■ひろたりあん通信旅行版
10月23日〜10月24日
   「紅葉の立山黒部アルペンルートと黒部渓谷トロッコ電車」
■「死語」でない理由
 言葉というものはある種生き物で、「流行語」としてもてはやされた言葉も、時代の波に流されて、いつしか「死」を迎えることも往々にあります。たとえば「おばたりあん」という言葉、いつの間にか「死語」となって、ある世代以上の方の心に奥に「ノスタルジア(?)」として残っているに過ぎません。ところが、わがひろたりあん旅倶楽部の同行記の上では、今なおそのイメージのままに、健在しているという事実があります。

写真  秋の行楽といえば、紅葉狩り、その中でも「立山黒部アルペンルート」ははずせません。出発の前日、バス会社に最終確認したところ「明日のバスガイドはMさんでいきますから、よろしくお願いします」「えっ…」と持っている受話器を落とすほどの衝撃を受けてしまいました。 Mさんといえば、一時期旅倶楽部の旅行で旋風を起こした、自他とも認める「おばたりあんバスガイド」です。世間では「死語」と化した「おばたりあん」なる言葉が、この同行記上では未だ頻出するのは、このMさんのおかげ(?)なのです。一年ぶりの彼女の毒舌攻撃を、どう反撃しようかとあれこれ考えているうちに、出発前夜は更けていきました。

■豊島区ではありません
 「あら森本ちゃん久しぶりね、若いバスガイドと浮気でもしてたの?」「うん、それでようやくMさんの魅力に気がついたよ」「まあ、嬉しいこといってくれるね」「一年歳をとると、少しは嘘もうまくなるんだ」「あら、言ってくれるわね、この生焼けのアンパンマンめっ」「おばたりあん、化粧を落とせばエイリアン」当日お客様がバスにご乗車される前に、エールを交換した私たちでした。

 バスが出発したあと、Mさんがご挨拶。「皆様おはようございます。私の名前は杉並マリ子と申します。東京の杉並区と同じ名前です。私がおばたりあんだからといって決して豊島(年増)区ではありません」お客様は大爆笑。「こんないい加減なバスガイドと、いい加減な添乗員が二日間皆様のお世話致します。どうか寛大な心で見守ってください」気配りこそ信条の私を、彼女と同類扱いにしないで欲しいものです。

■死ねたら本望?
 バスは順調に中央道をひた走り、アルペンルートの玄関口の扇沢駅へ向かいます。走行中「自慢じゃないですが、わがバス会社の運転手は皆、仕事を天職と思っています。特に彼はよく『運転しながら死ねたら本望だ』と言っているくらいです」とMさんの毒舌は尽きません。

 いつの間にかアルペンルートの長野県側の玄関口「扇沢駅」に到着。雲一つなく青空が広がり、ちょうど見頃の紅葉がとても鮮やかでした。期待に胸を膨らませ(私はお腹が膨れていますが…)一行はバスを降り、立山黒部アルペンルートを完走します。ここで私にとって朗報、バスガイドのMさんは、運転手さん二人で立山駅へバスを回送するのでしばしのお別れです。「二人で愛を語らってくるわね」運転手さんの表情がにわかに引きつったように見えたのは、気のせいでしょうか?「運転しながら死ねたら本望…」という彼の言葉が暗示的に思えた私でした。 写真

 さて、扇沢から関西電力のトロリーバスに乗り込み、約十五分で黒部ダムに到着。高さ日本一を誇るアーチ式ドーム型ダムの上を散策しながら、ケーブルカーの駅である黒部湖駅へ向かいます。実はアルペンルートはここからスタートするのです。駅員さんのユーモアあふれるアルペンルートの説明に、聞き入るお客様。しかし駅員さんには立山黒部アルペンルートの写真集の「営業」という下心があったようです。話が終わると駅員さんたちが一声に「写真集いかがですか〜」と熱心なセールス展開。大半の方は「ああそういうことだったのね」と苦笑しながら購入していました。

■天も震える?
 ケーブルカーに乗り込み標高差五百mある黒部平に到着。ここで昼食、散策のあと、一本の支柱のないロープウェイに乗り込み大観峰駅へ。ここまでくると標高二千mを越えています。そして更に大観峰から立山トンネルを走るトロリーバスに乗ること十分、室堂高原に到着すると、気温はマイナス1℃、辺りは数センチの雪が積もっていました。自称おばたりあんバスガイドのMさんの寒いジョークに天も震えたのか、紅葉の立山黒部アルペンルートは初雪も楽しむことができました。室堂高原から高原バスで一気に美女平まで約千三百m下り、あとは立山ケーブルカーでMさんたちが待つ立山駅へ。「森本ちゃんがいないからとても寂しかったよ」マイナス1℃の室道高原でも平気だった、私の保温力に優れた(?)身体が、Mさんの一言で震え出しました。

