■ひろたりあん通信旅行版
3月7日〜3月9日
     「あつみ温泉 最上川舟下り芭蕉ラインとクルーズ客船『飛鳥』」
■船会社の社員だけに…
 気温と景気の冷え込みのため、苦戦を強いられているわがひろたりあん旅倶楽部ですが、相も変わらず苦言だけはポンポン出るけど、アイデアは一切出さないイヤミな上司がいて、私の苦闘に拍車をかけます。でも「捨てる神あれば拾う神…」で、おだて上手の郵船クルーズの営業の方が助け舟、さすが船会社の社員です。「森本さん、早春のクルーズはいかがですか。皆様のご満足、間違いないですよ」

 しかしこのご時世にもかかわらず集客力抜群の『飛鳥』、本来なら私の方が無理を言ってお願いする立場で、ある意味断るのが仕事とも言える彼が、売り込むなんてどんなコースなんだろう…少し不安です。「仙台から横浜に帰ってくるコースです、ひろたりあんバス旅行の締めくくりに飛鳥のご利用はいかがですか」要するに出航時は満席だけど、帰航時なら多少席を用意できるとのこと。「じゃあ横浜から仙台まではどうするの?」「行きの手配は、有能添乗員の森本さんに全てお任せします」「…」

 そんな折り、取引先のバス会社から「今度新車を導入しますので、是非積極展開してみませんか」との提案。このバスは通常四五名乗りのところを、約半分の二四席に絞った豪華版、これなら私のごとき体重の不自由な人?もゆったり座れます。そこで「あつみ温泉、最上川舟下り芭蕉ラインとクルーズ客船『飛鳥』」ができあがったわけです。

■そういう問題でしょうか?
写真  催行当日はあいにくのお天気。バスは環状八号線、関越道をひた走り、燕三条にて昼食休憩した後、新潟県村上市にある鮭の博物館「イヨボヤ会館」を訪れました。鮭の街として有名な越後の村上、イヨボヤとはこの地方の方言で「魚の中の魚」の意味があり、もちろんそれは鮭を指します。ここでは鮭の一生を辿る映画もありました。誕生から出産そして死を迎えるまでを綴った内容です。特に献身的な鮭の産卵シーン、産卵することに命を懸けて、力尽きて昇天していく。生命の尊厳というか、はかなさというか、感動的な光景でした。隣にいたガイドさんに「子孫繁栄のために一生を捧げるなんて鮭って健気だね」と感傷的に言うと「それなら、私は子供が二人いるから三回生まれ変わったことになるわね」と豪語。生命の尊厳はともかく、はかなさの微塵すらありません。「ちぇっ、せっかくの感傷が台無しだよ…」「何言ってんの、あんただって塩鮭もイクラも食べるでしょ」そういう問題でしょうか?

 もっとも、激動の昭和をくぐり抜けてきた女性たちのたくましさは、彼女や旅倶楽部の女性のお客様を例にとるまでもありませんが…。

■さすが『飛鳥』は豪華?
 日本海の景勝地「笹川流れ」を横目にバスは山形県に入り、夕方前にはあつみ温泉で三百余年の伝統を誇る名宿「萬国屋」に到着。温泉で旅の疲れを癒し、山形名物の米沢牛のしゃぶしゃぶ(とろけるほど美味しかった)や日本海の幸や、庄内地方の美味しいご飯に皆さん舌鼓。写真

 翌日、強い風の音で目が覚めると、外は吹雪いていました。本日は東北地方を横断して、仙台で『飛鳥』に乗船の予定、「このままじゃヤバいかも…」と不安を抱えたまま旅館を出発。 雪の中を走ること約二時間、ようやく最上川舟下り、芭蕉ラインの船着場に到着。ここから松尾芭蕉が辿った最上川を一時間かけて下っていきます。冬ということもあり、舟は屋形船のような屋根つきです。「森本さん、さすが『飛鳥』は豪華だねえ」もちろん、これはお客様の冗談です。

■女船頭さんの名調子
 昼食は舟の上で山形名物の「芋煮鍋」で、濁酒に持ち込み、雪見酒をを楽しむお客様もいて、宴は除々に盛りあがります。船頭はなんと若い女性で「エンヤコラマーガセ」の最上川舟唄を日本語、英語、更には韓国語でも唄ってくれました。「世界中からお客さんがこの最上川の舟下りを楽しみにくるんだ。インターナショナルだべ?」と女船頭さんの話に爆笑。「外人さん、特にアメリカ人や韓国人がこの舟さ乗るんだベ。日本の民謡を聞いてもわがらねーから、舟唄を英語と韓国語で歌っているんだけど、とぐに韓国語は何がなんだかわがんねーべ。でも皆楽しんでけろ」

