■二十世紀最後の旅行
ひろたりあん旅倶楽部二十世紀最後の旅行は、赤字覚悟の出血大サービス企画として交通費と一泊二食の宿泊代込みで一万八千五百円の北陸旅行。二十世紀の疲れを温泉で癒していただき、新世紀のお祝いの膳を北陸で買物したご馳走で彩っていただきたいという企画です。「北陸まで行って一泊二食それもカニ食べ放題なんて、どうしたらそんな企画ができるの?」そこは末席ながらも旅行業界に身を置く私としては、お客様にオトクな旅行を提供するために、情報収集は絶えず欠かさないように心がけています。私としては会心のコースをご用意したつもりですが、この私の腕をどう評価するかはお客様次第ということで本題に入りましょうか。
バスは東名、名神、北陸道をただただひた走り、福井県の鯖江ICでようやく降りました。冬の旅行でいつも悩まされるのが日の出、日の入りの時間で、福井県までは約六百キロも離れているので、目的の観光地に何とか間に合うように設定に苦労しました。
■ユーモアがあるなあ
最初の観光地は「越前水仙の里公園」です。水仙といえば三月に催行した日帰りバスツアーで「実相寺のらっぱ水仙」を観賞するはずが、まだ花が咲いておらず「実相寺のニラ観賞」と皮肉を言われたことがよみがえりました。
実は出発日前日、私の上司に「わざわざ福井県までニラ観賞に行くのか?おまえのツアーはいつもユーモアがあるなあ」と皮肉を言われてしまいました。実は一週間前に下見に行ったときは花は全然咲いてなくて、お客様にどう説明(言い訳?)しようか迷っていたのです。バスの中で「開花が例年よりも遅れていますので、今回は割り切って水仙の香りがするニラ観賞を楽しんでください」とご案内したのですが、私の予想に反し、多少ながらも水仙の花は咲いていまして、バスの中は歓声の渦、まばらな花でも大きな感動、お客様に過度な期待を抱かせなかったことが功を奏したようで、この手法は今後重宝しそうです。越前岬は予想外にも気温が十五度まで上がり、ぽかぽか陽気の中で、福井県の県花でもある(知らなかった)水仙を満喫することができました。
■悪酔いしてもいいんですか?
水仙の里公園をあとにして日没寸前の東尋坊に立ち寄ってから、宿泊先の東尋坊温泉に到着しました。「夕食は六時三十分からです。時間になりましたら宴会場にお越しください」とご案内したにもかかわらず、六時頃にはすでに十名の方が夕食会場で「森本さん、ごはんまだ?」とまあ相変わらず食いしん坊集団の、ひろたりあん旅倶楽部のお客様たちです。
お待たせしました、ずわいカニの食べ放題の夕食です。存分にご賞味ください。あるリピーターのお客様から「森本さんしゃべり疲れたみたいだからこれ飲んで」とコップを手渡されたので、一気飲みをしたらなんと日本酒だったのです。それから前後左右のお客様だけではなく、一番遠い席のお客様からも「森本さん、オレの酒が飲めねえのかよ」とまで言われ、結局ビールや日本酒のお酌攻撃を浴び、お酒が弱い私(本当なんです)は頭が朦朧とし、顔も赤く火照り、とても仕事ができるような状態ではありません。
「森本さんにもう少しお酒飲ませれば裸踊りするのになあ」と趣味の悪いお客様のコメント。「私の裸踊りなんかみたら悪酔いしてしまいますよ」と逃げ足だけは速い私は、ホテルの方から呼ばれたのをこれ幸いに、宴会場から逃走したのです。
■身もふたもありません
翌日は金沢の近江町市場でのお買い物。「金沢市民の台所」といわれるだけあって、ズワイガニや旬のブリをはじめとした日本海の魚介類が所狭しと並ぶ姿は壮観です。
お客様がお買い物を楽しんでいる間、私は近江町市場の食堂で昼食をとりました。鯖の塩焼きとカキフライ定食を注文したのですが、身も締まり、脂ものって久しぶりにおいしい魚を食べました。冬の日本海の荒波にもまれた魚の味には緊張感というか、締まりがありますね。「それに比べておまえの体は…」と言われたら、身もふたもありませんが…。
たくさんの魚介類のお買い物を積んで、バスは帰路へ。一泊二日で北陸の往復は千三百キロ(横浜〜熊本間と同じ距離)にもなり、「カニ食べ放題・バス乗り放題」の旅でしたが、二十世紀最後のバス旅行を無事締めくくったというわけです。
(森 本)
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