■勝負の行方は?
 予定通りに宿泊するホテルに到着。お客様の夕食のご案内をしていると、突然私の携帯電話が鳴りました。イヤミな上司からじゃなければいいけど…と緊張して出ると、イヤミな上司ならぬ、イヤミなバスガイドの声が…「森本ちゃん、私たちのごはんはまだ〜」とMさんは図々しい。「われわれお客の食事だけじゃなく、Mさんの食事の世話までしなくてはいけないなんて大変だね」とやさしいお客様から同情される始末。「いいえ、大変なのは食事の世話よりも、食事のあとです」すると何を勘違いしたのか、「ふ〜ん相変わらず仲がいいんだね。あんたたちの愛の語らいを邪魔しちゃ悪いから、早くいってあげなよ」「違います、愛の殴り合いです」このあとの無制限一本勝負、ブッチャー森本VSオバタリック・マリコの、その勝負の行方については、皆様のご想像におまかせします。

■窓なし?窓あり?窓際?
 翌日は黒部峡谷のトロッコ電車に乗車しての紅葉狩りです。昨夜の死闘の疲れもなんのその、おばたりあんバスガイドMさんの爽やかなモーニングコールで現実に引き戻された私は、なぜなんでしょうか身体の節々が痛い。それにしても、よりによってMさんの声で目が覚めるとは今日も不吉な予感がします。

 バスは九時に出発。一路トロッコ電車の起点である宇奈月駅へ向かいます。この日も天気はパーフェクト。申し分ありません。しかし、私の朝の不吉な予感は現実のものとなってしまったのです。先日黒部峡谷鉄道の起点宇奈月駅から十四キロ先の鐘釣駅付近で、崩落事故が発生したというのです。恐るべしMさん。結局宇奈月の駅から九キロ地点での折り返し運転で、我慢せざるを得ませんでした。

写真  黒部峡谷のトロッコ電車には普通車、特別車、リラックス車両があります。普通車は黒部ダムの作業員が山篭りするときに乗るようなベンチシートが連なっている貨車みたいなものですが、「特別車とリラックス車両はどう違うの」まだ企画の段階で駅員さんに電話で尋ねたところ「特別車は自動ドアが付いています」「じゃあリラックス車両は?」「普通車と比べてリラックスできます」「…」実際は普通車は窓なし(吹きっさらし)、特別車は窓付き、リラックス車は窓付き&座席がゆったり、ということらしいです。「そうか、普通車が居酒屋で、特別車がスナック、リラックス車は高級クラブみたいなものだな」これは酒好きなイヤミな上司の弁。「あんたは窓なしならぬ『窓際』」とは言えませんけどね。

 肝心の紅葉にはまだ少し早く、十一月の連休が一番の見頃だそうです。ただその時期ですとアルペンルートがだんだん雪に埋もれてしまい、最悪の場合は途中駅で置き去りになりかねません。いくらこんな体型といっても、雪だるまにはなりたくありません。

■終点は「姨捨(おばすて)」?
 宇奈月駅付近で昼食後、帰路につきました。黒部インターから北陸道をひた走り、横浜を目指します。もっとも走りっぱなしというわけにもいきませんので、二時間に一回くらいは休憩をとります。運転手さんの「次の休憩場所は長野自動車道の『姨捨』サービスエリアでいいですか?」の言葉に、Mさんの顔が急に引きつったのを見逃す私ではありません。 写真 『姨捨』サービスエリアが近づくと彼女は「本日は当社の観光バスをご利用いただきましてありがとうございました。このバスは姨捨サービスエリアで終点とさせていただきます。森本さんの指示で私たち女性は、ここで捨てられます。お忘れ物のないよう、お気をつけくださいませ」「…」

 バスは姨捨サービスエリアに到着。お客様が全員降りると「森本ちゃん、最後のお別れに記念撮影してくれる?」Mさんの後ろには『姨捨』と書かれたバス停の看板が。まったくわが上司に勝るとも劣らないイヤミぶりです。すると運転手さんが出てきて、金色夜叉の貫一さながらにMさんを足蹴にするポーズをとってくれました。

「お〜い全員バスに乗っているよ」との声にわれわれ三人は慌ててバスに乗り込み、「仏の森本」は結局誰一人「捨てる」ことなく出発しました。

■運が悪ければ…
 「久しぶりアレをやろうよ」Mさんが取り出したのは、ひろたりあん旅倶楽部名物の「綾小路きみまろ」さんの漫談CD。爆笑の嵐で、二日間のたびを締めくくりました。

「今度はいつ会えるかしら」「運がよければね」本当は今度会える時は私の運の悪い時…と言いたい私でした。「若いバスガイドに手を出したら承知しないわよ」やっぱり『姨捨』に捨ててくればよかったかな。
                                     (森 本)
▼2002・10・5〜10・7へ

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