■人件費を削るということは…
旅行の企画に頭を悩ませつづける私がつくづく感じるのが「人の好みは十人十色」だということ。昨年の人気コースが今年も人気コースになるという考えは甘いようで、時代の傾向や趨勢を見極めつつ、新しい旅行のあり方を提案していかなければなりません。最近の旅行市場に出回るツアーの傾向として「激安」で消費者を興味を喚起させ、そのくせ内容は本来の「観光」とはかけ離れたものも見受けられます。「観光」とは「光」を見る、つまりその土地の経済や文化を見て共感するというのが本来の意味だそうです。その原点を常に意識し、さらに時代の流行を加味していくのが当旅倶楽部の、というより私のポリシーなのです。
そんなわけで「話題性があって、しかも超激安料金でご提供できる観光コース」と考えたのが大河ドラマ「利家とまつ」で話題の金沢と、世界遺産の白川郷と五箇山合掌集落との合わせ技です。食事もお客様各自で好きな時間に、好きなだけ食べて、好きなだけお金を払って(?)交通費と宿泊費だけで一万二千円。お値段でお客様に満足していただく方法もあなどれません。「もっと安くできないのか」「もうギリギリです」「じゃあ人件費を削ろうか、おまえの給料をカットしよう」「…」上司の給料をカットした方が、もっと価格を下げられるのに…。
■バスは乗り放題です
当日は早朝六時の出発、中央道で、世界遺産白川郷へ一直線。出発して四時間、バスは松本インターを降りて上高地へ向かう国道へ。「あら白川郷は上高地に近いのね」「いえここから更に四時間かかります」「えっ、まだそんなに…?」聖地といわれる上高地よりも更に山深いところに白川郷はあります。もっとも人の手が簡単に加えられない秘境だからこそ、ユネスコの世界遺産に登録されるわけです。なにしろあの日本を代表する富士山が世界遺産に登録されないのは、人間が出すゴミが原因だといわれているのですから。
白川郷の到着は二時、八時間ものバス乗り放題の旅、お疲れ様でした。ここで昼食と合掌集落の散策を楽しんだ後、同じく世界遺産の五箇山の合掌集落へ向かいます。まさに世界遺産・合掌集落のオンパレード。一日で二箇所の世界遺産を案内するなんて粋なことをするでしょ(誰もほめない)。五箇山の合掌集落は、白川郷に比べ観光化されていないところが魅力です。庭先に洗濯物が干してあるような、生活感が漂うところが旅人の心ををホッとさせたりするのです。
■「遺産」に指定しないで
また五箇山は有名な民謡「こきりこ」の故郷でもあります。伝承によるとこきりこは大化の改新の頃から田楽として歌い継がれてきた舞踊唄。こきりこ(筑子)とは約二十三pに切った細い竹のことで、唄に合わせて打ち鳴らす一種の楽器です。上梨地区の白川宮の祭礼の際には、このこきりこの唄に合わせ、女性の「しで踊り」、ささら(南京玉すだれのような楽器)を持って勇壮に踊る男性の「ささら踊り」、何も持たずに踊る「手踊り」の三種の踊りが奉納されます。長い間外部から隔絶された五箇山だからこそ、合掌家屋や古民謡が遺産として残されたのですね。「おまえも、会社の遺産に指定してやろうか」この意味深な上司の一言が、誉め言葉でないのは明白です。
五箇山から一時間弱で金沢市内に到着。翌日の出発時間までは自由行動で、各自で金沢市内のガイドマップを片手に繰り出していった様子です。
■見ている者が興奮します
翌日はまず兼六園や金沢城址公園・長町武家屋敷跡などを自由散策。どこもホテルから徒歩圏内なのでのんびり見学できます。。次に九谷焼の窯元にご案内。一つ百五十円の物から国宝レベルの三千万円の物まで、品揃えは豊富。あるお客様が「三千万円の九谷焼はどこ?」と店員さんに尋ねていました。その後購入に向けてかなり突っ込んだ話を始めて、見ている私の方が興奮してきました。「実際に購入される方もいますよ。展示物ではなく商品ですから」と店長。ただ残念ながら、商談の結末は定かではありません。
昼食を済ませ一路帰路。長旅の退屈しのぎに秘蔵テープ(旅倶楽部名物の綾小路きみまろさんの毒舌漫談)を流すと、車中は大爆笑の渦。涙を流してヒイヒイ笑う人、笑いを堪えて顔が引きつっている人、足をじたばたさせながら笑う人、中には核心をつかれムスッとする人も(怒りたくても怒れない?)と笑い方にも個性があるなと思っているうちに、バスはすでに静岡県に入っていて、あと三時間弱でバス旅行も終わりです。
(森 本)
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