■あんたが理由なの!
長かったエーゲ海と地中海を周遊するクルーズも無事終了。ヨーロッパでは観測史上最大の猛暑に直撃し、体型的に暑さが苦手な私にとって、地獄に墜ちた気分を味わった半月間でした。もう暑いのはこりごり、猛暑のヨーロッパの次は爽やかな夏の立山黒部アルペンルートへのご案内です。通常、立山黒部アルペンルートといえば長野県の扇沢から富山県の立山まで、いろいろな乗り物を乗り継いで横断するコースですが、今回はアルペンルートの最高地点二四五〇mの室堂高原に位置する「ホテル立山」に宿泊するコースです。
出発前夜、バス会社に連絡をとり書類を確認したところ、四月に催行した「雪の大谷を歩く立山黒部アルペンルートで同行した意地悪バスガイドさんの名前が目に入り、再び地獄に引きずり墜とされたような気分です。
翌朝、重たい足取りでバスの配車場所に向かうと、かのバスガイドさんが悪魔のように微笑みます。「あら森本さん、ご無沙汰してたわね。別のバスガイドさんと浮気でもしていたの?」「しばらくの間ヨーロッパに添乗に行ってただけだよ」「さては何か問題起こして、海外逃亡ね」「…」海外逃亡の理由の一つはあんたなんだよ!、と言ってやりたいところですが…仕返しが怖いし。「今回もいじめてあげるから。私をほったらかしにしたバツよ、この黒こげアンパンマン」と宣言されてしまいました。やれやれ。
■人使いが荒いなあ
私たちを乗せたバスは中央道をひた走り、途中くろよんロイヤルホテルで昼食をとってから、アルペンルートの玄関口扇沢に到着。ここでトロリーバスに乗り換えます。「皆様の乗車券を買ってまいりますから、しばらくお待ちください」天使?のような優しい声で案内するガイドさんが、私の方を向くや否や豹変。地獄の底から響くような声で「森本、早く乗車券を買ってこいっ!」とまさに奴隷扱い。「まったく人使いが荒いんだから」「人使い?それは勘違いよ、あんたを人と思ってないもの。まあ、ダイエットに貢献してやってるんだから、せめて感謝しなさいよ」「…」
私たちの不毛な会話を聞いていたお客様が「旅行記に登場するバスガイドさんってあなたなの?」「何のことでしょうか?」ととぼけるガイドさん。「森本さんが、バスガイドさんにコキ使われるのがおもしろそうで参加してみたけど、実話だったのね」ガイドさんの殺人的な視線は、当然私へと向けられます。
扇沢からトロリーバスで黒部ダムへ、そして黒部平まではケーブルカーで移動。大観峰まではロープウェイ、そして室堂まではまたトロリーバスに乗り継ぎ、夕方前にはホテル立山に到着。
■神様も愛想尽かし?
神々が宿る山と古くから崇められている霊山・立山ですが、到着した時は霧がかかって辺りの景色は何も見えません。山の神様から「なんだ、お前たちまた来たのか?」と愛想尽かしされたような、そんな天候です。「雪の大谷の時も雨だったよね。バスガイドさんは雨女じゃないの?」「せめて雪女って言いなさいよ、全く女心がわかっていないんだから」「雪女?共通点はお化けだってことぐらいだね」飽きもせず、犬も食わないようなケンカを続けていると、突然硫黄の匂いがしてきました。「硫黄の匂いがすると晴れるんですよ」とはホテルのスタッフの方の弁。私たちの聞き苦しい雑音にうんざりした山の神様が、私たちを黙らせようとしたのかもしれません、夕方には霧がとれて、夕食後にはとても綺麗な星空が見えました。
「こんな星空見たことがない」一人の世界に浸っていると、突然暗闇の中から「星空よりも私の方が綺麗よ」と聞いたことのある女性の声がしましたが、君子危うきに近寄らず、無視するに限ります。
■気分は雲上人
翌日は澄み渡った青い空、眼下には雲海も見え、まさに気分は雲上の人です。出発は十時なので、朝早くに室堂平やみくりが池を散策された方もいらっしゃいました。ホテル立山のある室堂高原をあとにしてバスで走ること二十分、弥陀ヶ原高原に到着。専任ナチュラリストのガイドによる高原散策です。下界ではとっくに時期の過ぎた、水芭蕉の花が咲くこのあたりは、まさに高山植物の宝庫で、訪れる人を魅了してやみません。そしてなによりもお天気に恵まれ、爽やかな散策が楽しめました。 弥陀ヶ原で昼食をとったあと、午後は称名滝へご案内の予定でしたが、土砂災害復旧工事のため展望台までで通行止め。結局称名滝が間近に見られる場所まで案内した後、バスは帰路に就きました。 (森 本)
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