■ひろたりあん通信旅行版
8月29日〜8月31日
  「越中おわら風の盆・前夜祭と立山黒部アルペンルート」
■「芸」は添乗員を助ける?
 ひろたりあん旅倶楽部・日本の夏祭り第三弾は「越中おわら風の盆」へのご案内です。昨年は想像を絶する混雑で、お客様を混乱させてしまいましたので、今回はなるだけ混雑をさけるために「前夜祭」の観覧としました。また長距離のバス旅行となるのでメリハリをつけるために「立山黒部アルペンルート」と組み合わせました。

 当日第一配車でバスに乗り込むと「よう元気?」歌う運転手Kさんが陽気に声をかけてきました。「森本ちゃんもひろたりあん旅倶楽部の添乗員として、歌くらいまともに歌えないとお客様が離れていっちゃうよ」要するに添乗員として生き残るために「芸」の一つや二つは持っていないと、お客様の心はつかめないとのこと。「本当はKさんがたくさん歌いたいから、そんなこと言ってんじゃないの?」「へへへ、ばれた」

 バスは中央高速をひた走り、立山黒部アルペンルートの長野県側の玄関口、扇沢に到着。ここでK運転手さん達は、私たちをバスから降ろして、回送で富山県側の玄関口立山駅へ先回り。私たちはここから六時間かけてアルペンルートを踏破するのです。

■「貼って」じゃなく「張って」
 まずは関西電力のトロリーバスで、黒部ダムへ。ダムの展望台からの景色はまさに絶景の一言。お天気にも恵まれ、気温もさほど高くなく爽やかな日和でした。 写真 ただ困ったことに私は「高所恐怖症」なのです。展望台から黒部湖のケーブルカーの駅までの長〜い階段は、壁にへばりつくようにしてしか降りられません。「あら体型のわりには臆病なのね」体型と性分とにどんな因果関係があるのでしょうか。「高所恐怖症なのに、どうしてアルペンルートなんか企画したの?」「お客様に楽しんでいただくために、私的感情を殺してまで身体を張って仕事してるんです」「身体を張るっていうのは、身体を壁に貼り付けるようにして階段を降りることなの?」ムカッ「『貼り付けて』じゃなく『張って』、身体を張っているんですっ!」「あらその割には痩せないわね」「ストレス太りですっ」そんなバカなやりとりを交わしていたおかげで、気がつくと駅に着いていました、ホッ。

 私たちはさらにケーブルカーで昼食会場の黒部平へ、さらにロープウェイで大観峰、そこからトロリーバスに乗り換え、アルペンルートの最高峰の室堂高原に着きました。ここは標高二千三百m、紫外線が強いのでサングラスは必需品、サングラスごしに見る立山連峰や、雷鳥沢の壮大な風景は圧巻でした。

■「すっきりした顔」疑惑?
 室堂を後にし、高原バスで弥陀ヶ原・美女平を経由し、バスの待つ立山駅にようやく到着。Kさんはすっきりした顔で私たちを出迎えてくれました。このすっきりした顔はもしや?とよからぬ邪推…秋田での婦人警官ナンパ疑惑といい、いつも疑惑の絶えない歌う運転手Kさんですが、実はその美声を保つために「ヴォイストレーニング」に精を出していたのだそうです。ホテルに到着するまで、運転を交代したKさんは、そのトレーニングの成果を自発的に披露してくれました。「このバスは一万二千曲入りの通信カラオケ装備なんだよ」とご機嫌のKさん「まさに動くカラオケボックスですね」と言うと「違うよ、走るコンサート会場だ」Kさんの熱唱とお客様の笑い声は宿舎まで続きました。

■添乗員冥利に尽きます
 砺波市内のホテルで夕食を済ませ、バスで「おわら風の盆」で知られる八尾町に向かいました。山あいに細長く家並みが続く坂の町、越中八尾は普段は静かな門前町です。 写真 立春から数えて二百十日にあたる日は、昔から台風の厄日とされて、その風を鎮め、豊作の祈りを込めて繰り広げられる音と踊りの響宴が「おわら風の盆」です。お客様を風の盆会場へご案内すると、いよいよ夜の町流しが始まりました。本祭りほどでないにしろ前夜祭でも想像以上の混雑ぶりで、少々閉口していたところ、後ろから「あんた添乗員さんかい?うちへおいでよ」と初老の男性に声を掛けられました。ご自宅の二階から踊りを見物させてくれるというのです。またとない機会なのでゆっくり踊りを見て、カメラにもしっかりと収めることができました。旅先で土地の方の親切さに心が温まる、添乗員になってよかった!と思える瞬間です。おじさん、ありがとうございました。

