■真打登場!
最近企画した旅行は、晴天に恵まれることが多く、添乗員としての運勢が上向いてきているようです。ツキまくって調子に乗っているうちに、このツキを使い切ってしまわないと、いつまた再び忌まわしい「雨男」との呼び声が復活するともしれません。昨年は雨が降ったり、見頃の時期になっても花が咲いてなかったりして、不評続きだった「ひろたりあん旅倶楽部花紀行」ですが、こういう登り調子のときこそやってみるべき企画で、早咲きの河津桜や、水戸偕楽園の「梅観賞」と、好調さを持続しています。そして今回はいよいよ真打登場、日本人の心の花、桜、日本一の桜の名所ととえば「吉野山の千本桜」を挙げても異論はありませんね。
■バスガイドはおばたりあん
当日、バスに乗り込もうとする私を出迎えてくれたのは、二月の「湯西川温泉」のツアーで一緒だったバスガイドのMさん(参加されたお客様ならすぐわかります)でした。子供の頃はバスガイドさんはみんな若いおねえさんだったように記憶していますが、最近はそうでもないようで、実はこのMさんはこの道三十年以上の大ベテラン、その磨き込まれた話芸は、旅慣れたメンバーの皆様の心をもつかんで放しません。そんなガイドのMさんの唯一の難点は「ひろたりあん」という名称の持つ意味について誤解しているということです。例えばホテルなど業者関係の方からの「ひろたりあんってどういう意味ですか?」という質問に「本当は『おばたりあん』と名前をつけたかったのだけど、世間体が悪いから会社名を使って『ひろたりあん旅倶楽部』とごまかしているのよ」と答える始末です。車中での朝の挨拶も「ひろたりあん旅倶楽部の皆様、おはようございます。ガイドの私はおばたりあんです」と時代遅れのおばたりあんギャグを飛ばし、不思議とお客様にウケていました。
■「シカト」しないでよ
おばたりあんバスガイドさんが車内を盛り上げてくれる中、バスは東名道、東名阪道、名阪国道を経由して、お昼過ぎに一日目の観光地である奈良公園に到着。バスを東大寺の大仏殿の駐車場に停めたあと、皆で自由散策を楽しみました。
奈良公園といったら「鹿」ですが、早速私達を出迎えたてくれるのかと思ったらソッポを向いていました。こんな態度のことを「シカト」する、といいますが、この言葉は花札の紅葉(十月)の札の絵柄にある鹿がソッポを向いているのが語源になっているといいます。「シカ」と「トウ(十月)」が繋がって「シカト」になったというわけです。奈良公園で鹿と記念撮影するには、近くの売店で「鹿せんべい」を買い、そのせんべいを鹿に与えると群れを寄せてやってくるので、その隙を狙うのがコツです。でも「鹿せんべい」がなくなると、さーと潮が引くように散ってしまいます。鹿は人懐っこいのでなく「現金」な動物なのです。そんな鹿にいつまでも「シカト」されているのもシャクなので、私も「鹿せんべい」で鹿を呼び寄せてお客様の記念撮影をお手伝いしました。「あらま、森本さんは鹿の扱いが上手だわね」鹿を使って点数稼ぎをする私も「現金」な動物なのでしょうか?
■ここは日本なの?
その後も東大寺(境内の枝垂れ桜が満開で見事でした)南大門や二月堂、春日大社などを散策して、一路大阪市内のホテルへ向かいました。今回宿泊先は「ザ・リッツ・カールトン大阪」、アメリカを拠点に世界三十五ヵ所にある最高級ホテルチェーンです。日本では唯一この大阪にあるだけで、旅行業に携わる身としてこんな話題性の高いホテルを見逃すわけにはいきません。十八世紀の英国の貴族の館をイメージしたこのホテルに「このホテルでは枕銭(チップ)は必要なの?」と、海外を訪れたかのような錯覚を感じる方もいらっしゃいました。
その夜、お客様同士の交流を深めるため、ホテル内の地中海料理レストランで夕食会を設けました。アメリカ人の専属ミュージシャンによるピアノとアコーディオンの生演奏、ここでも日本(しかもコテコテの大阪)にいることを忘れさせてくれるシブイ演出に、夜は心地よく更けていったのです。
■実は夜桜見物?
