■「ヤケクソ」が正解です
初夏のハイキングコースとして、尾瀬ヶ原をご案内しました。尾瀬といえば水芭蕉、その水芭蕉が見頃の五月下旬に設定したのですが、ただひとつ気がかりなのは、ゴールデンウィーク時のニュースで「尾瀬の水芭蕉が咲き始めました」と報道されたこと。「なんだよ〜また花に愛想尽かれるのか」今年の異常気象に翻弄される私は悄然としたのですが「この際、水芭蕉が咲いてようがいまいが、純粋にハイキングを楽しんでいただこう。それに尾瀬は自然の宝庫だから、ニッコウキスゲが咲いているかもしれない」と開き直る始末。もっともニッコウキスゲの見頃は七月、いくら異常気象とはいえ、五月末に咲くことはありません、要するに開き直るというより「ヤケクソ」が正解です。
募集広告で「水芭蕉の花が咲いている」とか「ニッコウキスゲが咲いている遥かな尾瀬ハイキング」とうたったら「うそつきの森本」と責められるのは火を見るより明らかですので、単に「尾瀬ヶ原ハイキング」としましたが、それでも、二日間でバス五台の盛況振りです。
■予知能力?
今回はお客様にゆっくりと尾瀬を満喫していただくために早朝出発。渋滞に巻き込まれまいと、後続馬に追われる逃げ馬のように、バスに鞭打って、ようやく関越道にたどり着き一安心したところ、突然の雨の洗礼。お米の雨(ライスシャワー…そういえばそんな名前の名馬がいました)なら、私たちに対する祝福となりますが、本物の雨は私たちに対する試練でしょうか、雑談していたお客様の声がピタッと止み、急に静まりかえったのは何故でしょう?実はこの日、関東一円は雨模様、横浜でもかなりまとまった雨が降ったようです。
「出発した時は晴れていたのに」と恨めしそうなお客様に「大丈夫ですよ、尾瀬に着いたら雨はやんでいるかもしれませんよ」と宥めた私は「重馬場」に強いのが数少ない取柄です。それでも心の中で「あーあ鳩待峠に着いても雨だったら、何て言い訳しようかな」ブーイング慣れしているとはいえ、やはり気は重いものです。でも実は私には強い味方があったのです。
バスは沼田インターで関越道を降り、一路尾瀬の入山口である鳩待峠に向かいます。先ほどまでの強い雨が、戸倉を過ぎた頃ピタリとやみ、急に晴れてきたのです。「あら不思議、森本さんは予知能力があるのかしら」「そうです、私には先見の明があるのです」と言いきったのですが、そんなものを持っていたら、もっと出世しているはずです。本当は携帯電話のインターネット機能で、リアルタイムな天気情報を入手していたのです。 早朝の出発が功を奏し、十時過ぎに鳩待峠に到着。お待ちかねの尾瀬ヶ原ハイキングの始まりです。出発後しばらく急な階段が続き、渓流に沿って歩くこと三十分、お客様から大歓声が…水のほとりに咲いている水芭蕉の群落を発見したのです。一番喜んだのは、もちろん私です。
■「夏の思い出」誕生秘話
「夏が来れば思い出す/遥かな尾瀬遠い空…」名曲「夏の思い出」は、作詞をした江間章子さんが、戦時中食料物資を求めて、木炭バスに揺られてこの地を訪れた折り、目の前に広がる水芭蕉の群生に息を呑んだ体験を、戦後詩にしたことで誕生しました。明日が見えない暗い時代、疲弊した彼女が尾瀬の自然を通して見たのは、明日への希望だったのでしょうか。水芭蕉の咲く尾瀬の清廉な自然は、さまざまなしがらみの中で生きざるを得ない私たちの内面を浄化してくれるのです。
さらに小一時間ほど歩くと休憩場やお手洗いのある山の鼻に到着。尾瀬ヶ原をひたすら歩く人、植物研究見本園を散策する人など、五時間のフリータイムをとることができました。
お昼過ぎに雲行きが怪しくなり突然雷雨となりました。「大丈夫ですよ。三十分もたたないうちに雨は止みますよ」という私の予言どおりに二十分後に青空が戻ってきました。「どうして森本さんは天気がピタリと当たるの?」もちろん携帯電話のインターネット情報のおかげですが、お客様には内緒です。
■ダイエット企画ではありません
山の鼻をあとにしてバスの待つ鳩待峠に戻りました。日頃運動不足のツケが回ってきたのか、最後の階段にはかなりまいりました。お客様が「仕事でダイエットができるなんてうらやましいわ」私の運動不足解消のためにこの企画を立てたわけではありません、誤解しないでくださいね。
お客様全員無事にバスに戻り帰路に就いた途端、雨が激しく降ってきました。
(森 本)
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