■辛抱強い?K運転手
 二日目は「五箇山合掌集落」と「白川郷」へご案内しました。世界遺産にも登録された五箇山合掌集落は、日本有数の豪雪地帯で、平家の落人伝説が伝わるかつての秘境です。更にこの五箇山は、藩制時代には加賀藩の重罪人の流刑地でもありました。今では高速道路のインターチェンジが完成したので、秘境とは言いがたくなりました。交通機関の発展が、日本から秘境を奪っていくようです。  次にご案内したのが「白川郷」の合掌造りの集落での散策です。昼食の時間を含めて二時間とりましたのでゆっくりと楽しんでいただけました。私も歌う運転手Kさんやガイドさん達と昼食を済ませ、どぶろく会館でお神酒をいただいてきました。Kさんが「このお神酒を飲んだらもっと調子のいい声が出るのになあ」とつぶやき、すかさずガイドさんが「なにバカなこと言っているのよ」乗客の命を預かる乗務員の彼らは、勤務中は夜の寝酒も含めて一切の飲酒が禁じられているのです。かなりな酒好きらしいKさん、見かけによらず案外辛抱強いようです。

■変動料金制を提案
 白川郷を出発して「白山スーパー林道」からの大パノラマを満喫していただこうと思っていたのですが、まもなく大雨が降り始め、結局霧の中をバスはゆっくりと林道を走り、三十キロ先の料金所まで何も見えないままでした。なのに通行料金はしっかり二万一千円も請求されました。これは横浜青葉ICから愛知県の小牧ICまでの料金よりも高いのです。こういう眺望を楽しむ観光道路では、天候による変動料金制を採用して欲しいと思うのは私だけでしょうか。

■そのとおりです
写真  無常にも雨足はさらに激しくなる中、二日目の宿である山中温泉の河鹿荘ロイヤルホテルに到着。夕方近くのチェックインなので二日分の疲れを、ゆっくり癒していただきました。このホテルは温泉街の中心にあるので、散策には最適です。さらに客室のバルコニーからは鶴仙渓の絶景が眺められ、心と身体が癒されそうです。山中温泉といえば、以前「料理の鉄人」という番組で、初代「和の鉄人」の称号を与えられた道場六三郎さんの郷里でもあります。その縁もあってか、このホテルの料理長は道場さんのお店で修行していた愛弟子で(彼も山中温泉が郷里です)、鉄人の味を受け継いだ料理の味の方は好評で、多くの常連さんの心を離さないそうです。

写真  いよいよ夕食の時間、お客様が席に着くや否や「これが和食なの」と驚かれたのは、フランス料理を思わせるようなお皿の盛付け。でも食べてみると確かに和食です。あっさりとした薄味の中にも濃厚なコクがあって、お客様の反応は最高。次から次へと出てくる創作料理に驚きと歓声が湧きあがりました。あるお客様から「森本さんが太っている原因がわかったわ。世界中歩き廻って美味しいものばかり食べているせいなのね」そう言われてしまうと身もフタもありません。美味しいものを食べることが、旅行の醍醐味の一つであれば、いい加減なものを出すわけにはいきませんので、いつも食事には神経を使います。「あら言いわけがお上手ね、そんなに神経を使ってもその体型を維持しているんだから、よっぽど美味しいものをたくさん召し上がっているのね」はいはい、そのとおりです。

■甦った悲しい記憶
 三日目はゆっくりの出発で帰路に就きました。途中高山市内で昼食を兼ねて、屋台会館や古い街並み自由散策しました。高山別院の駐車場で、Kさんたちと待機していると、妙にテンションの高い元美女のお年寄りの集団が…、聞いてみるとこの方々は宮城県から来た四十〜五十人程度のグループだそうで、道案内した帰り際、元美女(推定平均年齢は七十一歳)に囲まれ握手を求められました。すかさずKさんが「いや〜森本ちゃんもてるね」「Kさんほどじゃないですよ」「俺は二十〜二十八歳の未婚の女性にだけもてれば、それでいいんだ」以前私が冗談で「ホストにでもなろうかな」と言ったところ、あるお客様から「シルバー世代のホストなら勤まるかもね」と返された、悲しい記憶が甦ったのでした。
                                          (森 本)
▼2001・8・5〜8・8へ

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