二日目は今回の旅行のハイライトと言える「吉野山千本桜」観賞です。このコースを企画する際、一番懸念していたのがこの吉野山までの道路の大渋滞で、桜が咲くこのシーズンは大阪市内を朝出発しても、吉野山に到着するのころには日が暮れることもざらだとの情報を聞きましたが、まさか「実は夜桜見物だったんです」とごまかすわけにもいきません。事前に役場や警察などに問い合わせた結果、結局近鉄特急で吉野山へご案内するのが無難との結論に至りました。
もちろん電車には渋滞はなく、大阪の阿部野橋から一時間十分の吉野山に向かったのです。渋滞よりもっと危惧していたのが「昨年の開花時期より一週間も早く設定して大丈夫かな」ということです。日本中の「桜マニア」が集まるこの時期に宿泊先が取れたということは、この期間に開花する可能性が低いことを保証(?)されているようなものです。出発前から桜の開花予想の情報を、入念にチェックしていましたが全く予想がつかず、「咲くときには咲くから、もうどうにでもなれ」とまな板の上の鯉の心境、あとは最近の自分のツキのに賭けるのみ!というのですから、いささか無責任ではあります。
■気分は遠山の金さん
特急電車を降りて駅を出たとき、最初に私の眼に飛び込んできたのは、絢爛と呼ぶにふさわしい吉野山の千本桜の風景でした。吉野山は最高の見頃を迎え桜は満開でした。皆さんも言葉を失って、ただただ「すごい」「すごい」の連発。もちろん天気は晴れ。もう完璧としか言いようのない桜鑑賞、電車を使ったおかげで、予定よりも早めの到着で、日本一の吉野山の千本桜をゆっくりとご堪能していただくことができました。私はまだツキに見放されてはいなかったのです。
強い風が吹くと吉野山は桜吹雪に霞み、まさにテレビの時代劇「遠山の金さん」を思い出すような風景(発想が貧困ですね)で、とても情緒ある桜鑑賞となりました。余談ですが吉野山をあとにして飛鳥の名所めぐりへ向かう途中、私の予感通り吉野山へ向かうバスが連なり渋滞していました。たぶん夜桜見物の組でしょうね。
■「たこ焼懐石」に脱帽
飛鳥で昼食を済ませてから、石舞台古墳、飛鳥寺、そして高松塚古墳を廻りました。「飛鳥はとてものんびりしていていいですね」と私が言うと、お客さまのお一人が「あら私の家の裏と似たようなもんよ」この方は「寺家ふるさと村」の近くにお住まいで、毎日のんびり散策されているそうです。
吉野山と飛鳥を廻り、あるお客様の万歩計は約一万七千歩を超え、皆さんひたすら歩き疲れたご様子で、ホテルに戻るバス車内は寝息でとても静かでした。
二日目ともなると、お客様どうし気の合う仲間ができるもので、夕食はそんなグループをタクシーでミナミの道頓堀へとご案内しました。意外にも夜の大阪の繁華街を歩くのは初めての方が多く、まあせっかく大阪に来たのだから、夕食はたこ焼です。もちろん、屋台でたこ焼を買ってそれを夕食にしたのではありません。上品に「たこ焼懐石」を出してくれるお店に入ったのです。まずたこの煮付の前菜から始まって、たこの酢の物、たこのスープ、焼き物は醤油味のたこ焼と明石焼(ダシで食べます)、たこ焼の串焼き(たこ焼のまわりをのりで巻いて串に刺して炭火で焼いた料理)など、さすが食いだおれの街大阪、たこ焼の懐石料理という発想には脱帽です。
■ひろたりあんVSおばたりあん
一日目、二日目と慌しかったので三日目はゆっくりとホテルで過ごしていただき、十時三十分に出発。法隆寺のある斑鳩の里を自由散策し、昼食を済ませて帰路に就きました。
「ひろたりあん旅倶楽部の桜観賞、来週は高遠の小彼岸桜です」と車内で紹介すると、今回の旅行を盛り上げてくれたおばたりあんガイドのMさんが、「またあんたと会うわね」「?」バス会社の来週の彼女のシフト表(スケジュール)には、また「ひろたりあん旅倶楽部、担当森本様」と書いてありました。あーあ、またおばたりあんギャグの連続攻撃に、寒い思いをしなければいけないのでしょうか。
(森 本)
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