富温泉はもともと石油を発掘しようとして、石油と一緒に温泉が湧き出たという由来があるのです。大浴場には透明なお湯(沸かし湯)と温泉(茶褐色でお湯の表面には油が浮いていた)の両方の用意があったのですが、気の弱い私はこの温泉に入る勇気はありませんでした。しかし女性のお客様の大半はこの「石油入り」の温泉に入られたそうです。もちろん「人体に影響はありません(旅館のスタッフ)」。
■私のように可憐な花
三日目はサロベツ原生花園観光から始まりました。お天気はものの見事に快晴、見渡すばかりの大湿原、そして地平線。遠くには海をはさんで雄大な利尻島の利尻富士がそびえ立ち、これぞまさしく北海道。湿原のところどころでは、道北の長い冬に耐え抜いたエゾカンゾウやハナショウブなどの可憐な花が咲き、短い爽やかな夏を謳歌しているかのようなその姿は、毎日毎日イヤミな上司に耐えている自分の身にも似て(?)、余計いとおしく感じられるのです。もっとも「何言ってやがるんだ、春夏秋冬謳歌しているくせに」と言われるかな?
バスは日本海オロロンラインを南下し、日本の滝百選に選ばれた「銀河・流星の滝」に寄って、層雲峡温泉へ。当日当所の気温は最高気温が二十度前後で最低気温はなんと十三度と、こんなに快適でいいのかと思うほどです。ちなみに層雲峡温泉の旅館にはクーラーは完備されていませんでした。
■「ノロッコ号」は北海道標準
四日目最終日のメインは、ラベンダー畑で有名な富良野の「ファーム富田」です。その前に北海道の爽やかな自然を「肌」でも感じていただこうと、途中旭川駅でバスを降り、JR北海道の観光列車「ノロッコ号」に乗り換えました。屋根はあっても窓がない、開放感あふれる「ノロッコ号(語源はのろのろトロッコ)」の客車での、約一時間ののんびりした旅は、雄大な北海道の時間の流れにぴったり、まさに「北海道スタンダード」です。途中美瑛駅で約二十分停車。皆様は記念撮影をしたり、ホームに降り立って旅情に浸ったりと、バス旅行では味わえない雰囲気を楽しみました。その後「ラベンダー畑」駅(そのまんまの名前ですね)で下車し、ファーム富田に着いた途端、ラベンダーが絨毯のように咲き乱れ、まさしく夏の北海道を代表する風景が視野に広がりました。お客様の反応は最高。まさに夏の爽やか北海道にふさわしい旅行が実現したというわけです。
(森 本)
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