■一種の盲点
秋は紅葉の見頃を求めて、やれ上高地だ、やれ日光だとか朝早くからバスに乗って東西南北駈けずりまわるのが旅行業界人の性というもの、でも「灯台元暗し」と申しますか、近場の魅力的なコースの紹介を怠っていたことに突然気がついたのでした。普通なら一泊はしたい観光地を日帰りで、お手軽なお値段でご案内してきましたが、お客様の中には「早朝の出発は慌しい」とか「家族を送り出してからじゃなければ家を空けられないわ」といった意見もあるようで、そんな朝寝坊な…もとい、家族思いの世の奥様方の息抜きになればと企画したのが「東京ベイクルージングとお台場散策」です。おなじみの観光スポットなのですが、意外と近いので何時でも行けるという感覚がかえって一度も足を運んだことがないという結果を導き、私にとっても一種の「盲点」でありました。
■記念すべき瞬間
出発の三〜四日前から、戦後最大級の台風が上陸するとの情報が飛び交い始め、こともあろうに催行する日に直撃するらしいとのこと、出発前夜まで参加者からの問い合わせに追われ、船会社と話し合いの結果、予定どおり催行することにしました。「本当に大丈夫なの」「私を信用してください。大丈夫です」数年前はよく雨男と罵られていたのを思い出しますが、今回の台風は私の責任ではありません。確かに台風は予報どおりに上陸しましたが、当日は私の予想通り朝方には「台風一過」に相応しいほど天候に恵まれましたのですから。
そうであれば早速営業活動です。前夜キャンセルされたお客様に早速ご連絡し「今日はさんさんと降り注ぐ太陽と青い空で、すばらしい天気となりましたが、それでもキャンセルなさいますか?」「いいえ行きます、行かせてください」雨男との噂が、完全に撲滅された記念すべき瞬間です。
■船上の優雅なランチ
家事を済ませた主婦の皆さまを大勢乗せたバスは、走ること約一時間でランチクルーズの乗船場所、天王洲アイルにあるクリスタルヨットクラブに到着しました。
専用桟橋から出港した船(正確に言うとモーターヨット)はレインボーブリッジの下をすり抜け湾上へ、東京ベイサイドの景色を眺めながらの、九十分間のクルージングです。出港して早速優雅なランチタイム。前菜、スープ、メインディッシュ、ドリンク、デザートビュッフェと盛りだくさんの内容。「東京ってこんなに楽しいところだったとは知らなかったわ」。身近なところに魅力的な名所が隠されているなんて新たな発見でした。
船を降りて、次に向かったのが「お台場」です。お客様の大半はフジテレビ本社ビルに向かいます。五階のスタジオプロムナードには一般開放の見学コースがあります。運がよければごひいきの芸能人とニアミスするかもしれません。その期待がお客様の足を向かわせたのかもしれませんね。
■完全犯罪計画崩壊
もちろんお台場はフジテレビだけではありません。ヴィーナスフォートやパレットタウン、デックス東京ビーチなど東京観光の注目最前線のベイエリア、それがお台場なのです。私は今回の旅行記のネタにするために、カメラを片手にお台場をうろうろしていました。たまたまレインボーブリッジの方をみるとなぜか「自由の女神」の像が見えました。お台場と自由の女神とどういう因果関係があるかは知りませんが「よし、この写真を使って、日帰りでニューヨークへ行ってきたことにしよう」なんて悪魔的なアイデアが閃きました。早速自由の女神像をアップで撮るべく、望遠レンズをカバンから取り出そうとしたのですが、運悪く忘れてきたことに気づき、結局「レプリカの自由の女神とレインボーブリッジ」といかにもお台場らしい写真ができあがったというわけです。「日帰りで行くニューヨーク」も断念、数万人の読者の皆さまをだます…という完全犯罪計画は幸か不幸か未然に防がれたわけです。悪いことはできないものですね。
秋分の日が過ぎてから日が落ちる時間も早くなり、一行はお台場を後にし、ご主人や子供たちを家に迎えるために、家路に向かっていきました。
(森 本)
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