 山形弁丸だしの話ぶりに、お客様たちはとってもご満悦。 「最上川といったら松尾芭蕉だべ『閑さや岩に染み入る蝉の声』アメリカ人なんて俳句わがんねーから英語で訳すと『Silent seeping at the very lock the cicada voice』て言うんだべ。おら博学だろ。でもおらカタカナでしか覚えてねーから、あとはお客さん達が自分でスペルを覚えてけろ」
 またまた大爆笑。笑い転げている間に舟は下船場に到着しました。

■煩悩の塊?
 午後は山寺・立石寺のご案内です。先ほど川下りの女船頭さんの話に出たように、ここは松尾芭蕉ゆかりの地、「奥の細道」の名句「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」が詠まれた場所としても有名で、開山千百年余りの歴史を持つ天台宗の名刹です。

写真  バス車内で「奥の院へ行かれる方は、私がご案内致します」とバスガイドさんは意気揚々。その気迫に圧倒されたのか、大半の方が麓から頂上の奥の院までの千十五段の石段を登ることを決意されました。「当然森本さんにも登っていただきます。煩悩の塊のような人ですからね」案の定、鉾先は私へ…。でもやります。二月に私の代わりに旅行記を埋めてくれた編集鬼キャップが「体型的に不自由な森本が、ハイキングや山歩きの企画を立てることは滅多にない…」と公言したせいで、世間様に誤解(?)を招いてしまいましたが、リベンジを果たすには絶好の機会、身軽なステップを披露したいと思います。

■汚名挽回の証明
 バスは山寺に到着。このあたりは今回の行程の中では一番雪が深かったようです。あまりの積雪具合に運転手さんが「森本さん本当に山寺に登るの?」さすがに躊躇する私の横からバスガイドさんが「当然よ、これから私たちはデートなのよ、さあ行くわよ」なんと余計なことを…。 添乗先でバスガイドさんに尻をひっぱたかれ、家に帰れば奥さんに尻をひっぱたかれ、会社ではイヤミな上司や編集キャップに苦言を浴びせられ、ホント痩せる思いです(思いだけですが…)。思いだけでなく、身の方もせめて何百グラムかでも痩せることができればと、いざ山寺征服に挑むことを決意しました。「森本さんご愁傷様」と合掌する運転手さんのその対象は、立石寺なのか私なのか判断しかねます。

 山門をくぐるとお寺の職員さんが「あんた達、そんな格好で登るのかい?」となかば呆れ顔。バスガイドさんは当然制服姿、私もスーツ姿ですが、汚名返上のためには身なりなんかにかまっちゃいられません。  決死の覚悟で登り始めれば、石段は雪に埋もれ、参拝者が歩いた跡で石段はアイスバーンの坂道状態。ほとんどのお客様が身の安全と出発時間を考慮して途中で引き返す中、結局負けず嫌いのバスガイドさんと、意地っ張りの私だけが杖を頼りに頂上の奥の院を目指したのでした。  それでも何とか無事に奥の院へ。水墨画のような下界の光景を、私が体型的に不自由でなかった「証明」として写真に収めることができました。「あら森本さん、足が震えてるわよ、もしかして高所恐怖症?」(あんた意外と臆病ね、ウフフ)とでも言いたげな彼女の不敵な笑みは、彼女の負けず嫌いの「証明」でしょうか。

■「み〜た〜な〜」
写真 「さあ戻ろうか…」ところが足元を見ると石段はスキーのジャンプ台状態。スキーを履けば一気に滑り降りて、時間短縮をはかれそうですが、もとより私はジャンプが得意ではありません。しかし「飛鳥」の出港時間もあり、登り以上に決死の覚悟で下山。かなり雪に埋もれた階段の手すりを命綱にして下っていると突然「ぎゃー」という凄まじい女性の叫び声が…。その声が山々に反響したせいか、樹木に積もっていた雪が私の頭にドサッ(ギャグマンガみたいですね)。雪男状態で振り向くと、尻餅をついたしかめっ面のわが旅倶楽部のバスガイドさんのあられもないない姿が目に入りました。彼女はバス車中ではとても愛想も品もよく、お客様の間で評判の女性ですが、はしたない叫び声とその形相は、とても同一人物とは思えません。「森本さん『女性』の一番見られたくない姿をしっかり見たわね。あとで復讐するから覚えておきなさい」別に見たくて見たわけではないのに…。

■バスガイドさんの復讐
 約一名を除き、何とか無事にバスに戻り、一行は「飛鳥」の待つ仙台港へ。港が近くなってきた頃、ガイドさんが恨めしそうね声で「ずるいわ、森本さん仕事とはいえ『飛鳥』に乗船できるなんて。さっき見てはならないものを見たんだから、せめて『飛鳥』限定のお土産を買ってきてね。ただし安物だったら承知しないわよ!」なんだ復讐ってこのことか?「皆様にお願いがあります。皆様でしっかり森本さんを監視してくださいね。お客様を放ったらかしにして、カジノでギャンブルするような人ですよ。そんなときは『そのお金でガイドさんへのお土産を買ってあげなさい』と叱ってください」車中は拍手の渦に包まれたのです。

■売れっ子芸人?
 バスを降りていよいよ皆さんお待ちかねの『飛鳥』に乗船。バスを降りると、このコースの提案で私に助け舟を出してくれた郵船クルーズの営業の方も、クルーと一緒にお出迎えしてくれました。乗船前に「森本さんの場合は、タキシードがないと乗船拒否させていただきます」私を売れない漫談芸人とでも思っているのでしょうか?もっとも私も私で、芸人でもないのに、きちんとタキシードを持参してきていました。「本当に持ってきたんですか?今回のドレスコードはカジュアルですよ」さすがの彼も呆れ顔です。「じゃあタキシードはやめて、私もカジュアルな格好にしようかな?」「せっかく持ってきたんですからタキシードでお客様をお迎えしてください。森本さんの芸を…、いやタキシード姿を皆様楽しみにされていますよ」と相変わらずおだて上手な彼、その話術で私のような純真無垢な旅行関係者をだましまくる、敏腕営業マンなのです。

『飛鳥』は定刻の十九時より前に仙台港を出港。どうやら低気圧の影響で早めの出航となったようです。

 さて、夕食の時間となりました。先ほどの経緯のとおり、この日のドレスコードはカジュアルなのに、私森本だけに課せられたドレスコードはフォーマル。タキシードに身を包みいざダイニングルームへ向かうとお客様は大爆笑(なんで笑われるの?)。もちろん郵船クルーズの営業マンもお腹を抱えて笑っています。「登場しただけで笑いを取れるなんて、売れっ子芸人みたいですね」そりゃ「売れない芸人」といわれるよりはましかもしれませんが…。 「私との記念撮影は一回三千円、握手は二千円です」というジョーク(?)にもかかわらず、ほぼ全員のお客様に記念撮影を求められました。これでかなり小遣い稼ぎができたと言いたいところですが、人のいい私は結局撮影代の請求はできませんでした。 写真

■お客様をとらないでよ
 会話も弾む楽しい食事をしていると、『飛鳥』ならではの粋な計らいがありました。わが旅倶楽部のお客様のおひとりが乗船当日にお誕生日を迎えたということで、飛鳥クルー達からの祝福を受けたのです。ご当人はもちろん、周りの皆様も感激のご様子。「いいなあ、私も『飛鳥』で誕生日を迎えたいわ」するとすかさず、かの敏腕営業マンが口を挟みます「ちなみにお誕生日はいつですか?」「四月よ」「毎年四月は世界一周に出てしまいますので、世界一周のコースにご参加されない限り実現できませんね」「あらやだ、ちなみにおいくら」「おひとり様最低三九〇万円のステートルームから最高は一七〇〇万円のロイヤルスイートルームまであります。お申込みの際はご連絡ください。私自らが祝福させていただきます」「何してくれるの?」「タキシードも着て売れない漫談芸人姿でサービスもします」おいおい、うちの大事なお客様をとらないでよ。

■勇退クルーズセレモニーに感激
 洋食フルコースの夕食が終わり、華麗なプロダクションショーを堪能したあと、今航海の飛鳥船長である幡野船長の、勇退クルーズのセレモニーがありました。幡野船長は八年前に飛鳥五代船長に就任。世界一周クルーズも四度指揮をとられた大ベテラン。このクルーズが最後の指揮を取る航海だそうです。船長の挨拶のあと、歌手の伊東ゆかりさんが一曲披露されてお客様は大歓声。最後に皆様と記念撮影。幡野船長との最初で最後の記念撮影で、皆様の今回の旅行が思い出深いものとなったようです。

 翌日はお昼過ぎまで雄大な太平洋をクルージング。昨日とうって変わって素晴らしいお天気に恵まれ、飛鳥船上から、富士山や八ヶ岳までがよく見えました。

写真■危機一髪でした
 旅倶楽部のお客様は私の顔を見るたびに「バスガイドさんのお土産は買ったの?」「買っていません。冗談でしょう」「きっと横浜港で彼女が待っているわよ」「そんなバカな、そんなヒマじゃないでしょう」「とにかく買ってあげなさい!」お客様に叱られ、船内限定のお土産を「保険」だと思い買い求め、下船の準備をした私です。

 十四時に横浜港に到着。お客様より先に下船し、ターミナルを歩いていたら、殺気…もとい熱い視線を感じました。「まさか…」するとお客様の予言通り、昨日まで一緒にいたはずのガイドさんがお出迎え。「森本さん、私との約束は忘れてはいないわよね」その鬼気迫る声に後ずさりしつつ、すかさず、さっき買ったばかりのお土産を渡すと、手のひらを返したように、えびす顔に変身。危機一髪でした。

 次々と下船してくるお客様に「皆様の素敵な笑顔が見たくて、お休みとって横浜港に来ました」予想外な演出にお客様も感激。でも本当の目的は、彼女の手にしっかりと握られたお土産だったのかも知れません。
                                         (森 本)
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